第27話 宇宙での艦隊戦

 「さてと……こちらヒューケラ。各員、敵艦隊に突っ込む準備は?」

 「できてるよ、隊長殿」

 「聞くまでもないだろ、大型の船みたいに整備が面倒なのじゃないんだ。俺たちは」


 フランケン星系にて、五百隻という中規模な帝国の艦隊が出現すると、海賊側も即席の艦隊を揃える。その数およそ四百隻。

 惑星各地にある複数の宇宙港から大量に出港すると、一ヶ所に集まったわけだ。

 それは帝国の艦隊が陣形を整えることで、時間的な余裕が生まれたからではある。


 「とりあえず、こっち側のでかい船が正面からやり合ってくれてる間に、あたしらは艦隊の側面か下側に突っ込んで食い破る。異論は?」

 「ないね」

 「へっ、味方の攻撃で沈まないといいけどな」


 メリアは部隊を率いており、配下となっている者たちに通信をしていた。

 編成されているのは、すべて小回りの利く小型の艦船のみ。

 火力もシールドも、正面から撃ち合うには不安が残るものの、その担当は別にいる。


 「揃いも揃って、よくもまああんなでかいのを持ってるとは」


 配下との通信を切ったあと、スクリーンに映る五十隻近い巨大な艦船の集まりを見て、メリアは呆れ混じりに呟く。

 海賊稼業は儲かるとはいえ、あれだけの船となると維持するだけでも大変だ。

 特に船員の食べ物や水、空気といった代物は、維持費として結構なものになっているはず。

 つまりは、それだけ海賊として色々荒らし回ったことに他ならない。


 「メリア様も持っている立場ですけどね」

 「アルケミアには船員がいないからね。維持費を気にしなくていいから楽なもんだよ」

 「あの、私の存在は」

 「ルニウは船員でなく、お客さんだが」

 「いやあ、そんなこと言わないでくださいよ。……ところでここで雇ってもらったりとかは」

 「このあとの状況次第だ」


 合図が出るまで動くことはできない。

 ばらばらに動いたところで、陣形を整えた艦隊相手には勝てないからだ。

 現在位置は、惑星ヴォルムスからだいぶ離れた宇宙空間。

 海賊の艦隊はそこで帝国の艦隊を迎え撃つ。

 宇宙港や惑星へ流れ弾が向かうのを抑えるためにも。


 「カミラより全体への連絡。惑星の守りは軌道上の防衛ステーションが行うので、艦隊はそのまま行動を開始。大型艦は敵の攻撃を受け止めつつ、シールドの残量に注意して余裕のある艦と適宜交代を。中型艦は攻撃を分散させるため、各自の判断で遊撃を。小型艦は、敵艦隊に肉薄して陣形を崩しなさい。以上です」


 宇宙港にいるカミラからの通信が艦隊全体に届くと、それが合図となって一斉に動き出す。

 まずは大型艦同士が遠距離から撃ち合い、少しずつ距離を詰めていく。

 巨大な光の束がいくつも放たれては、シールドによってかき消される。

 中型と小型の艦船は、遠距離からでは一方的に被害を出すだけなので、まだ動かずに機会を待つ。


 「ファーナ、人型の機械の用意は?」

 「とりあえずヒューケラには五体ほど詰め込みましたが、必要ですか?」

 「色々な使い道がある。敵味方のどちらにおいても」


 ある程度距離が近くなると、中型の艦船が艦隊から少し離れて動いていき、海賊と帝国軍による混戦状態へと移行した。

 大型の艦船から艦載機などが出始めると、メリアが配下に命令を出す。


 「一気に突き抜ける! ついてこれない奴は、敵か味方の攻撃に巻き込まれて沈むだけ。行くぞ!」

 「はいよ、了解」

 「臨時の隊長。そっちこそ沈むなよ?」


 メリア率いる、小型の艦船だけの部隊は一気に加速した。

 敵味方の攻撃どころか、艦船すらも入り乱れる戦場の中、小回りの利く小ささを活かして回避し、あっという間に帝国艦隊に接近すると、シールドの内側から砲台などを潰していく。

 そもそもの話、それぐらいしかできない。


 「ファーナ、部隊の残りは!」

 「移動と今の攻撃の間に、一割消えました。なかなかに迎撃は激しいようです」

 「万全な相手に突っ込めばそうなるか。まあいいさ、次から沈む奴は減る」


 メリアが率いていたのは百五十隻。そのうち十五隻が、宇宙空間を照らす火花となった。

 一度目の攻撃では、対空砲火が激しいために犠牲は出てしまう。

 だが、二度目以降は、砲台などを潰したため犠牲が出ない結果となる。


 「なかなか使えるじゃないか」

 「これで死んでたら、とっくに死んでる」

 「死んだ奴は運がなかっただけだ」

 「よし、口が達者なのがいることだし、艦隊後方へ仕掛ける!」


 艦隊の前衛は激しい攻防が行われており、巻き添えを防ぐために後方へと目標を移す。

 だが、その段階になると無人の機甲兵による迎撃が行われるようになる。

 船体の上に立ち、破壊された砲台の代わりとして、はたまた死角となる場所における簡易的な砲台として攻撃を行うのだ。

 それは宇宙という無重力の環境だからこそ可能な運用であった。


 「め、メリアさん……今、巨大な何かが、この船をかすめたような」

 「狙撃用の大型ライフルだろうね。安心しな。当たらなければ問題ない」


 小型の艦船ならば、機甲兵が持てる程度の武装でも沈めることができる。

 そのためか、ビームから実体弾の割合が増えていくと、損傷するものが相次ぐようになった。


 「厄介なもんだね。人工知能によって動く無人の艦隊ってのは。味方ごと撃つことに躊躇がない!」

 「もし、わたしが艦隊を動かすなら、もっと効率的にやってみせて、海賊たちを蹴散らしてます」

 「張り合うな。それと搭載してるあれを降ろせ」

 「わかりました」


 艦船は素早く動いている関係上、小型の目標を蹴散らすには向かない。そういった武装があるものは少ないために。

 そこで一つの考えができる。

 帝国の機甲兵相手には、似たようなものをぶつければいい、と。


 「一応、回収はほぼ不可能になります」

 「問題ないよ。宇宙船よりは安い」


 艦隊戦の最中に、武装した人型の機械を投入したところで、艦船の爆発に巻き込まれたりなどで回収は不可能に近い。

 しかし、遠隔操作するのであれば話は別だ。

 人工知能であるファーナが動かすなら、使い捨てること前提の運用が可能となる。

 ヒューケラに搭載してあるものは、あくまでも作業用機械から発展した機甲兵もどき。

 最初から兵器として開発された機甲兵とは色々と違うが、戦場においては些細なこと。


 「突入します」


 順番に貨物室から飛び出すと、もっとも実体弾が飛んでくる場所へ慣性を利用して突入した。


 「着地した時の勢いにより全機破損、しかし戦闘は可能です」

 「さすがに無茶をしたが、まあ無人機には無人機だ」


 着地というよりも衝突といった方が正しいが、なんとか全機が艦船の上に降り立つと、周囲の機体と戦闘を開始する。

 武装は機関銃、シールド、ナイフのみ。

 そこまで重武装ではないものの、相手は三メートルほどの人型機械。

 しかも、狙撃用の大型ライフルのせいか動きは鈍い。

 ファーナが操る機甲兵もどきは、瞬く間に数機を撃破してみせると、移動しながら他の機体へと戦闘を継続していった。


 「ふふん、向こうの人工知能は弱いですね。性能に制限でもかかってそうです」

 「そりゃあね。ファーナみたいなのが増えても困るだろうし、制限するだろう」

 「何か含みのある言い方ですが」


 対空砲火が減ると、軽口を言う余裕ができるが、まだまだ決着はついていないので油断はできない。

 無人の帝国艦隊は、あらかじめ決められた動きに従って攻撃を続けているが、船体に穴ができても勢いは弱くならず、海賊側の被害は増えていく。


 「船体に穴ができれば、船員とかが問題になる。だけど人間の船員がいなければ気にしなくていい」

 「船体の半分以上がなくなっても、動力と砲台が生きてれば攻撃できるのって、なかなかに厄介です。とはいえ、やりようはあるんですが」


 船員を必要としないからこその強みは、見方を変えれば弱みにもなり得る。

 ファーナが操作する機甲兵もどきの部隊は、崩壊しても攻撃を続ける艦船へと向かい、動力やエネルギーを通す部分を破壊する。

 もし船員がいれば迎撃ができた可能性があったが、無人ではそれもままならない。


 「状況は順調な限り。あとはどれだけ犠牲を抑えられるかだが」


 海賊側に被害はいくらか出たが、帝国の艦隊はほぼ壊滅に近い状態となっていた。

 その段階になって気づく。

 帝国艦の何隻かが、既にワープゲート付近にまで逃げていたことを。

 それに気づいた海賊は追撃を行おうとするが、その前にワープするのでいなくなった。


 「どうやら、ちゃっかり今回の戦闘におけるデータを取り終えたようだね」

 「一応、追おうとするなら追えます」


 ファーナの言葉に、メリアは首を横に振る。


 「そこまでする義理はない」


 フランケン星系における艦隊戦は、これで決着がついた。

 海賊のうち、生き残った者は盛り上がるが、メリアだけはどこか険しい表情のまま。


 「メリアさん、どうかしました? 勝てたのに険しい表情ですけど」

 「ルニウか。これを見な」


 メリアはヒューケラに届いた通信のうち、文字だけのものを画面上に表示させる。

 そこにはこう書いてあった。


 “知りたいことがあるなら教えましょう。ただし、通信機器の類いは完全に廃した状態で”


 あからさまに怪しいが、色々聞ける好機ではある。


 「通信機器を廃した状態ってのは、少し気になります」

 「何か聞かれたくないことがあるんだろうさ。まあ、あたしが助けを呼ぶこともできないわけだが。……ファーナ」

 「はい」

 「保険をかけておきたい。あたしが予定の時間になっても戻らなかったら、独自に行動していい」

 「任されました。結構無茶苦茶やってもいいですか?」

 「指名手配されないよう上手くやれるなら」


 まともか、まともではない。

 この二択ならば、まともではない側に分類できる人工知能のファーナ。

 そんな存在に、独自に行動していいと許可を出したメリアに、ルニウは少しだけ不安が増していく。


 「め、メリアさん。大丈夫なんでしょうか」

 「知らないね。他に被害が出るとしても、あたしが生き残る方が大事だ」

 「それはまあ、そうですけど」

 「どうせなら一緒に聞きに行くかい? あの時一緒にいたんだ」

 「……では、私も同行させてもらいます。気になることが多すぎるので」


 宇宙港に戻ったあと、二人の前に以前の案内人が現れると、ついてくるように促してきた。

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