第182話 庭園の制圧

 「ファーナ、今どこにいる? あたしは発進したばかりだ」


 戦場となっている広大な拠点の中、メリアは飛び回りながら通信を入れる。

 合計で千を超えるほどの艦船同士が戦闘しても、まだ有り余るほどの空間は、それだけユニヴェールという組織の強大さを示している。

 それだけの規模を維持できるだけでも、かなりのものであるわけだ。


 「メリア様、ご無事でなによりです。ところでオリヴィアは」

 「死んだよ。あたしの船の中にいたけど、無理矢理入ってきたユニヴェールの者と撃ち合いになって」

 「そうですか」


 わずかな沈黙が流れたあと、ファーナは話を再開する。


 「オリヴィアから送られてきたデータを参考に、各種施設を攻撃しますが、よろしいですか?」


 それは、非戦闘員をも巻き込むことになるということを言外に語っていた。


 「いいよ。ただ、やり過ぎないように。皆殺しが目的じゃないだろう?」

 「そうですね。あ、メリア様に通信したいらしいので代わります」

 「相手は誰だい?」

 「ここまで案内してくれた海賊です。海賊の宇宙港で、会話だけした相手です」

 「あの時のか。わかった、あたしの方に繋いでくれ」


 すぐに通信は切り替わる。

 話しながら戦うのは危険度が増すので、メリアは戦闘のないところへ移動する。


 「こんな形だが、久しぶりとでも言おうか」

 「まず、一つ聞きたい」

 「何かな? まあ予想はついてるがね」

 「いったい何者だ? ただの海賊じゃなさそうに思える」

 「それは、目の前の状況が落ち着いてからでも遅くはないはず」

 「……まあ、のんびり話し合う状況でもないか」

 「すまんね。あと、できるならユニヴェールには降伏を呼びかけてもらいたい。皆殺しだと、後処理に困る」

 「ああ、そうするつもりだよ。無駄に抵抗されても面倒だからね」


 長話よりもまずはユニヴェールの相手ということで、通信は一度切れる。

 とはいえ、メリアの出番はそこまでなかった。

 オリヴィアが代わりにデータを送ってくれたおかげで、ファーナが率いる五百隻ほどの艦隊は、港などを優先的に破壊していく。

 そうすると、迎撃のために出てくるユニヴェールの船の数は減るので、一度に多数を相手にしなくて済む。

 時間と共に敵の船は次々と出てくるが、各個撃破できるので脅威ではない。


 「さて、このまま待ち続けてもいいけど、早く終わらせるに越したことはないか」


 全体的な状況は、ひどい混戦状態としか言い様がない。

 大量の艦船、戦闘により生まれたデブリ、それらによってどんどん戦場は戦いにくい場所になっているという有り様。

 そうなると、小回りの利く戦力として機甲兵同士の戦闘が始まり、それは時間と共に増えていく。


 「やれやれだね。船以外の戦力も多い」


 破壊された港から出てくるユニヴェール側の機甲兵を見つけると、メリアはヒューケラのビーム砲台によって攻撃を加える。

 それは艦船を相手にするための代物なため、三メートル前後しかない人型機械など一撃で撃破できるのだ。


 「ファーナ、訓練所付近のデータを送ったろ。あそこに保管されてる機甲兵を乗っ取って動かせるか?」

 「中継するための船を護衛してくれますか? さすがにここから直接ハッキングするようなことは難しいので」

 「わかってる」


 ファーナのいる大型船は、ユニヴェール側からしても優先的に狙うべき相手と見なされているのか、付近で激しい戦闘が起きている。

 あまり動けないようなので、メリアは訓練所付近に向かうと、もう一隻同行する船があった。


 「ご一緒させてもらっても?」

 「足を引っ張らないならね」

 「なあに、心配ない。ああ、それと、うちの若いの……あの時あんたにやられた奴だがね、誤射しないよう頼むよ」


 貨物室に通じる船体の一部が開くと、そこから見覚えの機甲兵が現れる。

 宇宙港の中でメリアが戦った時とは違い、かなりの重武装でいた。

 脚部には小型のミサイルポッド、肩には小型のバズーカ、両腕には盾とライフル。

 さらに、腰には小型のグレネードランチャーがあったりする。


 「ずいぶんと重武装だけど、頼りにできるのかい?」

 「それは見ればわかるとも」


 たった一機の機甲兵。

 それなりに重武装だが、所詮は三メートル前後という大きさしかない。

 運用できる兵器には限りがあるため、どの程度やれるのかメリアは軽く眺めた。

 その重武装な機甲兵は、一番近くにいる中型船に接近して取りつくと、まず脚部のミサイルでビーム砲台を破壊し、ブリッジ付近に肩のバズーカを撃ち込み、最後は推進機関のある方向へ飛びながら離脱すると、両手に握られたライフルで推進機関を的確に狙い無力化してしまう。

 この間、わずか十秒。

 中型船が移動している最中であったため、逆方向に加速することで、すぐに場所を変えて攻撃することができたのである。


 「どうだい、うちの若いのは。小型船じゃなく、中型船相手であれだ」

 「やるじゃないか。名前が聞きたくなる」

 「ルインだ」


 ルインという名前を耳にした瞬間、メリアはわずかに表情を変える。

 それはユニヴェールの訓練所で、指導していた男性が口にしていた名前と同じだった。


 「……そのルインとやらは、このユニヴェールの者だったりするのか聞きたいところだが」

 「あんた、しばらくここに滞在していたようだが、それなら耳にすることもあるか。ルインは、ユニヴェールの者だった。ふとした拍子に逃げ出したとか本人は言ってるが、真意はわかりゃしない。もしかしたら心に秘めた何かがあるかもしれない、あるいはただ単に家出という線もあり得る」

 「……まあいいさ。まずは今の状況をどうにかしてからだ」


 メリアはヒューケラを加速させると、周囲を飛び回る小型船を狙っていく。

 中型や大型となると、一隻沈めるだけでも面倒であり、その間に他の小型船からの邪魔が入る可能性がある。

 なのでまずは鬱陶しい小型船を減らしていき、大物は最後に取っておくというわけだ。


 「ファーナ、訓練所のを動かすのにどれくらいかかる?」

 「数分ほどあれば」

 「また曖昧な……」

 「一番早いのは静止した状態ですが、それではすぐに沈められるので」

 「やれやれだね」


 やることは難しくない。

 船のシールドを剥がし、そのあと船体に攻撃を加えて破壊する。それだけだ。

 加速と減速により、肉体にかかる負荷は結構なものになるが、海賊として長年過ごしてきたメリアにとっては慣れたものでしかない。

 ビームの飛び交う宇宙空間とはいえ、多少の攻撃はシールドが防いでくれる。

 メリアは目標となる小型船に、大胆にも攻撃しながら近づくと、至近距離からの一斉射撃によって沈めていく。

 一つ、二つと増えていくうちに、近くの海賊船も順調に相手を沈めていた。

 それが少し繰り返されたあと、メリアのところにファーナからの通信が入ってくる。


 「大量にありましたが、すべて動かせます。ただ、武装を装着する時間が必要なので、注意を引きつけてもらえますか?」

 「わかった」


 今のところ、ファーナのこの動きはユニヴェール側に気づかれていないようで、普通に戦うだけで相手はヒューケラへと食いつく。

 適当にいなしていると、操縦室にあるスクリーンの一つに興味深いものが映し出された。

 それは残骸と化した船の上で二機の機甲兵が戦っている場面。

 片方はルインと呼ばれる者が動かしており、もう片方はユニヴェール側の誰か。

 近くを通り過ぎると通信が傍受できるので、メリアは耳を傾ける。


 「ルイン、どうして襲撃する側にいる」

 「くそったれな家をぼこぼこにできる。それ以上の理由がいるのか?」

 「お前が生まれたところだぞ!?」

 「知らねーよ、そんなの。あのマクシムという老いぼれのためには死ねない。俺は俺のために生きて死ぬ」


 戦いはルインの勝利に終わる。

 脚部のミサイルで相手の体勢を崩したあと、胴体部分にライフルを撃ち込むことによって。

 そのあとノイズ混じりな声が響く。


 「盗み聞きとは趣味が悪いぜ。俺の機体は改造しまくりでな、だからわかるんだよ」

 「聞ける状態にあったからね。ユニヴェールの者なのには驚いた」

 「ふん、俺みたいにここを出ていく奴はそれなりにいる。運が悪いと、地上にいる時に捕まって、見せしめに色々やられる」

 「現在、ユニヴェールという一族、組織に、かなりの被害を与えてる。物的なものから人的なものまで幅広く」

 「それについては礼を言わせてくれ。ここまで痛めつけたら再起は不可能だ」

 「それは、さすがに気が早いんじゃないかい」

 「ここまで大々的に戦ったなら、星間連合の中央政府もさすがに気づく」

 「ああ、なるほど。なら、ユニヴェールという組織は終わるか」


 やがて、武装の装着を済ませた機甲兵が次々と現れる。

 ファーナによって遠隔操作されている、膨大な数の機体が。

 その機甲兵たちは、宇宙空間における戦闘には加わらず、拠点内部の様々な施設を目標とした。


 「そろそろ終わる、か」


 宇宙での戦いは、ファーナの動かす艦隊が数を大きく減らすも勝利しつつあった。

 そして膨大な機甲兵が様々な施設で戦闘している最中、メリアは降伏勧告を出す。

 受け入れるところと受け入れないところがあるため、完全な決着にはまだしばらくかかる。

 しかし、ユニヴェールの頂点となるマクシムを捕まえたという報告がファーナから届くため、その事実を添えた上で改めて降伏を求めると、まだ抵抗していた者たちもようやく降伏するようになった。

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