第198話 野次馬の中に紛れていた者
「はっ。特別犯罪捜査官殿ときたら、とんでもない代物に乗ってくるじゃないか」
アンナが乗っている代物を目にしたメリアは、呆れ混じりな様子でアンナへと通信を入れる。
電子戦のできる戦闘機ともなれば、かなりの高級品。
少なくとも特別犯罪捜査官以外の立場、それもかなり厄介なのをアンナが持っていることは確実と言える。
「これでも共和国の宇宙軍に所属しているからね?」
「ただ所属しているだけじゃあなさそうだけども」
「そこは言えない部分もあるから、深く聞かないでほしいわ」
「まあいいさ。今優先すべきは、野次馬に紛れてるオラージュの者を捕まえること。その際、一般人の野次馬を余分に捕まえても、これは仕方ない」
「あらまあ、乱暴ね」
「殺しはしない。むしろ向こうから感謝の言葉を受け取りたいくらいだよ」
軽口を言い合いながらも、メリアを中心に一部の戦力が艦隊から分離し、野次馬たちへと迫る。
当然、逃げようとする者ばかりだが、アンカーを打ち込むことで簡単には逃げられないようにしていく。
「ち、ちょっと、何を! 自分たちはあなたたちに何もしてないですよ!」
「こちとら、一般人を殺すつもりはない。抵抗すると船の損傷が増えて修理代が増えるが。少し、野次馬の皆さんには付き合ってもらいたいことがあってねぇ」
「うぅ、わかりましたよ。逃げないんで船の損傷増やすの勘弁してください」
メリアの説得、というよりの脅しによって野次馬のほとんどは渋々ながら動きを止める。
だが、あくまでも逃げようとする船が存在したため、ファーナの動かす無人の宇宙船が手加減しながら攻撃を加え、無理矢理に動きを止めた。
「メリア、一つお願いが。野次馬たちを一ヶ所にまとめてくれる?」
「何をするつもりだい」
「まずは通信できないようジャミング。戦闘機に搭載できる程度の装備だと範囲がね? そのあとは、そちらにお任せするわ」
「わかった」
野次馬たちは一ヶ所にまとめられ、そのあとアンナによってジャミングが行われる。
これで通信ができなくなったが、それは自分たちも同じこと。
なので、船ごとにケーブルを繋ぐことで有線での通信ができるようにした。
「さあて、ゆっくりと尋問をしていこうじゃないか。……ここが済んだら、あっちもしないといけないしね」
ヒューケラの操縦席に座ったまま、メリアは野次馬とは別の場所を見る。
小さな画面に映し出されるのは、ヴィクターが襲撃をしたオラージュの艦隊。
勝敗が決した時点でほとんどが逃げていたが、ブリッジを制圧されたのか、数隻の船だけその場に留まっている。
「ほら、ちゃっちゃと吐きな」
「ひいぃ……」
尋問といってもそこまで厳しいものではない。
適当にメリアが武器をちらつかせながら脅すだけでしかなく、本命は船に対する調査である。
船に残っている情報を吸い上げ、解析し、あとは乗っていた者の言動と照らし合わせていくという地道なもの。
普通なら時間がかかるが、ファーナという人工知能がいるのですぐに対応できる。
「……少しいいですか? 解析がいくらか完了しました」
「おい、あたしはちょっと用事があるから外す。お前はこいつを脅しとけ」
「はいはいー。私にお任せあれ。人に尋問とかやってみたかったんですよねー」
尋問の最中、ファーナからの通信が入ってくると、メリアはその場をルニウに任せて誰もいない一室に移動する。
「何かわかったことは?」
「ほとんどは一般人の船ですが、一隻だけ怪しいのがありました。オラージュとの通信記録が断片的に残っていたんです。消したけれど完全には消えなかったみたいで」
「大当たり、と。よし、一般の野次馬はルニウやアンナに適当に任せるとして、オラージュの奴はあたしらで対応する」
野次馬の中に紛れていたオラージュの船。
その船に乗っていた者を作業機械によって無理矢理連れてくると、メリアは宇宙服とヘルメット姿のまま、武器を弄りつつ話しかける。
「適当に座るといい。長くなるかもしれないから」
「……おいおい、一般人にこんなことして星間連合の軍が黙っていると思うのか」
「へえ? オラージュという犯罪組織と通信していたのに一般人とは、なかなか面白いことを言う」
既に証拠は掴んでいる。
オラージュとの断片的な通信を、目の前で再生してみせると、その顔には焦りが浮かび始める。
「馬鹿な……完全に消したはず」
「機械ってのも完璧じゃない。わずかに残っていた部分を、うちのできる奴が拾い上げてね」
「……何が望みだ?」
「教授と呼ばれる者の居場所」
数十秒にも渡る沈黙が辺りを包み込む。
言うべきか、言わずにいるべきか。
そんな葛藤に対して、メリアは微動だにせず相手を見つめていた。
それは無言の圧力として相手に作用し、沈黙を破る効果を発揮する。
「……あんたは、あの人が何をするのか理解していて、その邪魔をするのか」
「研究がしたいならすればいい。だけど、返してもらうべき者がいる」
本当は、舐めた真似をしてくれたので落とし前をつけるつもりでいるが、それを正直に話しても相手の口が硬くなるだけなので、その部分については伏せていた。
「白い髪と赤い目をしたあの子と共に、とある基地にいる」
「その基地の場所は?」
「わからない。組織のトップである教授からの命令は、いくつか迂回する形で届く」
「居場所を知っていそうな者について心当たりは?」
「……言うと思っているのか?」
それは警戒混じりの言葉。しかし、どこか弱々しさも感じられる。
よく見ると虚勢を張っている姿であり、メリアは軽く息を吐くと頭を振った。
「その様子からすると知らないか。ちっ、下っ端じゃ話にならないね」
「俺は、このあとどうなる……?」
「情報があるならそれと引き換えに見逃すという選択が取れるが、情報がないんじゃ、殺すしかない。オラージュという組織に痛手を与えるためにも」
「…………」
「死にたくないなら、教授に繋がる情報を言え。言えるものがないなら、このまま死んでもらう」
ビームブラスターが突きつけられる。
もちろん、殺傷設定に切り替えた上で。
引き金にかけている指を軽く動かすだけで、オラージュの下っ端の命は消え去るだろう。
少しずつ指が動き、もうすぐでビームが放たれるというその時、非常に険しい表情ながらも口が動き、声が発せられる。
「……一つ、一つだけ、教授に繋がるかもしれないものがある」
「それは?」
「教授は様々なところとの繋がりを持っている。それに加えて多額の支援も。しかし、支援に対して成果の発表などを行わないと、継続して貰い続けることはできない。なので、どこかで支援者に対して、教授自身が発表や説明などを行う機会がある」
「ふむ。見返りを求めて支援するわけだ。そうなると、いつまでも貰いっぱなしというわけにもいかない。嫌でも動くべき場面が出てくるか」
「もういいだろう」
「いいや。事が済むまで捕まってもらう。命を取りはしないから、安心するといい」
逃がせば、教授の警戒が強まってしまうだけ。
最悪の場合、ずっと閉じこもって時間を稼ぐということができてしまう。
「とりあえず、お金持ちの動きに目を向けるか。ファーナ」
「はい」
「話は聞いていただろ。目ぼしい奴らをリストにしてまとめてくれ。ついでに、客船などの航行についても」
「早めに動かないといけないですね」
次の方針は決まった。
オラージュの拠点がある星系、組織の保有する大型船がどこにいたのか。
その他にも様々な情報を組み合わせていくことで、少しずつ範囲を絞っていく。
そして数日後、一つの豪華客船に目星をつける。
その船の名前は、エミラテス。
乗客の定員や乗組員の数には、特に見るべき部分はない。
ただ、乗客の顔写真を違法に入手したあと、共和国の特別犯罪捜査官であるアンナが数人を示し、このエミラテスという船にオラージュの幹部がいると言うので、メリアはその船を狙うことを決めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます