第192話 本格的な襲撃の開始

 オラージュの拠点がどこにあるか。

 近隣の星系だけとはいえ、メリアがそれを知ったあとの行動は早かった。

 ファーナの操る少女型の端末のうち、予備として残していたものがあるが、その中から五体を呼び出すと、今後の襲撃に投入することを決定する。


 「頑丈なファーナを先頭にして一気に攻める」

 「修理が追いつかないかもしれないという不安がある以外は、良い考えだと思います」

 「どれだけ撃っても無傷で近づいてくるとか、相手する側からしたら絶望的ですよね」


 犯罪組織の拠点には、いくつかの種類がある。

 デブリや小惑星を利用して見つかりにくくしている宇宙の拠点。

 安定した活動が可能な地上の拠点。

 主にその二種類だが、ここでメリアは同行しているフルイドに連絡を行う。


 「いきなりで悪いけど、宇宙にある敵の拠点への襲撃を手伝ってほしい」

 「問題ない。その代わり、少々楽しむがよろしいか」

 「保管されてるだろうデータとかが、破損しない程度なら」


 話がまとまったあと、メリアはファーナとルニウの方を見ると、次の作戦について語る。


 「宇宙はあたしとフルイドたちで仕掛ける。地上はファーナとルニウだ。目立つ艦隊はそっちに預ける」

 「大丈夫ですか? メリア様とフルイドの侵食した船だけで」

 「相手の規模次第では、ファーナに通信入れて増援を送ってもらうことになると思う」

 「とほほ、私は地上ですか」

 「ファーナだけじゃ地上には降りられないからね」


 目立つ艦隊に注意を向けさせ、その隙に小規模な戦力で奇襲を仕掛けるのが、メリアの考えだった。

 既に一度、オラージュの拠点を襲ったため、大なり小なり警戒されていることを考えての作戦である。

 まず隣の星系に移動したあと、メリアはフルイドの侵食した船と共に艦隊から離れる。

 そして付近のデブリ地帯に向かう。

 ワープゲートからおよそ一時間という距離にあるそこは、やや不自然な形でデブリが密集しており、何も知らずにいたなら見過ごしてしまいそうになるが、今はその内部にオラージュの拠点があることを知っている。


 「どうする? 招かれざる客に対する罠があるように思える」

 「こういうのは、少しコツを知ってればいい」


 通信をしてきたフルイドに対して、メリアはそう言うと、操縦しているヒューケラを動かす。

 正面から入るのではなく、デブリ地帯の下側に向かい、その後船首の方向を変えてからゆっくりと侵入していく。

 やがて、ちょっとした建造物が見えてくると、フルイドからの通信が入る。


 「案外、すんなりと行けたようだ。これはいったい?」

 「デブリが集まっている範囲を、一つの塊に見立てたらいい。ある方向からでは駄目だが、別の方向からは問題ない。いちいち、罠の解除とか設置とかするのは面倒だからね」

 「まるで経験してきたかのような言葉だが」

 「……昔、海賊やってる時にちょっとね。こんなデブリ地帯に拠点を構える海賊相手に商売しに行った時、海賊同士の抗争に巻き込まれたことがあった。ま、そのおかげで色々知ることができた部分もある」


 昔のことを軽く語ったあと、メリアはフルイドたちに、相手に気づかれないよう建造物に侵食を行い、生命維持に必要な機能以外すべて無力化するよう指示を出す。

 ただ、侵食するためにはフルイドが建造物に触れる必要があるのだが、普通にやるだけではすぐに気づかれるため、ここでメリアの出番となる。


 「聞こえるか? 取引がしたい」

 「……品物は?」

 「期限が近くなってきた新鮮な食料、あとは道中で回収した残骸」

 「……見るだけ見てみよう。安くても文句は言うなよ」

 「わかってる」


 ヒューケラの中には、売り物にできそうな代物はあまりない。

 かといって、あからさまなゴミは相手に追い払われてしまう。

 最低限、取引が成立するものを出すことで、注意を引きつけるわけだ。


 「どこにつけばいい?」

 「こちらで示した場所に」


 照明が点滅しつつ通路が伸びるので、ヒューケラの貨物室部分をそこに接続すると、武装した者が数人やってくる。


 「品物はたったこれだけか」

 「次の仕事のために、少しでもお金が欲しくてね。いくらになる?」

 「少し待て」


 品物を色々と見ていく最中、一人だけ警戒のためか銃を持ったままメリアの方を見ていたので、メリアは声をかける。


 「待つ間やや退屈だからお喋りでもどうだい」

 「それはいいが、変な行動をしたら撃つ」

 「しないしない」

 「で、何の話がしたいんだ?」

 「ここの暮らしって、どんな感じなのか。惑星からは離れてるし、あまり賑やかでもなさそう」


 基本的に、ワープゲートと惑星はそこそこ離れている。より正確には恒星だが。

 一応、一日もあれば行き来することはできるが、そもそも隠されている拠点なので、船の出入りが多くなるのは好ましくない。


 「ふん、少し退屈なくらいで悪くはないぞ」

 「そいつは羨ましいね。こっちは、命の危険がある割に全然稼げない」

 「それは大変だな。まあ、稼ぎたいならちょっとした仕事を紹介してやれるが。少し、あんたの体を使ったものとか、な」

 「どういう意味で言ってるのか詳しく聞かないけどね、そういうのはお断りだよ」

 「そいつは残念だ。外から呼ぶわけにもいかないから、男同士でやりあう奴もいるんだぜ?」


 からかうような声に、面倒そうに手を振って返すメリアだが、宇宙服に通信が入る。


 「完了した」

 「わかった。こっちのを対処したら中に突入だ」


 それはフルイドからのものであり、拠点に異常が起きたことの気づいたのか、入ってきた者たちの意識がメリアに集まろうとしていた。

 その瞬間、メリアは隠し持っていたビームブラスターによって先程まで話していた者を撃つと、持っていた銃器を奪い、残りの者を撃っていく。


 「くそ……お前、最初からこうするつもりで……」

 「悪いね。オラージュの一員だったのを恨んでくれ」


 全員を仕留めたあと、貨物室にある機甲兵もどきに乗り込むと、接続されている通路から拠点内部へと突入した。


 「メリア、今どこにいる?」

 「貨物室に接続されている通路から入ったばかり。そっちは?」

 「探索用に小型機械に移ったのが三、残りは外への警戒のためそのまま。合流のために向かう」

 「ああ」


 数分後、フルイドに侵食されている機械が到着する。

 人間よりやや小さい箱形のボディに、複数の足と腕が存在する、奇妙な姿をしていた。


 「また変なものを寄越してきたね」

 「参考にしたのはタコと呼ばれる生物だ。これらすべて、手であり、足でもある」

 「そうかい」


 重要なのは戦力になるかどうかなので、細かいことに突っ込むことをやめると、メリアは奥へ進んでいく。

 隔壁がおりているため、内部はあちこちで分断されているが、機甲兵もどきは大型の斧を振るうことで隔壁を破壊し、無理矢理に通ってしまう。


 「内部はどうなっている?」

 「いくつかの階層に分かれており、全部で五層。今いるのが三層。データを保存している機械は三層にあるので案内する」

 「助かるよ」

 「道中にいるオラージュの者はどうする?」

 「とりあえず無視。データを吸い上げたあと、尋問するくらいはしてもいいかもね」


 いくつか隔壁を突破したあと、大きな部屋に到着する。

 そこには一人の男性がいて銃撃してくるが、メリアやフルイドの敵ではない。

 さっさと無力化して縛り上げると、データの吸い上げが行われる。


 「うぅ……自分が何をしているのか、わかっているのか。このような、オラージュを敵に回すということの意味を」

 「よーくわかってる。だから襲撃してるんだろうが」

 「教授は、あの人は、強力な繋がりを」

 「お金持ちとの繋がりのことなら既に知ってる。帝国、共和国、星間連合、ずいぶんと手広い関係を持ったもんだと思う」

 「……正気、なのか。なんのために敵対など……!」

 「これ以上もなく正気だよ。あと、ここまで話すと永遠に黙って貰う必要がある」

 「ぐ……」


 拠点の襲撃には、データ以外にも金目のものを奪うという目的があった。あるいはお金そのものを。

 そうすることで、自分たちの戦力を整える費用に変えてしまうわけだ。船を動かす人員はファーナが肩代わりできる。

 今はまだ大規模な戦力が送り込まれていないが、やがて一部のお金持ちが、若返りの研究をする教授を支援するため、大々的に艦隊を送り込んでくる可能性はある。


 「目ぼしいものは奪えたね。さっさと引き上げるよ」

 「残った者はどうする?」

 「少し経ってから匿名の通報を警察とかに行う。食料とかは残しているから、二日ぐらいはあのままでいてもらうが」


 宇宙での襲撃は問題なく行えた。

 あとは、地上での襲撃を成功させているだろうファーナたちと合流するだけ。

 逸る気持ちを抑えながら、メリアはフルイドたちと共に拠点をあとにした。

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