第190話 オラージュの拠点への襲撃

 「ささっ、こちらになります」

 「案内ご苦労」


 襲撃者の船に発信器をつけてから解放したあと、スィフルという惑星に降り立ったメリアたちは、地上にあるオラージュの拠点に襲撃を仕掛けようとしていた。

 軌道エレベーターの周囲には都市が存在し、そこからやや外側の部分に、大規模なスラムがある。

 現地の地理に詳しい者を雇い、スラムの内部を歩いて軽く下見を行うのだが、帰る時に違和感に気づく。

 来た時とは違う道であり、しかも人の気配があちこちから感じられるのだ。

 視界の中には、誰一人存在していないというのに。


 「全員、止まれ。……案内人、これはどういうことか説明がほしい」

 「な、なにか気になることでも?」

 「待ち伏せされているのではないか。そう思えて仕方ない。人の気配はあるのに、その姿がないから」

 「それはですね、ここのスラムに外部からの人間が来ることは稀でして、隠れながら様子を見てるんですよ。はい」

 「その説明は、来る時に人とすれ違うことがないなら信じることができた」


 メリアはビームブラスターを構えると、目の前にいる案内人の背中に突きつける。

 ファーナとルニウは周囲を警戒し、その場は沈黙に包まれた。

 一秒、二秒と時が進んでいくと、人の気配は少し減るが、代わりに敵意が増していく。


 「……お客さん、あまり乱暴なのはいけませんぜ」

 「現地のルールには、ある程度従いたいとは思ってる。一つ質問。オラージュと関係しているのか?」

 「…………」

 「答えないなら、関係していると判断するしかなくなる」

 「撃て!」


 案内人が叫ぶと、周囲の建物から銃撃が行われる。

 実弾とビームの混ざった弾幕により、メリアたちはその場から退避するしかない。

 突きつけられた銃口がなくなり、自由の身になった案内人は慌てて逃げ去ると、建物の中に入る前にこちらを見る。


 「気づくのがもう少し遅ければ、楽に報酬が得られたのに」

 「その報酬は、オラージュから貰うのかい」

 「へ、へへ、ならどうするんです? あんたらはもう、袋のネズミ。逃げ出せやしない」


 メリアたちが今いるのはスラムの奥。

 それでいてオラージュの拠点からそこまで離れていない。

 このままここにいたところで、包囲されて追い込まれるだけ。

 だからといって、スラムの内部には詳しくないため、無闇に動き回っても不利になってしまう。


 「ファーナ、ルニウ。案内人と一緒に見たオラージュの拠点の場所は覚えているね?」

 「そちらに向かうのですか?」

 「なかなかに自殺行為な気が」

 「地の利が向こうにあるスラムの中で、長々と撃ち合いをしたいならそれでもいいが」


 多勢に無勢。

 今はなんとか対抗できているが、銃弾などには限りがある。

 倒した相手から奪おうにも、拾いに行くこと自体が危険な状況だった。


 「わたしはどちらでも構いません。人間が携行できる火器では損傷しないので」

 「ファーナはそれでいいとしても、人間な私は何発か受けたら死んじゃうし、メリアさんに合わせて拠点の方に行きますよ」

 「よし、ならさっさと動くよ」


 スラムの中を移動する最中、ルニウは呟く。


 「メリアさん、結構余裕ありますね」

 「宇宙で既に襲撃受けたからね。惑星でも何かあるに決まってる」

 「あえて相手の罠に飛び込むにしても、もう少し戦力があった方が」

 「そしたら相手は大々的に守りを固めるだろうが。それにこっちにはファーナがいるから、少人数でも問題ない」

 「まあ、それはそうですけど」


 罠があることをわかっていながらも、メリアは惑星に降り立った。

 それは、惑星スィフルの地上にあるオラージュの拠点を襲撃するため。

 誘拐されたセフィの居場所はわからないため、教授の研究を邪魔して向こうから出てくるように仕向ける必要がある。

 その手段の一つとして、資金源となる組織そのものを痛めつけるという方針だった。


 「お二人とも、そろそろ到着するのでお喋りはあとで」

 「わかったよ」

 「はいはいー」


 一度下見を済ませているので場所は把握している。

 到着した先は、周囲をゴミの山に囲まれた粗末なバラック小屋。材料は金属が多いが、あちこちに錆びが目立つ。

 こじんまりとした二階建ての代物であり、オラージュという組織の拠点としては、いささか小さ過ぎるように思えた。


 「見張りは?」

 「ここからは確認できません」

 「中で待ち構えている可能性に備えて、まずはファーナが突入、そのあとルニウだ。あたしは、背後からの攻撃に備える。誰かさんに注入されたナノマシンのせいで多少は死ににくくなってるから」

 「まだ言いますか。もう何ヵ月も前のことですよ」

 「言うに決まってるだろ」


 ちょっとした言い合いをしたあと、銃器を持ったファーナがバラック小屋に突入し、すぐに内部で撃ち合いが始まる。

 しかし、機甲兵が使用する機関銃を受けても損傷しないほどに頑丈なため、戦闘はファーナが一方的に相手を蹂躙するだけに終わる。


 「あらら、私の出番ないですよ、これ」


 遅れて突入したルニウは、軽く肩をすくめながら、倒れている者から色々と回収していく。

 装備品、お金、そしてどこかで使えそうなカードキー。

 二階にも足を運ぶが、こちらはこれといって目ぼしいものはない。

 食べかけの料理、飲みかけのコーヒー、だいぶ卑猥な雑誌、そういったものしかなかった


 「メリアさん、死体を漁ったらなかなか興味深い代物が」

 「へえ? こんなスラムには似合わないカードキーなんてものがあるとはね。ファーナ、一階の床を調査。その端末が光学迷彩とかを判別できるなら、偽装された部分も見つけられるはず」

 「できるかできないかで言えばできます。ただ、その間わたしは戦闘を手伝うことはできません」


 バラック小屋の外には、既に結構な人数が集まっており、散発的に銃撃を仕掛けてきている。

 ファーナが調査している間、メリアとルニウの二人だけで相手しないといけないわけだ。


 「まあ、なんとかなるさ。このバラック小屋は、見た目だけはオンボロだけど、外からの銃撃を防げているから」

 「実弾とビームの両方を防いでるのは、心強いですよねえ。それに、さっきファーナが倒した相手の銃器もあるので、足止め程度なら楽勝ですよ」

 「では、お願いします。どうしようもない時は呼んでください。その分、調査は遅れますが」


 内部はそこまで広くない。邪魔な置物もあまり存在しない。

 とはいえ、外の人数はどんどん増えていくため、無傷で乗り切るのは難しい。


 「……地上ではキメラを出してこないとはいえ、貧しい人間をぶつけてくるのはいやらしい限りだね」


 メリアは実弾を放つライフルを構え、距離的に近い者から撃っていく。

 攻撃をしている者は、どこかで供給されたのか銃器はそれなりの代物を持っているが、防具の類いは身につけていない。

 布の服を着ているだけなので、身体のどこかに当たればそれだけで無力化できるが、中には命が惜しくないのか叫びつつ走って迫ってくる者もいたりする。

 そういう者は、殺傷設定にしたビームブラスターを持つルニウが仕留める。


 「お金で動かすことができますからね。だから、どこの誰が裏で糸を引いているのか隠すことができる」

 「もし警察とかが動く事態になっても、問題ないわけだ。そもそも、中央政府が半ば見捨てている惑星のスラムとなれば、警察のことなんてほとんど気にせずに済むが」

 「念には念を、でしょうねえ」

 「まあ、教授の場合は、あたしが目に物見せてやるけど」


 メリアとルニウの二人によって、死者がある程度増えると、スラムの者たちはさすがに命が惜しくなったのか接近せずに遠くから撃つだけとなる。

 そうなると、あとはファーナによる調査が完了するのを待つのみ。

 十数分が過ぎると、ファーナが床板を弄って地下への扉らしきものを出現させた。


 「地下への扉を発見しました。カードキーを入れる部分があります」

 「よし、突入するよ。そのあと外の奴らが入ってこないよう閉める」


 小屋の外で動きがないのを確認したあと、奪ったカードキーによって床にある扉を開ける。

 すると地下への階段が現れるので、メリアたちは警戒しつつ降りていった。

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