第11話 海賊同士の争い
宇宙海賊の活動にはいくつか種類がある。
違法な品々の密輸。航路の通行料の徴収。そして最後に、武力を用いた略奪。
「お頭、ブリッジの制圧が終わりました。警備もほとんど潰しました」
「よおし、もう組織的な抵抗は不可能だ。あとは乗客の皆様から色々と巻き上げるか」
「待ってました!」
「おっと、くれぐれも丁重に扱えよ? 外の護衛の方々に対して、乗客や乗務員の無事な姿を見せつけてやらないといけない」
「へへ、わかってます。人質あっての今ですから」
帝国の首都星セレスティアへ向かう途中だった豪華客船。
それを襲撃した海賊たちは、なにもかもが順調なことを喜んでいた。
共和国のお金持ちが、たくさん乗っているからだ。
手下らしき者たちが上機嫌な様子で移動しようとするが、お頭と呼ばれた男性は声をかける。
「ああ、そうそう。一つ言っておくことがある。黒い髪と青い目をした美人がいたら、かすり傷すらつけずに連れてこい。名前はリア」
「へえ……? ルガーのお頭が、わざわざ言うとは。そんなに美人なんですか?」
「ああ。帝国の貴族並みだ。一人で船内のバーにいたから、つい声をかけてしまうほどにな」
男性は手で髪型を軽く変える。
その姿は、酒場でメリアに声をかけた若い男性そのものであった。
「うわ、ひでえ。俺たちは宇宙で待機してたのに、お頭は豪華客船で遊んで、しかも良い女と知り合いになるとか」
「うるせえ。俺以外にもこの船に乗ってる奴はいただろうが。乗客や乗務員に紛れて……。とりあえず、文句は稼いだあとならいくらでも聞いてやる」
さっさと行けとばかりに手で追い払うと、ルガーと呼ばれた男性は残った者たちの方へ振り返る。
クルーを監視している海賊団の者以外には、縛られている男女が床に二人ほど転がっていた。
「いやあ、どこかの親切な誰かさんのおかげで、警備の人数や装備、船内の内部構造を揃えることができた。おっと、セキュリティの無効化に、どの航路を進むかの情報もか。まったくもって嬉しい限りだな?」
「貴様……このようなことをして帝国軍が黙っているとでも」
「騎士様よ。そんな姿で言われても説得力がないぜ?」
床に転がっているのはどちらも帝国の騎士。
帝国の領域内で堂々と一般の船を襲撃してみせた海賊に対し、怒りに満ちた視線を向けていたが、縛られているせいかあまり効果はない。
「……捕まったのは我々だけですか?」
「そっちの騎士様は少しは話せそうだ。この船にいる騎士はすべて捕まえたさ。協力して逃げられても困るから、全員別々に閉じ込めた」
「我々も、どこかに閉じ込められるわけですか」
「そうなるな。なに、乗客や乗務員はできる限り殺さないようにするから安心してくれ。まあ、警備の奴らは抵抗したから殺したが。おい、連れていけ!」
「わかりました」
騎士二人は立たされると、数人の海賊に引っ張られる形でブリッジから出ていく。
人が少なくなったブリッジにおいて、海賊団を束ねるルガーは辺りを見渡すと、わずかに首をかしげた。
「何人か少ない気がするが。どこいった」
「えーと、そのー、お頭に黙って厨房の方に。なんでも、金持ちの乗る船のメシが気になるとか言ってて」
「ったく、厨房の方に連絡入れろ」
船内同士ならどこでも通信ができる。
何か異常があれば、乗務員がすぐ報告できるように。
今は逆に海賊たちがそれを利用している。
勝手に持ち場を離れた部下を一喝するつもりのルガーだったが、一向に連絡に出ないので、少しずつ表情は険しくなっていく。
「カメラは繋がるか?」
「駄目です。表示されません」
「……どうやら、まだ抵抗する奴がいるようだな。全員に警戒するよう伝えろ」
「は、はい!」
「こちとら数百人。ちっぽけな抵抗なんぞ踏み潰してやる」
先程までの余裕は鳴りを潜め、どこまでも冷徹な表情となって、画面に表示される船内のマップを眺めていた。
「ぐえっ」
「て、てめえ!」
「邪魔だよ。眠ってろ」
豪華客船のブリッジが制圧されている頃、メリアは船内の厨房で海賊たち相手に戦っていた。
どう動くべきかメリアが悩んでいたところ、数人の海賊たちが厨房に入っていったので、あとをつけて襲ったのだ。
まずビームブラスターで麻痺させたあと、殴ったり蹴ったりして物理的に気絶させる。
あっという間に決着はついた。
「がは……」
「さて、シェフの人たち。こいつらを縛るから手伝ってくれ」
「あ、ああ」
数千人分の食事を用意するだけあって、厨房の大部分は機械によって自動化されている。
ただし、従来のように人間が調理する場所もあり、そこには十数人のシェフがいた。
「警備の人じゃなさそうだけど、あなたはいったいどこの……」
「なんだっていいだろ。海賊をどうにかしたいと考えてる。それで充分なはず」
「……わかった。助けてもらったことだし、何も聞かないことにする」
協力して縛り上げたあと、ヘルメットに通信が入る。
「メリア様、大丈夫ですか?」
「問題ないよ。そっちのハッキングはどうだい」
ヘルメットの通信機能を通じて、メリアとファーナは離れていながらも会話ができる。
とはいえ、内容を聞かれては困ることがあるため、どうしても小声になってしまう。
「今はまだカメラを弄るのが精一杯です。時間が必要です」
「そうかい。こっちは今、少しはまともな武器を調達したところだよ」
メリアの武器は、非殺傷設定のビームブラスターのみ。乗客として乗り込む時、それしか持ち込むことができなかったからだ。
しかし今は、気絶している海賊から現地調達することで、多少はまともな武装を揃えることができた。
「殺傷設定のブラスターはともかくとして、実弾のアサルトライフルとは贅沢なことだね」
「実弾は贅沢なんですか?」
「正規軍ならともかく海賊の場合はそうなる。ブラスターはエネルギーをチャージすればいい。でも実弾を使うやつは弾薬をそこそこ用意しておかないと使い物にならない」
ガタッ
会話の途中、背後から音がするのでメリアは振り返る。
するとそこには、縛られた状態からどうにか抜け出した海賊の一人が、ナイフを持って襲いかかろうとしているところだった。
「う、うぅ、許さねえ……!」
「鬱陶しい」
メリアはため息混じりにライフルで殴りつけると、一撃で返り討ちにする。
「まあ、そこそこ大きいから、弾薬がなくてもこうして殴る道具には使えるが」
「今ぐちゃって音がしました」
「死なないなら、再生治療でどうにかなるだろうさ」
新たな武器を持ったメリアは、スタッフ用の通路を通って厨房から離れる。
できることなら、海賊から色々と聞き出したいところだが、その途中で増援が来てしまえば危険だからだ。
「ファーナ、警備とかがいるところはわかるかい?」
「少し待ってください……船内のカメラで確認しましたが、既に制圧されてますね。死体とかが転がってます」
「船内の戦力には頼れないか……いや、待った。格納庫辺りは?」
このあとどうするべきか悩むものの、メリアはある話を思い出す。
口説いてきた男性が話した、騎士と機甲兵のことを。
ほぼ生身の状態では危険でも、乗り物を利用すればだいぶ安全に戦える。
「格納庫となると、メリア様がいるところからはだいぶ遠いです」
「問題ない。重要なのは海賊の人数だよ。遭遇したのが数人なら仕留めることができるが、あまり多いとあたしの身が危険だ」
「では、十人以上になりそうな時に報告します。ハッキングの処理に集中するので」
「頼んだよ」
通路は余計な障害物がないシンプルなものだが、それゆえに移動には注意しなくてはいけない。
隠れる場所がない時に、撃ち合いになるのを避けるためにも。
巨大な豪華客船だけあって、通路の壁には時折、今いる階層のフロアガイドが設置されている。
上か下の階層に移動すれば、また別のフロアガイドを目にすることができるだろう。
「便利だけど……それは海賊にとってもか」
おかげで現在地と向かう場所がすぐにわかり、メリアは迷うことなく進むことができたが、当然ながら道中には海賊がうろついていた。
「あーあ、俺たちは何もない通路か」
「厨房辺りに行ってみてえなあ。うまそうなものが食えるだろうし」
「よせよせ、あまり勝手なことしたら、お頭に怒られちまうよ」
曲がり角で一度止まり、慎重に確認すると、足音と声から五人以下なのが予想できた。
なのでメリアは一気に仕掛けた。
曲がり角を飛び出すと同時に、ライフルを連射し、まずは一人を仕留める。
通路にいるのは三人。武器を構えようとするが、それよりもメリアの方が早い。
「くそ、こんなところにまだ」
「遅いよ」
殺傷設定にしたビームブラスターを一人に当て、最後の一人は地面に叩きつけるように押し倒した。
「ぐ、ご……」
「息はあるようだし、質問しよう。この船に海賊は何人くらい侵入している?」
「さあ、な」
バシュッ
ビームブラスターが無言で膝に放たれる。
集束率を限界まで高め、威力をやや落とした一撃であり、死なないよう痛みを与えることを目的としていた。
「ぐっ……あああ……!」
「もう一度質問しよう。この船に海賊は何人くらい侵入している?」
「誰が、話すか。話してもどうせ殺されるってのに」
「それなら仕方ない」
長く時間をかけるわけにもいかず、メリアは海賊にトドメを刺した。
そのあと格納庫へ急ぐも、さすがにそれなりの人数がいた。
万が一にも、帝国の騎士が機甲兵に乗り込まないようにするためなのは明らかだったが、その時ファーナからの通信が入る。
「二十人はいます。それに増援らしき者も数人ほど近づいているので、一度下がった方が」
「悩ましいね。乗り込めたら、一掃できるんだが」
視線を動かせば、格納庫の中には人型をした機械がいくつか存在している。
華美な装飾が施され、一目見て特別なのがわかる代物。それは帝国の騎士が乗る機甲兵。
「そもそも、動かすには認証などがあるのでは? 特別な代物であれば特に」
「なら、騎士とやらを助け出してしまおうか。それらしき姿は見てないかい?」
「カメラに映っているといいんですが……」
ファーナの調査は時間がかかりそうなので、メリアは一度格納庫から離れる。
「……発見しました。全員、上層部分に閉じ込められており、助け出しても格納庫に向かうのは難しいかもしれません」
「ハッキングが進めばどうだい? 隔壁を操作できれば、色々やれるが」
「そのためには時間が」
「やれやれ、適当に暴れるか。それと、海賊の大まかな人数はわかるかい?」
相手の規模次第で、どう暴れるべきかが決まるため、メリアは尋ねた。
「数十から数百としか。確実な人数は不明です」
「不明なら最大に見積もって行動する」
とにかく広い範囲を動き回って海賊を襲う。
そうすることで一ヶ所に固まらせないようにし、居場所を予想できないようにする。
結果として、乗客へ向かう分の者を用意できないようにすることが、ハッキングが完了するまでの大雑把な目的となった。
「それと、ソフィアの様子は?」
「さすがに不安そうにしてますが、おとなしい限りですよ」
「それならよかった」
メリアはこのまま通信を終えようとするが、ファーナは言いたいことがあるのか切らずに話す。
「わたしの心配はしてくれないんですか?」
「こうして話せているのに、心配も何もないだろ」
「やる気に影響します」
「…………」
「何か言ってくれないとハッキングの速度が遅くなるかもしれません」
「この状況で脅してくるとは大した人工知能だよ、まったく。……ファーナ、大丈夫だったかい?」
「はい。メリア様が行動しているからか、海賊は今のところ来ないので、余裕をもってハッキングできています」
たった一人で船内を動き回って暴れるメリア。隠れて船をハッキングしていくファーナ。
その組み合わせは、海賊側の動きをいくらか制限することに繋がっていた。
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