#33 多忙が続く妻の変化
俺の風邪は少し長引いてしまい、料理教室でハルカさんや生徒さんたちに
その間もリカコさんはずっと仕事が忙しく夜帰って来るのも遅く、俺も少し持ち直して簡単な家事をこなせるようになってもリカコさんには感染さないように接触を避けてたし、寝るときは時間も部屋も別々だったので会話を交わす機会はほとんど無くて、
俺とリカコさんは相性が良いと言ってても、それが理想の結婚相手とは全く別だと今更気付いてしまった。
この数日、その事をずっと考えていたが、いくら理想と現実との隔たりを感じていても、それが致命的なものだとは思わないし、結婚は会社の時のように簡単に辞められないし、今更やり直すことはあり得ない。
もしかしたら、高熱で弱気になってた時にリカコさんに構って貰えなくて、スネてただけかもな。
むしろ今は、自分で決意してリカコさんと結婚して主夫になることを選んだのだから、後悔してはいけないと思う。
今の俺にとって大事なのは、この生活を守ることであり、逆にリカコさんに迷惑を掛けて、俺が重荷になってしまうことには恐怖すら感じる。
それに、今年の4月にはリカコさんは29歳になり、結婚当初に二人で相談して決めた妊活も始める予定だ。
そうなればリカコさんの負担は更に増えるし、子種を提供するしか出来ない自分の必要性を他にも示すためにももっと頑張って、リカコさんに不安を抱かせるようなことは無くしておきたかった。
翌週の月曜日からは、家事も仕事も完全復帰して、寝るのも寝室に戻って、朝と夜のキスとハグも再開し、週末の夜の夫婦生活も当然復活した。
リカコさんに迷惑掛けてしまったことを謝ると、「私の方こそフータが病気だっていうのに何もしてあげられなくて、ごめんね」と謝ってくれて、「お互い体調管理には気を付けましょ」と言ってくれたので、まずはひと安心して元の生活に戻った。
料理教室の方では、ハルカさんには何度も謝罪とお礼を伝えると、「私のがお姉さんだからね」とやたらとお姉さんぶってて、生徒さんたちにも「フータローくんは私が居ないとなんにも出来なかったんだよ?これでようやく私の有難みを分かってくれたよねぇ?」と調子に乗りまくってたけど、本当に感謝してたので、言いたいだけ言わせておいた。
ハルカさんは俺やリカコさんと違って、相変わらずノー天気で、そういうところはちょっぴり羨ましいくらいだ。
◇
2月が過ぎて3月に入り、年度末が近づくと、リカコさんは更に忙しそうだった。
何度か「少しはセーブしないと、体壊しますよ」と言ってみたけど、「うん、わかってる」と言いつつ結局仕事のペースは変わらなくて、次第に俺が体調のことを心配すると面倒そうな表情をするようになった。
そして、そのリカコさんの態度の変化は、週末の夜の夫婦生活にも影響が出てしまった。
普段なら休憩を挟みながらも何回戦もするのに、その日一回戦が終わると「今日は疲れてるから」とシャワーも浴びずに寝てしまった。
以前ならセックスの後にそのまま寝ようとしても、無理矢理起こしてシャワーを浴びさせてからパジャマを着せて寝かせてたけど、その日は金曜で日中働いた後だし最近のハードワークを見ているから、起こさずにそのまま寝かせてあげた。
しかし翌日の土曜は休日だったけど、その夜も同じように一回戦で終わってしまった。
結婚して以来ずっとセックスの主導権は常にリカコさんに有って、リカコさんの方からこんな風にあっさり終わってしまうことは無かったし、それが二日続けてというのは俺には異常事態に思えた。
なので翌朝、朝食を食べながら「やっぱり仕事の方をもう少しセーブしたら?」と苦言を呈すと、「そんなにしたかったら風俗でも行けば良いじゃない。アナタだってそれくらいのお金は稼いでるんでしょ?」と嫌味で返された。
何言ってんだ?と俺も喧嘩腰になりそうだったけど、喧嘩しても何も解決しないのは分かり切ってるので、「リカコさんの体が心配なだけです。余計なお節介言ってすみませんでした」と言って、さっさと朝食を食べ終えると先に席を立ち、リカコさんとは目を合わせないようにしながらキッチンで洗い物を始めた。
以前なら、リカコさんは仕事が忙しくなると欲求不満になることが多くて、激しいセックスを求める傾向があった。
しかし最近では、欲求不満では無くストレスを相当ためている様に見える。
そして今朝は、俺に対してもイライラしているように見えた。
今までスネてぶすくれることはあったけど、そんな可愛げがあるような態度では無く、「なんか文句あんの?」と言いたげな表情で、下手に何か言い返せば喧嘩になるのは間違いなさそうで、俺が我慢するしかその場では思いつかなかった。
こんなことは結婚してからは勿論、学生時代からの長い付き合いの中でも初めての事だった。
それにリカコさんはこの週末、リリィの散歩もサボっていた。
リリィを買う時に決めた『サボったら罰ゲーム』の約束も言えるような空気では無かったので、諦めて俺がリリィを散歩に連れ出した。
夕方、日が陰ってから散歩に連れ出して、まだ肌寒い中をリリィと歩いていると、心当たりが無いのに八つ当たりされる理不尽さと、どうしたら機嫌を直して貰えるのか分からなくて、何度も溜息ばかりが零れた。
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