#20 婿の気苦労



 ウチは3LDKで、リビングとダイニングキッチンの他は、1つが和室で今は客間にしてて、もう1つをリカコさんの衣装や仕事関係の部屋にしてて、残りの1つが寝室でダブルベッドや化粧台にリリィのベッドが置いてある。

 俺達はエッチしない日でもいつも一緒に寝るようにしてて、一応衣装部屋にもリカコさんが前のマンションで使用してたベッドも置いてあるが、普段はベットカバーが掛けっぱなしになっていて使用していない。



 沼津の義両親が泊まったこの日の夜遅く、俺はキッチンで洗い物等を片付け、翌日の朝食の段取りを済ませてから寝る為に寝室に行くと、先に休んでいるはずのリカコさんもリリィも居なかった。


 衣装部屋で仕事でもしてるのかな?と思い、衣装部屋に行くと、リカコさんは入口に背を向けるようにしてベッドで寝てて、俺が声を掛けるとリリィは直ぐに俺の所に駆け寄ってきたが、リカコさんは返事をしなかった。


 寝ちゃってる?と思い、リリィを抱き上げてベッドに近付き、顔を覗き込むと、起きてたが、ホッペを膨らませてぶすくれていた。


 よっぽど俺の食事のせいで「太った」と言われたのが気に食わないらしい。

 リカコさんは基本我儘だけど、こんな風にスネてしまうのは珍しい。

 責任感も強い人なので、仕事ではこんな風にはならないだろうし、恐らく俺や実家の家族相手だったから、素の我儘なのが出てきているのだろう。


 こういう時、慰めて機嫌を取るのも夫としての役目だ。



「どうしたんですか?寝室で寝ないんですか?」


「今日は一人になりたいの」


「そんなこと言わないで、夫婦仲良く寝ましょうよ」


「今日はそんな気分じゃないの」


「お義父さんたちに言われたことが、そんなにショックだったんですか?」


「違うもん・・・」


 口調が子供っぽくなってる。

 完全に我儘モードだ。


「太ったって言われたのが、そんなにショックだったんですか?」


 今度はストレートに指摘すると、リカコさんはキィと睨んで来た。


「何度も言ってますけど、リカコさんは全然太ってませんよ。結婚する前が痩せ気味だっただけで、本来の理想体形に戻った今が丁度良いんです。お肌も綺麗になってるし、いつも顔色良いし、今がベストコンディションなんですよ」


「そんなの私が一番分かってるわよ」


「じゃあ、なんでそんなにぶすくれてるんですか」


「だってぇ・・・」


 女心は難解だ。

 どうして欲しいのか、マジで分からん。


「じゃあこうしましょう。 俺がリカコさんをダッコ出来なくなったらダイエットしましょう。それまでは太ったとは認めません。無理に痩せようとして不健康にでもなったら、俺は許しませんよ」


 俺達がセックスするようになってから、お姫様ダッコが『これからセックスするぞ!』というサインになっていた。

 なので俺としては、「ちょっとやそっと太ったくらいでは、リカコさんのセクシーボディの魅力は損なわれないですよ」という意味も込めて話した。


 俺が優しく話しかけながらも厳しい言葉を投げかけると、リカコさんは不満そうな顔をしつつも、体を起こして俺に向かって両手を広げた。


「ダッコして。あっちで寝るから、ダッコで連れて行って」


「了解っす」


 抱き上げていたリリィをリカコさんに一旦渡し、リリィを抱いたままのリカコさんをお姫様ダッコで持ち上げて寝室まで運びベッドに降ろしたが、リカコさんは俺の首に抱き着いていた両手を離してくれず、俺も一緒にベッドに倒れ込むと、「フ~タ~」と甘えた声で俺の名前を呼びながら、キスしてきた。


 ココでようやく理解した。

「太った」と言われてショックだったリカコさんは、俺に慰めて欲しくて衣装部屋に篭って拗ねて、お望み通り俺が慰めてくれたから、今度は甘えたくなったのだろう。


 義両親が別室で寝てるしリリィもまだ起きていたけど、甘える様にしつこくキスしてくるのに応戦し、そのままなだれ込む様にセックスを始めた。

 そしてこの日、行為中リカコさんが満足するまで「リカコさんのパーフェクトボディ、マジ最高」「胸も腰もお尻も脚も超俺好みの理想スタイルっす」「リカコさんほどイイ女なんて他にはいないっすよ」と褒めちぎり続けたお蔭か、リカコさんは翌朝にはすっかり機嫌を直してて、起きる時は「フ~タ~、チュウして~」だの「ダッコで連れてって~」とキモイくらいに甘えてて、顔を洗ったあとは珍しく朝食の準備を手伝ってくれた。



 起きて来たお義父さんとお義母さんは、キッチンで仲良さげに朝食の準備をしている俺達夫婦を見て、満足そうな笑顔で「二人とも、おはよう」と挨拶してくれて、それからはだいぶ落ち着いた様子で、リカコさんの体形の変化には触れることも無くなり、機嫌が戻ったリカコさんも怒ったり拗ねたりすることもなく、穏やかな態度でご両親とお喋りしていた。


 そして、お昼までのんびりお茶しながら過ごして、昼食を食べ終えると、お義父さんたちは帰ると言うので、駐車場まで見送りに行くと、車に乗り込む前にお義父さんから改めてお礼を言われた。


「ずっと心配してたが、仲良く幸せそうに暮らしてて安心したよ。フウタロウ君がリカコと結婚してくれたお蔭だ。本当にありがとうね。

 我儘で意地っ張りなリカコはきっとフウタロウ君じゃないとダメな子だから、これからもリカコのことを頼むよ」


 お義母さんからも「また沼津に遊びにいらっしゃいね」と言って貰えて、リカコさんとリリィと手を振りながら見送った。



 義両親とリカコさんの間も揉めることなく、なんとかおもてなし作戦は上手い事成功したようで、ホッとひと安心した。

 そして、リカコさんとの夫婦仲も更に良くなっていると感じる二日間だったが、その反面、滅茶苦茶疲れた。


 料理教室の先輩主婦の方々が言ってた通り、俺一人が神経すり減らして消耗した二日間だった。








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