第180話 救援の動き
宇宙空間を進む艦隊があった。
数は五百隻ほど。一キロメートル級の大型船が一つに、あとは三十から四十メートル級の小型船という組み合わせ。
それらは、たった一つの命令に従って動いていた。
「いやあ、壮観ですねえ」
「いいえ、まだ足りません。この程度の戦力だけでは、メリア様を助けに向かうのは難しいものがあります」
大型船のブリッジには、ファーナとルニウがいた。他には誰もいないので、実質的にファーナだけで動かしている形になる。
そしてそれは他の船も同じ。
「そうは言うものの、乗組員を用意しないことで費用を抑え、船だけを購入して揃えられたのがこの数なわけで」
ブリッジにある計器類を見ながらルニウは言う。
この五百隻の艦隊には、他の人間は誰もいない。
フランケン公爵であるソフィアから資金援助をしてもらったあと、ファーナは様々な惑星を巡りながら戦闘に耐えられる船を購入していった。
予約せずにすぐさま購入できる船というのは、どうしても数に限りがあるからだ
乗組員を用意するとなるとお金がかかるため、船の数を揃える方を優先して人は集めない。
ただ、人間以外の存在としてフルイドが五体いる。
既に小型船への侵食を済ませ、艦隊の中に紛れており、すぐにそんなフルイドからの通信が入ってくる。
「数は揃った。このあとどうするのか教えてもらいたい」
「……少し待ちます。星間連合のどこにいるかわからないので、ルガーという者が情報を持ち帰るまで」
「なるほど。宇宙というのは広大であり、闇雲に向かっても意味はない。しかし、大丈夫なのかという疑問はある。ルガーという者、そして我々の同盟者だったメアリを打ち倒したメリア。そのどちらかが倒れたならば、我々の行動は無駄にかる」
「……その時はその時です」
「そうですよ。もしメリアさんが死んだなら、とりあえず向こうの組織の者は皆殺しにすべき」
「過激な話だ」
「私たちからあの人を奪うとか、それ相応の報いがあるべきでしょう?」
ルニウは自分たちを勝利することを疑っていない。メリアが無事かどうかが焦点となっている。
そしてそれゆえに、過激な報復について口にした。
「ルニウ、報復するにしても情報がないと難しいですよ」
「それは、そうだけれども……」
ルニウがおとなしくなったあと、ファーナは艦隊すべてを動かしていく。
これは、現時点でどれくらい満足に動かせるかの確認だった。
人工知能であるファーナにとって、器としている機械によって処理性能は変化する。
アルケミアが存在していた頃は、何百隻だろうが問題なく動かせるが、既に失われており、現時点で自らの器となっているのは少女型の端末のみ。
購入した大型船を器として利用する考えもあったが、完全に制御下に置くまでまだ少し時間がかかる。
「艦隊は問題なし。次は艦載機となるものがどうなるかですが」
小型船とはいえ宇宙船なので、いくらか積み込むことができる。
市販されている宇宙用の人型作業用機械に、各国の軍から横流しされた武装を持たせた機甲兵もどき。
一般的には販売されていないが、これまでにメリアが手に入れた伝手を通じて購入するに至った戦闘機。
そういった代物を、艦載機としてそれぞれの船に積み込んであった。
「ファーナだけで動かせそう?」
「どうでしょう? 動かすのはともかく、戦闘までいけるかどうかは……」
処理能力的にきついものがあるのか、艦隊と艦載機すべてを動かすことはできても、その動きにはややぎこちなさが残る。
だが、時間と共に慣れていくのか、少しずつ動きは良くなっていく。
「大型船の処理能力を利用できれば、もう少し増えても大丈夫そうですね」
「それは心強……ん? 通信が来てる」
「送ってきている船は、かなり遠くですね」
ルガー以外からの通信に、すぐさま周囲を確認するファーナだったが、かなり遠くにぽつんと存在している船をブリッジのスクリーンに映し出すも、距離があるせいでどこかぼやけていた。
「とりあえず内容の確認からですが……」
「どしたの? どんな内容?」
ファーナは無言で険しい表情になるので、ルニウは興味深そうに尋ねる。
すると、近くの画面上に通信の中身が文章として表示されていく。
“そちらのルガーとやらの身柄を預かっている。少し話し合いがしたいので近づくが、攻撃はやめてもらいたい”
「こ、これって」
「さて、ルガーはしくじりましたか。とはいえ、無視するわけにもいかないので、向こうが近づくのを受け入れましょう」
文章のみの通信を送り返すと、謎の船は少しずつ近づいてくる。
映像通信が届く距離になると動きは止まり、新しく通信が行われる。
「すまん。捕まってしまった」
「どれくらいやられましたか?」
「戦闘で死んだのは数人。それ以外は軽症で済んでいる」
まず画面上に出てくるのは、腕を拘束されたルガー。
画面外には銃らしきものがちらほらと見え隠れしているので、彼は冷や汗をかいていた。
最初の会話が終わったあと、次はルガーの代わりに、ベレー帽をした年老いた男性が入れ替わるように画面上に現れる。
「捕らえた者をいきなり出してくるというのもひどい話ですね」
「無事な姿を見せてあげようと思っただけなのだがね」
帽子の老人が話すと、ルニウはわずかに表情を変える。聞き覚えのある声だったからだ。
「エーテリウムは今も持っていますか?」
「……ふむ、お嬢ちゃんとは、どこかで会ったかな?」
「“うちの若いのがすまんね”」
ファーナは、海賊の宇宙港でメリアが通信越しでやりとりした相手の声を真似る。というよりも録音したのを再生した。
それを受けて、帽子の老人は納得した様子で軽く何度か頷いた。
「ああ、なるほど。あの時の奴かい。しかし……あの時話した者はいないようだ。それに、こうもぞろぞろと引き連れて、いったいどこに向かうのか聞きたいんだがね」
「わたしたちのまとめ役となる人物が誘拐されまして。ちょっと取り返しに行くところです。そちらに捕まっている者は、情報集めのために動いてもらっていたんです」
「なるほどなるほど……それは大変なことだ」
「捕まえてる者を返してくれませんか?」
「おお、もちろん返すとも。それで、どこに向かいたいのか教えてもらいたい」
「なぜ話す必要が?」
ファーナが強気な様子で言い返すと、帽子の老人は軽く腕を組み、真面目な表情で言う。
「星間連合のどこかに向かうつもりなんだろう? なら協力できるかもしれん」
「ユニヴェールという一族、そして組織。その本拠地となっている場所を知っていますか?」
ファーナは即座に目的地となる場所を尋ねた。
これは揺さぶりでもあった。
わざわざ聞いてくるということは、既に大まかな予想をしているはず。
果たしてその考えは的中したのか、帽子の老人は肩をすくめてから答えてみせた。
「知っている。しかし、タダというわけにはいかない」
「そこに捕まってる者と戦闘したことなら、別に問題ありません」
「おや、冷たい対応だ」
「結局は海賊同士の争いでしかないので。それに物事には優先順位というのがあります。実は、そちらの目的についても色々聞きたいところではあります」
「こちらの目的については、のちほど語る機会もあるだろう」
「今は語れないと?」
「まあ、こちらにも色々と事情があるものでね」
「海賊のふりをした、どこかの組織の者だったり?」
「ははは……」
帽子の老人は笑うだけ。
肯定も否定もしない。
ルガーによる情報集めは失敗に終わるも、代わりに謎の海賊からの接触があった。
どれだけ信用できるかは不明だが、ユニヴェールの本拠地の場所を知っているということだけは真実に思えた。
ファーナは数秒ほど考え込むと、画面の向こうにいる海賊に案内するよう指示を出す。
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