#38 術後と周りの混乱模様




 看護師さんの説明では、右脚の膝周辺を骨折しており状態も酷く、砕けてしまった骨を繋ぎ合わせる為の手術が必要で、診断後にそのまま手術室に入ったそうだ。


 詳しいことは手術後に担当した医師から説明があるらしく、看護師さんからはそれ以上詳しいことは聞けなかった。

 そして、同乗者が一人居たことも分かったが、その方は軽傷で、念のために一緒にこの病院に運び込まれたが、既に治療も終わり帰った後で、名前や連絡先は教えて貰えないので、事故処理した警察署に問い合わせる必要があった。


 手術が終わるまでまだ時間がかかるとのことで、待ってる間に一度警察に連絡してみたが、夜遅かった為に翌日問い合わせて欲しいと、その時は何も聞くことが出来なかった。


 その他にも、待ってる間に看護師さんが持ってきた多数の書類(問診表や入院の申請とか情報の取り扱い等の同意書などなど)を記入したり、俺の実家にも連絡したりしていると手術が終わったが、麻酔が効いてて寝ているとのことで、そのまま入院する部屋に移動することになり、俺の方は面会は後に回して先に医師から説明を聞くことになった。


 医師の説明では、命に別状は無く手術も予定通り終わったが、神経がかなりキズ付いている為、骨がくっ付いた後も歩行訓練のリハビリが必要で、後遺症が残るかもしれないそうだ。

 また、脚以外にも顔や腕などを怪我しているが、そちらは軽傷で、キズなどは残らないだろうと。


 説明が終わり、ナースステーションで入院した部屋を確認すると、「面会時間外なので手短にお願いします」と言われ、病室へ行くとリカコさんはベッドで寝ていた。


 額と頬にガーゼが貼られてて顔色は青白く、痛々しかった。

 乱れていた前髪を手櫛で整えてあげて、頭を撫でてみたが、反応はなく、ただ静かに呼吸を繰り返しているだけだった。


 でも、ようやく顔を見れたことで一気に気が抜けてしまい、置いてあったパイプイスに腰を降ろすと、ベッドの脇にリカコさんが泊まりの出張の時に使う旅行バッグと普段使ってるバッグが置いてあることに気が付いた。


 普段使いのバッグの中を確認すると、スマホや財布などが入ってて、どれも事故による破損や故障は見られず、警察や病院での手続きに免許証や保険証などが必要になるかもしれないので、身分証等は預かることにした。


 明日まで目が覚めないらしいし面会時間外でもあったので、もう一度リカコさんの表情を確認してから病室を出て、ナースステーションでお礼を告げてから自販機のある談話室へ移動して、藤田さんと義両親に『さっき手術が終わって、面会出来ました。 命に別状はありませんが、しばらく入院が必要になりました』と連絡すると、どちらも今病院に向かってる途中で、藤田さんはもうすぐ到着するとのことだった。


 連絡を終えた後、義両親の宿泊用にビジネスホテルを手配して、喉がカラカラだったので自販機で缶コーヒーを購入して、休憩することにした。


 そういえば、夕食を作ろうとしてたタイミングで救急隊員から連絡が入ったから、夕食を食べ損ねて昼食にインスタントラーメンを食べてからは何も腹には入れてなかった。

 でも、空腹感はあるけど全然食欲が湧かない。



 藤田さんが到着すると、「折角来てもらったけど面会制限があって、家族以外は面会出来ない」と説明すると、それはそれで仕方ないと言ってくれたが、同乗者が居たことも話すと顔色を変えて、「社長接待での事故で同乗者が居たとなれば、取引先でも重役クラスに迷惑かけた可能性があります。そうなれば非常に不味いことになりかねないので、相手の氏名など分かったらすぐに教えて欲しい」と焦り出したので、明日警察に問い合わせる予定で、必要なら警察署まで出向くつもりだと話すと、藤田さんも同行することになった。


 それからしばらくしたら義両親も到着したが、俺から詳しい説明をすると、安心した表情を浮かべながらも相当疲れ切っていた様子だったので、手配したビジネスホテルを教えて、そちらで休んで貰うことにした。



 再び俺と藤田さんの二人になると、藤田さんに最近の会社でのことを色々と聞くことにした。

 既に深夜1時近かったけど、藤田さんは嫌な顔1つせずに俺の相手をしてくれて、1つ1つ丁寧に教えてくれた。


 昨年の秋頃にリカコさんからスタッフの増員と新規事業などの方針の説明があり、社長自ら営業の陣頭指揮も執ることになったそうだ。

 最初は新規顧客を増やそうと、中小企業を中心に県内に留まらず関東や関西などにも手分けして飛び回ってたそうだが、あまり上手く行ってなかったそうで、今年に入ってから方針転換することになり、既存の取引先を中心に営業して新規サービスの売り込みをすることになり、その中でも売上高が高く付き合いも長い企業(A社)はリカコさんが一人でやってた頃からの取引先だったこともあり、リカコさん自身が担当すると言い出して、それで社長業務の傍らで頻繁にそのA社に出向くことが増えて忙しくなってたそうだ。

 更にはA社以外にも新規開拓の為の営業も自身で続けてて、2月3月と相当無理している様だったが、4月に入ると「A社で新規サービスの契約が取れそう」だと言って、リカコさん自身の新規開拓の営業は中断して、A社に絞って動いてたらしい。


 なので、今回の事故での同乗者は、そのA社の人間だと思われ、そこは売上高でもトップの取引相手だった為に、藤田さんは相当焦っているということだった。


 他にも会社に居る時の様子なども聞くと、結婚以来いつも機嫌が良くて他のスタッフのことを気に掛けてくれてたが、今年に入って営業現場に出る様になってからは疲れていることが増えて、藤田さんから見ても余裕が無い様子で心配だったが、6月くらいからはだいぶ落ち着いた様子に戻って、最近は休日出勤や接待などの話は聞いて無かったそうで、今回の事故の連絡を受けた時も、てっきり夫婦水入らずに旅行でもしていると思ったそうだ。


 なんで会社には報告せずに接待してたのかは、分からない。

 分からないけど、あまり良いことでは無いのだろうという想像は付いた。


 藤田さんも同じように考えたのか、そのことはお互い口にはしなかった。





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