#36 結婚生活3年目



 食事の後、冷蔵庫からシャンパンを出して乾杯すると、リカコさんは何杯も御代わりして、珍しく少し酔っていた。


 そのせいで、お風呂に入るように勧めても「少し酔いを醒ましてから入りたいから、フータが先に入っていいわよ」と言うので、食事の片付けや洗い物は後回しにして、先にお風呂に入ることにした。



 体を洗って湯に漬かると、リカコさんが帰ってからずっと感じてた緊張感が熱い湯に溶けた様に脱力して、目を閉じて考え事を始めた。



 無謀だと思っていた賭けに勝ったのに、俺は内心ではスッキリしていなかった。

 それは、色々と引っかかっているからだった。


 リカコさんの態度や表情が、昨日までとはあまりにも違いすぎる。まるで俺の機嫌でも取ろうとしてる様にすら見えてしまう。

 それに、俺の誕生日のことだって、忙しくてお祝い出来なかったと言ってたことも引っかかる。

 忙しくても「誕生日おめでとう」くらいは言えたはずだ。

 多分、本当は忘れていたのを後で思い出して、今更言い辛くて忙しかったことを言い訳にしたんだろう。


 誕生日を忘れてしまったことに罪悪感があって、今日は俺の機嫌を取ろうとしているのか?


 それだけのことだったなら良いのだけど、でも何かスッキリしないモヤモヤ感がある。それが何故なのか、自分でもよく分からない。




 と、一人お風呂で考え事をしていると、洗面所にリカコさんが入って来て、服を脱いで「久しぶりに一緒にいい?」と言って、お風呂にも入って来た。


 リカコさんがシャワーで体を洗い始めたので、湯船からリカコさんの体を眺めていると、湯の中でイチモツが硬くなってきた。


「酔いはもう大丈夫なんですか? リカコさんがシャンパンで酔うの珍しいですよね」


 リカコさんが体を洗い終わってシャワーを止めたので、湯船に入って来ると思い、入りやすい様に立ち上がりながら声を掛けるが、リカコさんは俺の元気なイチモツを見ると、湯船には入って来ずに俺の腕を掴んで湯船から出る様に引っ張って来た。


「お口でしてあげるから、ここに座って」


 そう言って俺を湯船の縁に座らせると目の前にしゃがみ、俺のイチモツを右手で掴んで強引に口で始めた。



 * * *



 口でして貰うのは本当に久しぶりだったし、最近してなかったから溜まってたのもあって、直ぐに逝ってしまいそうになり、平日だったけどココまでしてくれるなら本番までしたかった俺が中断して貰おうと声をかけるが、リカコさんは止めてくれず、結局そのまま口に出してしまった。


 その後、リカコさんは再びシャワーを出して口をすすぐと、「これでスッキリしたでしょ?うふふ」と機嫌が良さそうに言いながら湯船に入り、機嫌を損ねるのが怖かった俺は、「本当は最後までしたかったのに」という言葉は口に出さずに飲み込んだ。



 しばらく二人で湯船に漬かっていたけど、のぼせそうなので俺だけ一足先に出て、髪を乾かしパジャマを着てから食卓やキッチンの片付けを始め、それが終わると翌日の朝食の準備を始めた。


 その間にリカコさんもお風呂から出て、洗面所で髪を乾かすと、リリィを連れて寝室に入って行った。


 しばらくして、一通り家事を終えて俺が寝室に行くと、部屋の電気は消えてて、リカコさんもリリィも既に寝ていた。


 やっぱり、何か可笑しい。

 俺に対して夫婦らしい言動をしてても、以前のラブラブモードとは違う様に感じる。

 






 結婚生活3年目がスタートしたが、翌日以降も朝はいつもの様に会話は少なくて、夜も連日帰って来るのは遅かった。


 そして、結婚記念日のリカコさんの言動で更に疑心暗鬼になった俺は、腫物を触るように次第に機嫌を取ることばかり考える様になっていた。


 少しでも元の仲良かった頃の様に戻したくて、愛想よく振舞いつつ少しづつでもコミニュケーションを取ろうとするのだが、下手なことを言って機嫌を損ねないように気を張って、リカコさんが家に居る時は俺だけ常にピリピリしてて、リカコさんが出勤した後など一人になった途端、まだ朝だというのにドッと疲れがでてくる始末だった。



 7月に入ってもそんな状況が続いてて、よっぽど俺が疲れている様に見えたのか、仕事中にハルカさんからも心配されるようになっていた。

 

「最近、朝から凄く疲れてない?何かあったの?」


「昨日は寝るのが遅くて、寝不足気味なんです」


 最近リカコさんの帰宅を待たずに寝てしまうので、寝不足というのは嘘だった。

 今のウチの事情を人に話す気は無いので、適当なウソで誤魔化したのだが、でもハルカさんもしつこかった。


「本当にただの寝不足? 最近町田さん(リカコさん)も夜遅いし週末もお仕事してるんでしょ? フータローくんのお家に遊びに行きたいって言ってもここのところずっと断るし、何かあったんじゃないの?」


「リカコさんは今、会社が凄く忙しいですからね。疲れてるのにハルカさんみたいに騒がしい人がウチに来たら、休めないでしょ?」


「年上のお姉さんに向かって騒がしいって酷くない!? 私の場合は、天真爛漫って言うの!」


 以前なら、「今年で32になる女を天真爛漫とは言わないでしょ」と冷静にツッコミを入れるところだけど、そんな元気も出なくて、「そうっすね。天真爛漫っすよね」と無気力に答えてしまう。


「やっぱり元気無いよね? 体の調子はどうなの?病院に行ってみたら?」


「大丈夫ですって。心配しなくても仕事はちゃんとしますから」


「うーん、大丈夫っていうなら良いけど、あまり無理しないでね。困ったことがあったら遠慮なく言ってね」


「はい、ありがとうございます」


 いつもと立場が逆転してしまっている。

 それ程、俺が疲れ切ってる様に見えるってことか。



 一瞬、「いっそのこと、ハルカさんに相談してみるか?」と頭をよぎり、俺を心配してくれてるハルカさんを見つめた。



「あー!また私の胸見てたでしょ!?折角ひとが心配してあげてたのに!セクハラバイト!!!」

 ハルカさんはそう叫び、大袈裟に胸を隠しやがった。

 


 ナニ言ってんだ、このおばさん。俺はそれどころじゃないっつーのに。だいたい、そんなにデカい爆乳が目の前でぶるんぶるんしてたら、そりゃ見ちゃうでしょ。

 無意識にだよ?




 でも、相変わらずノー天気で暑苦しいハルカさんのお蔭で、気が紛れて少し元気が出た。

 本当に少しだけね。









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