#26 アルバイト初出勤
早速翌朝、リリィを連れてハルカ先生の自宅兼教室へ訪ねると、勤務時間や時給の説明があって、その内容で問題無かったので雇用契約書を書いて正式にアルバイトとして採用が決まった。
雇用契約書を記入してる時に、今後の呼び方についての疑問が浮かんだので「これからもハルカ先生って呼べば良いんですかね?でも雇用主だからオーナーって呼んだ方が良いですか?」と訊ねると、「う~ん、オーナーって呼ばれるのは他人行儀な感じがするのよね。 今までと同じ名前のままで、『先生』取って『ハルカさん』が嬉しいな」と言うので、これからはそう呼ぶことにした。
リカコさんも学生時代は『リカコ先輩』と呼んでたけど、俺が就職した辺りから『先輩』付けずに『リカコさん』と呼ぶようになってたから、ハルカさんと呼ぶことに特に抵抗や違和感は感じなかった。
ハルカさんの料理教室は正式には『H&Mクッキング』という名前で、初心者から中級者向けの家庭料理を教える教室を開催している。
因みに、Hはハルカ、Mはマリンで、会社と言うよりも個人経営の学習塾に近い経営形態だ。
コンセプトは「美味しい家庭料理で、健康的で充実した食生活を』で、高級食材や難しい調理法では無く、スーパーなどドコでも簡単に手に入る食材を使って、家でも出来る調理方法で美味しくて栄養バランスの良い料理を教えることに拘ってるそうだ。
実際に、これまで習ったメニューは、どの料理も家で作れるものばかりだった。
もっと言えば、難しかったり手間が掛かる料理などを試行錯誤してハルカさん流に手順やレシピをアレンジして、「実はこんなに簡単に作れるんですよ」と教室で教えて貰うことも多かった。
なので、業務内容も材料揃えて教えるだけじゃなく、メニュー選びや事前に調理しながら研究や試食もして、手順やレシピを作り込んで、それを手描きで分かりやすくテキストにするなどの準備が必要で、今後はそういった作業も俺はアシスタントとして手伝うことになる。
他にも、材料選びや買い出し、掃除や片付けやゴミ捨て、会計業務や銀行へのお遣いに電話対応などあるし、更には勤務時間中のリリィやマリンちゃんの食事の用意やお散歩などもしなくてはならなくて、仕事内容は多岐に渡ってかなり多いと思う。
ただ、事前の準備(手順なのどテキスト作成)やメニューの決定に教室開催時の講師などはハルカさんしか出来ないので、それ以外の業務をハルカさんと俺で役割分担をせずに、能動的に協力してこなしていくことになった。
で、この日から仕事が始まった。
アルバイト初日とは言え1年近く生徒として通い詰めて勝手は分かってるので、指示を貰い作業に取り掛かる。
初日の俺の最初の仕事は、この日の教室で教えるメニューに使う食材の準備。
1階には教室として使ってるリビングとダイニングキッチンとは別にもう1つ仕事部屋があり、そこに業務用の大きい冷蔵庫と冷凍庫が1つづつがドーンと設置してあり、他にも食材や調理器具に食器などのストックが入ったダンボールが山積みしてあったり、事務用にしてる机にパソコンや、これまでハルカさんが研究した料理の記録や作成したレシピなどの大量のノートやファイルが収めてある本棚など、ゴチャゴチャと物が所狭しと置いてある。
この部屋には何度か入ったことがあって、その度に思うのだけど、部屋の中も冷蔵庫の中もゴチャゴチャと物が多くてドコにナニがあるのか分からない。
ハルカさんは自分で物を置いてるからドコにナニがしまってあるのか把握してるみたいだけど、俺にはさっぱりで、探すだけでもひと苦労。
おまけに、食材などの在庫管理はどんぶり勘定らしくて、仕入れ量は記憶頼りで決めてるみたいだし、消費量もキチンと把握してる訳ではないそうだ。
今までハルカさん一人でやってたから、こんな風にゴチャゴチャになるのは仕方無いのだろうけど、近いうちにこの部屋の片付けと棚卸しして、キチンと在庫管理をしたいところだ。
どうしても見つからなかった食材はハルカさんに聞いて探し、開始時間前にはなんとか揃えることが出来て、教室が始まるとそのままアシスタントとしてハルカさんや生徒さんたちが調理するのをサポートした。
この日は水曜日で、これまで俺は火曜と木曜に来ていたので水曜日に来ている生徒さんのほとんどと初対面で、普段の火曜と木曜なら俺やリリィが居ても違和感ないほど馴染んでいたけど、この日は流石に皆さん気になる様で、やたらと注目を浴びてしまっていたので、営業スマイル貼り付けてハルカさんの陰に隠れるようにサポートに徹して、みなさんの調理が終わり試食タイムに移ると、事前にハルカさんからお願いされてたお遣いに行くために、リリィとマリンちゃんを外に連れ出して散歩に出かけた。
用事を済ませて戻ると既に教室は終わった後で、リリィとマリンちゃんにお水と食事を用意して、ハルカさんが昼食用に今日作った料理を残しておいてくれたので、昼食を食べながらハルカさんから今後のメニューのことで説明を受けて、その後は二人で車に乗って野菜やお肉に魚などの仕入れ先へ買い出しに出かけた。
食材選びではコンセプト通り、新鮮で安価なものを中心に選び、その辺りの見分け方をレクチャーしてくれた。
買い出しから戻ると買ってきた食材を冷蔵庫などに収納して、それも片付くと、今後教室で教える為の料理の研究が始まった。
基本的に俺は手伝うだけで、考えるのはハルカさんで、俺は言われた通りに食材をカットしたり炒めたり煮たりするだけで、味付けするのはハルカさんで、何パターンか作って二人で試食しながら感想や気になったことなどを出し合って、気付けば俺の退勤時間の16時になっていたので、この日の研究は終わり、リリィと一緒に上がらせて貰った。
帰り際にハルカさんから、「フータローくんが居てくれると、本当に助かったよ。これからもよろしくね」と言って貰え、俺も「早く仕事に慣れる様にがんばります」と言って退勤し、帰りがけにスーパーに立ち寄って買い物してから帰宅した。
久しぶりに外での労働だったけど、労働と言っても今までの生徒として料理教室に行ってたのと大差無いので、それほど疲労感は感じず、これなら主夫業をしながらでも続けられそうだった。
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