第171話 ただならぬ一族
「それで、これからどこに向かうの? 義手と義足に違和感あるから、どこかに降りて調整したいのだけれど」
「今回の盗みを頼んだ依頼人に会う」
見知らぬ船の中だというのに堂々としているオリヴィア。その図太さはかなりのもの。
メリアは振り向くことなく答えると、端末を弄ってメモが書かれたページを表示させた。
そこには、エーテリウムを手に入れたあとどこに向かうべきかが記されており、今はその通りにしているわけだ。
「ファーナ、どこにも寄れないから、そこのお嬢さんの腕と足を見てやれ」
「仕方ありませんね。オリヴィア、一つ外して見せてください」
どこかに立ち寄ることなく、オラージュを率いる教授と会う。
なので義手や義足の検査や修理については、ファーナに任せることに。
当然、オリヴィアとしては受け入れがたいのか、非常に怪訝そうな表情を向けるが、それはファーナが少女の姿をしたロボットであるのも理由だろう。
「……船長さん、あなたの部下だけど、これって人間じゃないわよね?」
「何か問題が?」
「あるかないかで言えば、問題あるけど……まあ犯罪者だから些細なことか。堂々とハッキングを行えるような違法な人工知能って、所持してるだけで捕まるけど、今まで捕まってないみたいだし」
人工知能には、違法なことができないよう倫理面でのフィルターがかけられている。
なのにファーナはハッキングを問題なく行うことができたため、オリヴィアはなんともいえない表情のまま、義手や義足に触れるファーナを見つめていた。
「ねえ、船長さん」
「今度はなんだ?」
「私をどう“利用”するつもり?」
「……ユニヴェールという組織と敵対した場合に備えた人質」
「ふーん、効果があると思っているんだ?」
「どの程度の効果があるかは知らないけどね。地下で代理人が競り落とそうとした時点で、一家の中でも助けようとする動きがあるわけだ」
「まあね。一族の者だけで数千人もいるし。血の濃さを無視した場合だけど」
小型船であるヒューケラの操縦室にて、二人が話していき、一体が義手や義足の検査をしている。
そんなやや手狭な状況であるが、メリアは軽く息を吐くと質問をした。
「ユニヴェールという家、もしくは一族のことについて、いくらか教えてほしい」
「私が知っている分でよければ」
オリヴィアは軽く首を回すと、やや真面目な表情になってから口を開く。
「それは一族の名称であり、巨大な犯罪組織でもある。始まりは、とある犯罪者の夫婦。大きくなっても、内部抗争により衰退して消えていく組織というものを目にしたことから、家族としての結束を中心にすることで、内部抗争が起きない組織を作ることを目指した」
「それはまた大層な考えだけどね、家族だから争わずに済むと考えるのは、楽観的に過ぎるんじゃないかい」
「まあそうだけど。血の繋がった家族でも争う。それは帝国とかを見るとよくわかる。ここ最近は、大昔の皇帝が現代に現れて、子孫たちと争ったりしたわけだから」
家族というものは絶対ではない。
関係が強固なところもあれば、すぐに関係が崩れるような脆いところもある。
「とはいえ、それなりに上手くいったわ。なにせ、体外受精や人工子宮とかがあるから、出来の悪い子どもには見切りをつけて処分し、新しい子どもに期待することができる」
「まるで消耗品だ」
「どこも似たようなものじゃない? 組織というのを維持するために人は消費されていく」
オリヴィアはそこで一度言葉を止めると、ため息をついた。
「ユニヴェールという家は、昔と今じゃすっかり変わってる。重要な立場は一族の者でも血が濃い者だけが占有していて、他の一族の者はおこぼれを待つばかり。組織がかなり大きくなってこれだから、そのうち不満を持つ者が実力行使に出て内部抗争があるかも」
「恐ろしい話だ。巻き込まれないうちに他の国に逃げたいところだね」
「そんな危ういところに、エーテリウムを盗んだ誰かさんが現れた。……船長さんに依頼したのが誰かは知らないけど、星間連合は荒れるわね」
話が終わったあと、しばらく無言の時間が続くが、代わりにファーナが義手や義足を弄る音が聞こえてくる。
工具などを利用し、内部を見ようとするため、オリヴィアはわずかに顔をしかめた。
「ねえ、元に戻せるの? 無理なら弄るのやめてほしいんだけど。自力で身動きできないのって苛立つから」
「少々気になることがありまして。内部に何か異物が入っているので、それを取り出そうかと」
「それなら、私に一言くらい伝えてくれてもよくない? それは私の腕と足だから」
「あなたは、今はメリア様に買われた所有物です」
「……あー、はいはい。どうせそれはすぐに無意味になるけれど、まあいいわ。しばらくはその通りにしておいてあげる」
オリヴィアが不機嫌そうに目を閉じると、ファーナの作業は再開する。
カチャカチャという音がずっと聞こえてくるため、メリアとしては操縦室から出て別の部屋でやってこいという気持ちが浮かんできたが、それを口にする前に作業は終わった。
「む、見つけました。これです」
出てきたのは、非常に小さな部品。
それを目にした瞬間、メリアは盛大に舌打ちをする。
「くそっ、その部品は発信器だ。あたしたちの居場所がバレている!」
「売られることになっても、売った先で回収するつもりだったのでしょうか?」
「なんだかんだ、私はユニヴェールの者だし。どうしても助けたいって者はいるんでしょう。だからなんだって話だけど」
すぐに発信器は破壊されるが、次の星系に向かうワープゲートに到着する前に、怪しげな艦隊が接近してくる。
まるで包囲するような動きをしていたため、メリアは別の船を操縦しているルニウに通信を入れた。
「もしかすると戦闘になるかもしれないから、備えておくように」
「あらら、なんかやばいことありました?」
「オリヴィアの義手や義足に発信器が仕込まれていた」
「わーお。まずいですね。エーテリウムの件もあるので、かなりの戦力が投入されるかも」
艦隊の規模は、およそ二十隻。中型船と小型船が混ざった編成であり、戦闘になれば苦しい状況になる。
どう対処すべきか悩んでいると、怪しげな艦隊から通信が入ってくる。
「そこの小型船、話がある」
「話とは? ずいぶんと物騒な話をするつもりのようですが」
「こちらとしても戦闘は避けたい。それゆえに脅す形になったのは申し訳なく思う」
「用件はなんでしょうか?」
「あなたは、とあるオークション会場において、オリヴィアという女性を競り落としただろう。彼女を引き渡してもらえないだろうか?」
艦隊の砲台はすべて自分たちの方を向いている。
ここで断れば撃たれるだろう。
だが、沈まないよう手加減はしてくれるはず。
なぜならオリヴィアが乗っているのだから。
メリアは考える時間がほしいと言って一度通信を切る。
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