第175話 助力を求めに
「うーん……どうしよう」
「まずは、連絡を取るところからです。わたしたちだけでは戦力が足りません」
メリアと別れたあと、ルニウとファーナはすぐに動いた。
今いるのは帝国内部ということで、一番近い惑星に向かうと星間通信を行う。
その相手は、現フランケン公爵であるソフィア・フォン・アスカニア。
元々は貧乏な伯爵であった彼女は、公爵位を相続することで帝国の中でも有力な存在となった。
そしてその相続は、メリアの手助けによって実現したのであり、それゆえに事前の予約をしていなくてもすぐ連絡を取ることができた。
「はい。どうされました?」
「緊急事態です。メリア様が犯罪組織に囚われてしまったので、救出するための戦力を用意してもらえませんか」
「相手は?」
「ホライズン星間連合で活動している、ユニヴェール一家というところです」
「星間連合ですか……」
距離という問題があるため音声通信のみだが、声だけでも感情というのはある程度わかる。
ソフィアはどこか困ったような様子になると、軽く唸ったあと話を続けた。
「んん、これは困りました。帝国内部ならともかく、外国となるとあまり戦力を出すことはできません。色々と問題になるので」
「では金銭的な援助を求めても?」
「そちらについては問題ありません。受け渡しはこちらの領地にて」
あまり細かいことは話せなかったが、それで十分だった。
お金さえあれば、ある程度の戦力を用意することはできる。
適当な海賊を傭兵として雇ったり、ファーナ自らが動かす無人機を揃えたりなど。
「次は……」
ソフィアとのやりとりが終わったあと、ファーナはすぐさま別の者へと連絡を取る。
どこか経由しているのか、数分ほど経ってからようやく通信は繋がる。
「はい。こちらルガー。何かお急ぎで?」
「フランケン公爵領で一度合流を。頼みたい仕事があります」
「星間通信では内容を言えないと」
「念のため、戦闘を含めたあらゆる備えをお願いします」
「……なるほど、わかりました」
以前メリアの配下となった、海賊のルガー。
彼に指示を出したあと、ファーナはしばらく考え込む。
「他に連絡を取るべき相手は……」
「あ、一つ思い浮かんだところが」
「どこですか?」
「メリアさんのオリジナルである、あの人物。そちらを通じて、フルイドを派遣してもらえないかなって」
「…………」
ファーナは険しい表情になる。
人類以外の知的生命体であるフルイド。
その種族が持つ、機械に侵食するという特性は、かなり役に立つだろう。
問題は相手が頷くかどうか。
とはいえ、やらないよりはやった方がいいということで、フランケン公爵領へ向かう途中にある首都星セレスティアへ立ち寄る。
そこにはフルイドと、異質な種族を見に来た大勢の人々が集まっており、惑星付近の宇宙空間は大量の宇宙船に埋め尽くされていた。
「わお、宇宙空間よりも宇宙船の割合が多い光景って初めて見ましたよ。いやー、凄い」
「帝国は賑わっていますね。それもこれも、フルイドという知的生命体の存在が大きいのでしょうが」
宇宙港に停泊したあと、宇宙港内部で人類との交流をしているフルイドが何体もいた。
そのうちの一体がファーナたちへ近寄ると、さりげなくメモリーカードを手渡し、そそくさと他の者との交流に戻った。
「中身はなんでしょうかね?」
「とりあえず、船に戻りましょう」
周囲からの注目を集めてもいけないため、小型船に戻ってから、受け取ったメモリーカードの中身を確認する。
適当な小型の端末に入れると、すぐにメッセージと宇宙港内部の地図が現れる。
“メアリと戦った君たちが我々と何か話をしたいなら、人目を避けながらこの場所へ来ること”
「お誘いされてますよ。フルイド側の独断か、それとも」
「どちらにせよ、話し合う機会があるならそれに乗るまで。メリア様の救出を急がなくてはいけません」
指定された場所は、宇宙港の中にいくつもあるメンテナンス用の通路の一つ。
普段は人が訪れないそこに向かうと、小型の機械を侵食したフルイドが待っていた。
「よく来てくれた」
「わたしたちにメモリーカードを渡したのはどうしてですか。皇帝だったメアリからの指示ですか?」
「いや、これは我々自身の選択と決定によるもの。個人に頼りきりではよくない。これからは、人類と共にこの銀河で暮らすのだから。そちらと仲良くしておきたいという意味合いから、今回の話し合いを求めた」
「それがそちらの総意ですか」
「その通り。見て、聞いて、話したこと。ありとあらゆる情報は、我々の意識を通じて我々全体に共有される。ただ、それを好まない個体向けに、情報の共有を抑えることも進められている」
意識の伝達により、情報は常に共有される。これもフルイドという種族が持つ特性の一つ。
そのせいか個体としての境界は曖昧なものとなっているが、人類側の技術を利用することで多少は改善されているとのこと。
「そちらもそちらで大変なようですね」
「これでも、元の膨大な総意から切り離されたおかげでだいぶ個体が維持されている」
「長い前置きはこれくらいにして、フルイドという種族であるあなた方に、一つお願いしたいことがあります」
「それはお願い次第。こちらも、できることとできないことがある」
「星間連合で活動する犯罪組織に、メリア様が囚われの身となってしまいました。救出のために助力を求めたいのですが」
「……ふむ。なかなかに難しい問題。メアリ・ファリアス・セレスティア……彼女を打ち倒したメリアが囚われてしまうほどの相手となると、どれだけの助力を行えばいいのか」
フルイドという存在から見て、皇帝としてのメアリという存在はかなり強力な者であった。
そしてそれを打ち倒したメリアが囚われたと聞いて、どこか悩むような様子でいた。
「フルイド側からいくらかの戦力を派遣していただければ。機械への侵食が得意であるとなおいいです」
「わかった。暇にしている個体でよければ送ろう。数十分ほど待ってもらいたい。秘密裏にそちらの船へ乗り込ませる。侵食させる機械などはそちらで用意してもらうが」
「ずいぶんとあっさりです」
「経験を得られる。さらに、帝国以外の国に出るというのも大きい。色んな国を見て回りたいからだ」
「そういうことですか」
話がまとまったあと、ファーナたちは自分たちの船に戻り、派遣されるフルイドが到着するのを待つ。
その間することがないため、帝国で放映されているニュースを見ると、次の皇帝を決める話し合いが近々行われるらしく、皇帝候補者たちの名前や顔写真が表示されていた。
当然のようにメアリの名前も存在しており、番組内ではできる限りそちらには触れないよう話を進めている。
「わたしたちが動いている間、帝国にも動きがありますか」
「これで、あのメアリが再び皇帝になったら、色々な意味で揉めそう」
「メリア様は怒るでしょうね。帝国の貴族たちは何をどうしてこいつに決めたのか、と」
「あー、わかる。とはいえ、帝国のことを気にしても仕方ない。メリアさんは今どうしてるんだろ?」
「あまり変なことになっていないといいのですが」
話の途中、ファーナは何かに気づいた様子で船の貨物室に向かう。
小型船なだけあってあまり広くはないが、少し動くくらいなら問題ない。
遠隔操作によって数ミリほど開くと、外と通じるそこからフルイドが五体ほど入り込んでくる。
「しばらくよろしく頼む」
「これだけですか?」
「そうなる。人目を避けないといけないのと、今は人類との交流を優先しているせいで」
「では行きましょう」
機械に侵食する前の不定形な形状だからこそ可能なやり方であり、これ以上入ってくる個体がないのを確認したあと、わずかに開いた貨物室の扉を閉じた。
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