第194話 情報と助力

 「さて、色々とすり合わせをしようか」


 襲撃を繰り返し、戦利品がある程度貯まった段階で、メリアたちは合流をする。

 宇宙と地上、二手に分かれての行動は、一つの星系におけるオラージュを拠点をすべて壊滅させるまでそれほど時間をかけずに済む。


 「まずはあたしから報告しておく。この星系には宇宙の拠点が三つほどあったが、すべて問題なく潰せた。情報は他の拠点の場所ぐらいしか得られなかったが、代わりに結構な物資とかを手に入れた」


 大型船トレニアの格納庫には、小さな山が存在した。

 それはメリアが奪ってきた戦利品が詰まったコンテナが積み上げられてできた山であり、中身は大量の機械に、あとは兵器が少々。

 宇宙船や機甲兵のパーツなどもあるため、色々と作ったり整備することができるようになる。


 「さすがメリア様と言ったところでしょうか」

 「フルイド側の協力あってのものだけどね」


 人類以外の知的生命体であるフルイド。

 その侵食能力は、生半可なスキルを持った人間よりも便利であり、宇宙空間ということもあって味方である場合はかなり心強い。


 「次はそっちの成果を知りたい」

 「わたしたちは地上の拠点をいくつも襲撃しましたが、さすがに取り扱いたくない代物ばかりなため、戦利品は少なく、情報が主なものになります」

 「あ、取り扱いたくないものがどういうものかというと、お金持ち向けに販売される予定の臓器とか。……重度の中毒者のもので、若返った部位というのが」


 ルニウは説明するが、途中でやや気まずそうな表情になる。


 「それ以上は言わなくてもいい。で、ファーナ、地上ではどういう情報を得られた?」

 「ブリッジに移動しましょう。画面に出します」


 全員でトレニアのブリッジに移動したあと、複数の小さな画面に文字や数字が表示される。

 そこに書かれていたのは、オラージュという組織が、若返った臓器を販売している顧客についての情報。


 「……帝国、共和国、星間連合、あちこちのお金持ちが書かれているね」

 「その中でも特に注目すべき相手を抜粋します」


 画面が切り替わると、わずかな顧客だけが残る。


 「共和国の政府と、アステル・インダストリーが顧客として記されています」

 「……帝国や星間連合は、お金持ち個人の名前なのに、ここだけ違うとはね」

 「パンドラ事件の際に、アステル・インダストリーに対して強制執行が行われ、内部告発も含めてあらゆる悪事が表に出てきました。しかし、これについては出てきませんでした」

 「……嫌な予測をすると、政府と巨大企業は今も癒着しているということになるわけだが」


 表沙汰になってしまったから、世間から非難されることを避けるために渋々アステル・インダストリーに対処したが、政府としては本意ではない。

 その可能性に思い至ったメリアは、軽くため息をついた。


 「はぁ……あり得るかあり得ないかで言えば、とてもあり得る話なのが嫌になるね」

 「これを共和国の政府に持ち込むことで、オラージュを潰すための助力を得ることができるかもしれません」

 「危険過ぎる賭けだ。けれど、試す価値はあるか」


 メリアは共和国に暮らしている者ではない。

 生活の基盤は、帝国に一応とはいえあるものの、基本的に海賊時代の知識を利用すればどの国でも過ごすことができる。

 共和国の政府と敵対することになっても、他の国でほとぼりを冷ますことができるのだ。


 「ルガーに連絡を。メッセンジャーになってもらう」


 すぐさま海賊のルガーに連絡を行い、オラージュへの襲撃と並行して合流することに。

 星間連合内部の別の星系に向かって拠点を襲っていると、到着したルガーから通信が入るので人目につかないよう小型船で会いに行く。


 「お急ぎの用件とは、いったいなんです?」

 「共和国政府へのメッセンジャーになってもらう。詳しいことはこの情報を見ろ」

 「はあ、いったいどんな……」


 手に入れた情報はルガーにだけ見せると、少し険しい表情のまま読み進めていき、最終的には自らの顔をぴしゃりと叩いた。


 「えーと、とりあえずこれだけは言わせてもらいます。……正気ですかい?」

 「当たり前だろ」

 「いやあ、しかしですねえ、これは実質的に死んでこいと言っているようなものでは?」

 「問題ない。これをネタに金を巻き上げようとするなら消しにかかるだろうが、組織を潰す手伝いを求めるなら、手を貸してくれるだろうさ」

 「首尾よくオラージュという組織を消したところで、秘密を知ってるこちらを消しにかかりそうですがね。そうすれば、秘密を知るのは共和国政府のみ、と」

 「それに対してはこっちでも警戒してる」

 「まあ、あなたの命令なら従いますとも。期日までに戻らなかったら、共和国が敵対したということで」


 ルガーは脅しのための情報が入った端末を受け取ると、メリアが小型船で宇宙に出たあと進路を共和国へ向けた。


 「良い返事が来るかどうかは、半々か。まあこっちはこっちでするべきことを進めよう」


 ルガーが戻ってくるのをただ待つことはせず、その間もオラージュの拠点への襲撃を繰り返していく。

 ただ、襲撃を行うたびに警備は強まり、正面から戦闘する割合が増えていくため、どうしてもペースは落ちてしまう。

 それはやがて、オラージュが用意した艦隊との大規模な戦闘へと繋がる。


 「メリア様、複数の艦隊が接近しています」

 「数は?」

 「二十隻で一つの塊、これが五つ。後続にはさらなる規模の艦隊が」

 「とうとう本腰を入れて迎撃に出てくるか」


 拠点をいくつも襲撃すれば、当然ながらオラージュ側にも状況は伝わる。

 ややバラバラな艦隊とはいえ、自分たちは百隻と少ししかないため、数では相手の方が上回っている。


 「一番近い艦隊に一当てしたら、すぐ次の艦隊に仕掛けていく感じで。立ち止まることなく動き続けることが重要だよ」

 「わかりました。艦隊はそのように動かします」


 一つの艦隊とやりあっている間に、他の艦隊が到着すると、どんどん不利になっていく。

 そこでメリアは、立ち止まることなく動き続ける形での戦闘を提案した。


 「大丈夫ですかね? なかなかに不安が」

 「ルニウ、逃げたところで、合流して数を増した相手と戦うことになる。なら、合流される前に攻撃を仕掛けていって相手の数を減らす」


 ファーナが操る艦隊は、オラージュ側の先鋒とぶつかり、二隻航行不能になるというわずかな被害で、相手の半数を沈める結果を出した。

 そしてすぐに別の艦隊に仕掛けると、先程よりも数隻ほど犠牲は増えるも、またもや半数を沈める結果に。


 「ファーナ、このまま行けるか?」

 「問題ありません」


 あとはもう、どれだけ犠牲を抑えながら相手を蹴散らすかだけとなり、宇宙空間には艦船の残骸が漂う。


 「帝国の内戦に比べれば楽な限りだね」

 「質も数も大きく劣りますからねえ。所詮は犯罪組織といったところですし」


 周囲の景色を眺めつつ、メリアとルニウは話していたが、その時ファーナが声をかける。


 「メリア様、メッセンジャーとして送り込んでいたルガーから報告が」

 「なんだ?」


 ルガーからの報告ということで、勝利の余韻に浸るどころではなくなる。


 「共和国政府から助力を得ることには成功。ただし、その規模はごくわずか」

 「ブラフと考えたのか? それとも、表沙汰になっても問題ないと考えている……?」

 「考えたところでわからないので、いっそのこと共和国から来る援軍に色々と聞いてみるのは?」

 「ルニウの言うことも一理ある。どんな戦力が来たのか、確かめようか」


 遠くから近づいてくる数隻だけのルガーの艦隊には、これまた数隻ほどの共和国の船が同行していた。

 それは正規軍が使うようなものではなく、海賊として言い訳ができる程度に武装した民間の船。

 軍艦を送り込むことは、さすがにできないようだった。

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