#53 無為に過ごす日々




 離婚が成立して、年が明けてもしばらくは同居生活が続くが、リカコさんの今の所でのリハビリは3月で一区切り付けて終了となり、4月には賃貸マンションの契約解除し、リカコさんは実家に戻り俺も出て行くことになる。

 なので、リカコさんとの婚姻生活と離婚後の同居生活を合せると2年と9カ月程で、日数にするとほぼ1000日程度。




 リカコさんとの離婚協議では、当初俺からは財産分与100+慰謝料100と提示した。

 少ないとは思うけど、遠慮した訳では無く、婚姻期間2年半って短いし、俺の現金収入はリカコさんに比べれば微々たる物で、こんなもんだろと軽く考えての提示額だった。

 マンションは賃貸だし廃車になったアルファロメオはリカコさんが結婚前に購入した物だったし、現状共有財産と呼べるものは婚姻期間中のお互いの現金収入くらいである。

 因みに、リハビリの送迎用に購入した中古のミニバンは、俺の独身時代の貯金から購入しており俺の名義になっている。


 しかし、リカコさんからは1500+100と俺の提示額より大きく上回る額を提示してきた。

 リカコさん曰く、1500は2年半の婚姻期間中の主夫業+離婚後の介助他に対してで、+100は俺が要求した慰謝料分とのこと。


 つまり、俺の主夫としての報酬が1500と考えると1日1万5千円の日当と計算できる。

 それが多いのか少ないのかは分からないが、俺の主夫としての仕事に対するリカコさんからの評価と言える。


 具体的にそこまで説明してくれた訳ではないけど、ずっと頑張って来た主夫の仕事を評価してくれたのは純粋に嬉しかった。

 何せ、年収で考えれば会社勤め時代よりも多い。

 もともと主夫としては素人からのスタートだったし、家賃は勿論食費や光熱費だってずっと出して貰ってた。逆に俺は、遊びに出掛けることもほとんど無かったので、俺が負担してたのは自分のスマホ代と中古車購入費くらいだ。

 なので、この額は俺としては貰い過ぎだと思った。


 けど、協議の際にリカコさんの資産の正確な額も説明してくれて、俺にこれだけ払っても大丈夫だと言い、弁護士さんからも、受け取っておくべきだとアドバイスもあったので、最終的にはそれで合意した。



 不貞行為に関してはリカコさんも斉木も最初から認めており、慰謝料請求にもすんなり応じたこともあって、年明け早々には決着がついた。

 俺から斉木に対しての慰謝料は200で請求したが、既に振り込まれており、示談書も取り交わした。

 斉木の奥さんからリカコさんへの請求額は100だったらしく、それも既に振り込み済みだ。


 あとは、事故に関する損害賠償請求だが、車やその他物損の弁償、怪我の治療+リハビリ費、慰謝料、そして休業損害と、相当な額だそうだ。


 不貞行為に関しての決着後に、1度だけ斉木の元奥さん(離婚済)が俺に連絡をくれて色々教えてくれたのだが、斉木は会社を懲戒解雇となり、自宅と土地に有価証券等を売却して奥さんとの財産分与分から慰謝料や損害賠償の支払いに充てたそうだが、それでも足りず実家に肩代わりして貰ったそうだ。(実家は資産家?)





 今回、一番世話になったハルカさんだが、あの日以降も相変わらずウチに遊びに来る。

 むしろ俺たちが離婚して以降は更に遠慮が無くなり、ウチに来るとお酒飲んで酔っ払って泊まって行く様にもなった。

 そんな時は、俺は一人で衣装部屋で寝て、リカコさんとハルカさん、そして犬たちは寝室で寝る。


 以前はハルカさんに対して『暑苦しい』と言ってたリカコさんは、あの日を境にハルカさんに心を開き、ハルカさんが泊まって行くと遅くまで二人で話し込んでる様で、今じゃ俺以上に仲良くしてる様に見える。


 因みに、料理教室のアルバイトの方は、週に1~2回は行くようにしていた。

 教室では生徒さんたちは相変わらずで、今でも暇と欲求不満を持て余した主婦達の巣窟だ。





 沼津の元義両親は、離婚成立直後の年末に一度来てくれて、俺に対して謝罪してくれたが、ご両親は何も悪くないし、寧ろお義父さんからは何度もリカコさんのことを頼まれてたのにこんなことになってしまったことが申し訳なくて、俺からも謝罪した。


 そして、この日俺の前で、お義父さんもお義母さんもリカコさんに対して初めて烈火のごとくお説教してたが、この時ばかりはリカコさんも意気消沈して、ご両親にも神妙に頭を下げて謝っていた。

 ご両親が帰った後に、「あんなに怒られたのは、初めてだわ」と言って、リカコさんはしばらく凹んでいたくらいだった。


 ただしご両親には、離婚に関して円満離婚であることを俺から強調しておいた。

 リリィのことがあったので、今後は近況報告程度は出来る様にしておきたかったからだ。


 リリィはリカコさんが引き取り、沼津へ連れて行くことになった。

 リカコさんが選んだ犬で名前を付けたのもリカコさんだし、リリィが居てくれたらリカコさんも寂しくないだろうと思いそうしたのだが、やはり俺も寂しいので、毎年盆と正月くらいは写真でも送って下さいとお願いしてある。



 あと俺の実家に関しては、事故の時に状況を報告して以降ほとんど連絡をしておらず、離婚成立後に事後報告したら、電話越しに口うるさいことばかり言われてかなりうっとおしかったので、実家に帰ると言う選択肢は無くなった。


 なので、転居先探しや就活もしなくてはいけないのだけど、最近はダラけ気味で、あまり進んでいない。

 やる気が起きないというか、身が入らないというか、主夫で一生やってくつもりだったので、いざ離婚して会社勤めに戻れと言われても、気持ちが全然そっちに向いてくれない。

 それだけ主夫という職業に未練があるということなんだろう。


 そんな状態で、慰謝料や財産分与で大金を手に入れてしまったのも良く無かった。

 実際の話、結婚前の貯金も合わせれば、節約すれば働かなくても5年くらいは余裕で何とかなってしまう。


 無職(一応アルバイトもしてるからフリーター?)になり、目標が無くなり、なのにお金はある。

 正しく主夫から無職へのダメなパターンだ。


 そんなダメな無職に片足突っ込んでると、時間はあっという間に過ぎる。





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