第7話 裸の関係?
何事もなく無事に家に帰ることが出来た。魔物に途中襲われたが、瞬きをする間にルドルフが片付けてくれたおかげで事なきを得た。
ご飯をお腹いっぱい食べた後に突然運動をしたことで、エリーゼはトイレで盛大に吐いた。俺はエリーゼの背中をさする。エリーゼは「ありがとう」と一言礼を言ってくれた。好きな子に礼を言われるのって何よりも気持ちの良いものだな。
しばらく吐いて落ち着いたので、もう寝る支度を始める。
俺はそれほどの量食べていたかったため何ともない。
火流と水流の合魔術でお湯を張る。前まではピッとボタンを押して数分待たなければならなかったのに、この世界に来てからは入りたい時に3秒でお湯を張れる。シ○カちゃんもにっこりだ。
この前は火流魔術を合わせるのを忘れていて、水風呂に浸かったこともあったな。最近は慣れてきて、そんなミスも無くなってきた。
服を脱ぎ、体を洗い、湯船にイン。素晴らしい湯加減だ。我ながら上出来。
それにしても、本当に最近はエリーゼのこと以外考えられなくなってきた。四六時中、彼女のことで頭がいっぱい。
「あー……どうすりゃいいんだよ……」
呟いた瞬間だった。
風呂の扉が、開いたのだ。
誰だろう。ルドルフかロトアだろうか。それともーーー
「ーーーはあ。やっとお風呂に入れるわ……」
エリーゼだ。エリーゼが入ってきてしまった。
まずい。これはマジでまずい。彼女はきっと、今何も着ていない。裸を見る訳には行かない。絶対に目を開けてはならない。
咄嗟にお湯の中に潜ったが、この体の肺活量では、もう限界が来てしまう。息が出来ずに顔を上げて、エリーゼの裸を見てしまい、縁を切られて出ていかれる。ああ。終わりだ。
……そうだ。俺には魔術がある。潜伏魔術がある!
「……
水の中で呟き、姿を消す。そして、顔を出そう。しかし、いくら息が出来ないからと言って、突然顔を上げては、想定している最悪の事態になりかねない。
ゆっくりだ。ゆっくり、顔を上げる。音を立てないように、ゆっくり。
そして俺は、顔を上げることに成功した。
頭から流れてくるお湯が煩わしいが、我慢する。目を閉じたまま、ゆっくり立ち上がる。
音を立てないように、そっと湯船から脱出成功。俺、忍者の才能でもあるんじゃないか。
「ベル……」
それを聞いた瞬間、俺は一瞬、集中が途切れた。
……そして、潜伏魔術は解除された。
終わりだ。
「い、いやああああああああ!」
エリーゼは、本当にいじめられていたのかを疑ってしまうほどに鋭いパンチで、俺を殴り飛ばした。
痛みなんかより先に、エリーゼの声が俺の心を抉った。
「……最低」
終わった。終わったんだ。もう全てがどうでもいい。
間違いなく、嫌われた。
最後に聞いた一言が、脳内で再生される。
『最低』というこの2文字だけで、俺はこれまでで1番の喪失感と絶望感を覚える。
もう何も、考えたくない。
ーーーエリーゼ視点ーーー
さっきはやりすぎた。完全にやりすぎた。
大体、あたしはいつもこうだ。何か自分にとって都合の悪いことが起きたら、すぐに手が出てしまう。本当に悪いところだ。
謝りたい。今回は間違いなく、あたしが悪い。
でも、怖い。
きっとこれで、嫌われたから。話しかけるのが、怖い。
でもこの空気に耐えられなくて家を出ていってしまえば、見つかって城に連れ戻される。それは嫌だ。
何と傲慢なのだろう。これもあたしの悪いところ。
お風呂を出たらどうしよう。そうだ。ルドルフさんかロトアさんに相談しよう。
ーーー
「……と、いうわけなのよ」
さっき起きたことを全て説明した。ちなみにあたしの悲鳴は、2人で買い物に出ていたため聞こえていなかったらしい。
「うーん……確かに、どっちもどっちだな」
ルドルフさんは何か勘違いをしている。悪いのはあたしだけ。確かにベルの服はカゴの中に入っていた。お風呂を出る時に確認した。出る時に、だ。
ロトアさんも、どっちもどっちだと言った。だから、悪いのはあたしだけだって言ってるじゃない。ベルは悪くなんてない。あたしは思わず、机を叩きそうになった。
いけない。悪い所が出るところだった。
「……ちなみに、ベルはどこ?」
「さてな。家に帰ってきたら、もうベルはいなかった」
「……!まさか、出ていったんじゃ……」
最悪の事態が頭をよぎる。あたしが嫌いになって、この家になんていられないと言って、出ていってしまったのかもしれない。
「大丈夫よー。ベルは部屋にいたわー」
……安心した。出ていったわけではないのね。
「で、エリーゼ様はどうしたいんだ?」
「どうしたいって……そりゃ、謝りたいわ。でも、怖いの」
「……嫌われたかもしれないから、謝るのが怖いってことね」
ロトアに指摘される。図星だ。あたしは嫌われた。だから、謝るのが怖い。
「でもな、エリーゼ様。嫌われたから、謝らないというのは、違うよ」
「そんなの、わかってる。でも、怖いの。怖いものは、怖いのよ」
これは紛れもない本音だ。あたしだって、ベルに謝りたい。
あたしはベルが好き。助けてくれた時から、ずっと好き。
自分でもわかっている。ベルはきっと許してくれるって。
でも、心のどこかにある恐怖心が消えてくれない。
「私たちも昔、1度だけ喧嘩したことがあったわねー」
「ああ、あったな、そんなこと」
こんなに喧嘩とは無縁そうな2人も、喧嘩をすることがあったのか。まあ、2人とも人間だ。そういうこともあるだろう。
「それで、どうやって仲直りしたの?」
単純に疑問だ。どうやって仲直りしたのか。
ルドルフが口を開く前に、ロトアが口を開いた。
「私たちはねー。喧嘩をした時、一緒に寝たのよー」
……なるほど。そんなことか。
それくらい、いつもやっていることだ。
いや待て。今は話しかけることすら躊躇うくらいよ。一緒に寝るなんて以ての外。
「絶対に無理よ!」
「でも、いつも一緒に寝てるじゃないか」
「……話しかけるのが怖いのに、どうやって寝ろって言うのよ」
ルドルフとロトアは困った顔をしている。……と思っていたのは、どうやらあたしだけらしい。
2人は表情一つ変えずに、
「エリーゼ様。自分が悪いと思えているなら、まずは謝ることが大切だ」
「ーーー話しかけるのが怖いって言ってるじゃなーーー」
「ーーーエリーゼ」
あたしはまた、同じ過ちを繰り返しかけた。
城でお父様と喧嘩をした時も、こうやってあたしが頭ごなしに言い返したからこういうことになった。
……ルドルフさん、今あたしのことを初めて呼び捨てにした……
「ベルは、エリーゼ様のことを嫌いになんてならないと思うぞ」
「私もそう思うわー」
この2人は何を根拠にそんなことが言えるのだろう。
にやにやしているし、きっとあたしのことをからかってるんだわ。
今あたしは真面目に相談しているのに。
「とにかく、今夜も今まで変わらず、一緒に寝なさい」
「……」
「明日の朝、仲直り出来たか聞かせてね」
……もう、頑固になる必要は無い気がしてきた。
謝るだけよ。謝るだけのことが、何がそんなに難しいのよ。
例え許してくれなくても、許して貰えるように頑張ればいいだけじゃない。
……決めた。今からベルに謝ろう。
何か決心ような顔をしたエリーゼを見て、ルドルフとロトアは顔を見合わせ、にっこりと微笑んで、
「謝ってらっしゃい」
「……うん」
背中を押してくれた2人に返事をして、ベルの部屋に向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます