#30 公私ともに充実



 3人兄弟の長男のさがなのか、俺は人から頼られるのに弱い。頼られると嬉しくていい顔しようとしたり、頼みを断ることに罪悪感を感じてしまう。

 子供の頃から自覚してて、実家に居た高校生までは損な性格だと思ってたけど、実家を出て一人暮らしの学生生活を経て社会人になって働いているウチに、周りに頼られない人のがもっと損(信頼されていない。無能だと思われている)だと気付いて、『これは自分の長所なんだ』と考え方が変わった。


 リカコさんに、家事を担う主夫として、そしてセックスのパートナーとして選ばれたことは、それだけ俺を頼りにしているという最たるものであり、結婚後も夫としての働きが認められ『最高のパートナー』と言って貰えたことに喜びと責任感を感じているし、ハルカさんからも、料理教室でアシスタントになってからはアルバイトの分を越えて会社経営に関してまで頼りにされるのは、遣り甲斐を感じるほど嬉しかった。


 だから、俺から見れば、リカコさんとは夫婦として相性が良いと思ってるし、ハルカさんとはビジネスのパートナーとして相性が良いと思ってる。



 でも、ハルカさんに私生活の中で頼りにされるのは、ちょっと面倒だと感じている。

 ケガしたと聞けば心配だし、困っていれば迷わず助けるけど、使用後のピンクローターの後始末は拒否させて貰おう。


 今回の件は、当時婚約者だったリカコさんの時とは訳が違う。

 俺だって色々経験してるアラサー主夫だからな。

 独り身で寂しい独身女性の性生活に首突っ込むのが危険なことくらい分かる歳になったのさ。

 開けてはいけないブラックボックスの危険度くらい察知出来るってもんだ。


 ということで、飛び出していた丸いローターやコードを中に戻してファスナーを閉めて、元のあった場所に置いて、マリンちゃんにも「ハルカさんの大事な物だから、触っちゃダメだよ」と教えておいた。



 一通り2階の片付けを終えると1階に降りてヤカンに水を入れてコンロに掛け、マリンちゃんにはお水をあげて、コーヒーを煎れるマグカップを食器棚から2つ取り出した。


 冷やしたお陰か大分痛みは引いた様で、もう泣いてはいなかった。

 ピンクローターの存在に気付いたことを悟らせない様に完璧なポーカーフェイスで、コーヒーの準備をしながらハルカさんに話しかけ、色々と確認していく。

 因みに、ハルカさんはコーヒーにはいつもミルクと砂糖をたっぷり入れるが、酔い覚ましと夜の貴重な家族の時間を邪魔された細やかな意趣返しで、濃いめのブラックだ。



 ハルカさんは病院の予約を自分で済ませたらしく、明日は9時半までに病院へ行くことになったので、俺は8時半頃にココへ来て、ハルカさんの車を俺が運転して病院へ行くことになった。


 後はコーヒーを飲みながら、俺の方で明日の教室の参加者へ『ハルカ先生負傷の為、明日の教室はお休みします。ごめんなさい』と連絡メールを発信すると、ハルカさんを心配する返信や通話が来たので、それにも1つ1つ俺が対応した。


 一通り終わったので帰ろうとすると、ハルカさんは「もう帰っちゃうの?」と言ってまた泣きそうな顔をしてたので、掛布団を掛け直して頭を軽く撫でると表情が緩んだので、マリンちゃんに「あとよろしく」と任せて、そのまま帰った。




 翌朝病院へ連れて行くと捻挫と診断され、ハルカさんは二日後には自分で立って歩けるようになり、三日後には料理教室も無事に再開した。


 料理教室をお休みしてる間も俺は出勤して、日常業務をこなしたり、ハルカさんの世話したり、休みでもハルカさんを心配してお見舞いに来てくれた生徒さん達の対応したり、マリンちゃんの散歩もしたりと、ココでも主夫みたいな状況になっていた。


 そして復活したハルカさんは、しみじみと語った。


「あの人(離婚した元旦那)は私が怪我や病気してもこんな風に世話なんてしてくれなかったよ。旦那が主夫になってくれるとこんなにお世話して貰えるんだね。

 町田さん(リカコさん)はやっぱり先見の明があるよ。『男性に主夫になってもらう』っていう着眼点も凄いけど、自分の事業で忙しく働いてる傍らで主夫になってくれる人を自分で見つけて、自分からプロポーズしてちゃんと手綱も握ってて、フータローくんも主夫の仕事に満足してるし、こんな結婚が出来るなんて、町田さんは本当に凄い人だよ」


「そんなこと無いと思うけど。勢いと決断力は凄い人ですね」 あとセックスも。


「私もあんな風にバリバリにやれたらもっと違う人生だったのかなぁ」


「ハルカさんはハルカさんの良いトコロがありますから、大丈夫ですよ」 何が大丈夫なのか俺にも分かんないけど。


「ホント?わたしもまだ幸せになれるかな?」


「さぁ?どうでしょ?」 


 恋人作ったり、また結婚して幸せになりたいのなら、少なくとも、おっぱい以外はもう少し痩せた方がいいな。

 見た目がそれほど太って見えないから普通にダッコしようとしたけど、普段からリカコさんをダッコしてる力自慢の俺が持ち上げれなかったからな。爆乳以外の見えないところにも無駄な脂肪を溜めこんでいそうだ。


 だいたい、夜中にワイン飲みながらおつまみに唐揚げとか狂気の沙汰だよな。しかも大皿だったし、アレを一人で食べてたとか、ココのコンセプトの『美味しい家庭料理で、健康的で充実した食生活を』はドコ行っちゃったの!?夜中に油ぎっしゅな唐揚げ山盛りで酒盛りとか普通に不健康な食生活じゃん!ってクドクドお説教してやりたいくらいだ。




「また寂しくなったらケガしよっかな。そしたらフータローくんがお世話しに来てくれるもんね」うふふ


「そんなこと言うなら、次からは家政婦サービスとして、給料とは別に料金請求しましょうかね」


「それでも良いよ?むしろ、お金払ったらウチのこともしてくれるなら喜んで払うよ?」


「勘弁して下さい」 


 またピンクローターとか発見しちゃいそうだから、マジで勘弁。



 と、なんだかんだとハルカさんとは雇用関係を超えて、友達というか親戚程度の距離感の付き合いになっていた。





 ◇




 平日は毎日料理教室へ働きに出ていても、主夫としての家の仕事も毎日手抜きせずに頑張っていた。勿論、週末の夫としての夜のお勤めも。


 リカコさんは、より一層事業の充実や拡大の為に精力的に働いている様で、しばらく落ち着いていた帰宅時間も遅くなることがまた増え始め、接待や遠方への出張も多くなり、忙しくなると欲求不満にでもなるのか、週末の夜は激しく何度も求めてきて、仕事疲れと激しいセックスによる体への負担が心配になるほどだった。



 そんな結婚生活2年目も折り返しに入り、クリスマスや年末は去年と同じように家族で過ごし、穏やかな気持ちで2度目の新年を迎えることが出来た。






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