#13 新婚生活の現実




 新居の家電や家具は一通り揃え、リカコさんの引っ越しも終えて、片付けや近所への挨拶回り等もまだまだ残ってはいるものの、なんとか二人での新婚生活がスタートした。


 カサレリアでリカコさんから逆プロポーズをされてから、1カ月と1週間程度しか経っていない。

 入籍だけならそれくらいのスピード婚は有りうるだろうけど、両家の挨拶を済ませ、新居を用意して、会社も辞めて、となると中々無いと思う。

 思うに、先輩後輩としての友人期間が7年でほぼ恋愛期間ゼロだからこそ、成し得たんだろう。

 お互いの信頼関係がある上で、経済的なことや性生活のことを考え、打算的に成りきることが出来たから、あとは無駄な時間を掛けずにするべきことをサクサク進めたら、新婚生活が始まりましたって感じだ。


 まぁ、その反動でマリッジブルーになってるのは否定出来ないのだけども。


 それでもリカコさんと一緒に住み始めたら甘い生活を過ごす内にネガティブな考えも落ち着いて、前向きになれるだろうと考えていたけど、いざ始まってもぶっちゃけ早々甘い生活にはなっていない現実に直面している。


 経営者というのは思ってた以上に大変そうで、特にリカコさんの様に自分で起こした小さい会社となると、社内外のほとんど全ての業務に社長が関わる訳で、朝は早いし夜は遅い。

 口癖みたいに『タイムイズマネー』って言ってたけど、時間が惜しくて常にせっかちだったり、即断即決でサクサク決めてしまうというのは、そんな多忙な社長業をこなしていれば、自然とそうなってしまうのだろう。


 実際に、一緒に住み始めてから初めての朝、早めに起きて朝食の準備をしてリカコさんを起こしたが、白米と焼き魚とお味噌汁を用意したら、メイクしながら『ごめん、折角美味しそうなご飯用意してくれても朝はゆっくり食べる時間が無いの』と言って朝食抜きにしようとしたので、慌ててオニギリを作って、『移動中に食べて』と強引に持たせた。


 後で確認したら、今まで平日は朝ご飯抜きが当たり前の生活で、週末は平日に比べれば時間に余裕があるが自炊をして無いので、気が向いたらファーストフードなどで軽く食べる程度だったらしい。


 そういうのは先に言ってよって思わないでも無いけど、四六時中仕事中心の生活を送っている中で、普段抜いている朝食のことなんて頭の片隅にも無かったんだろうとも思うし、確認しなかった俺も悪かったと思う。


 リカコさんは性格的にワンマン社長の様に見えるけど、基本的にはキチンと確認や相談すれば何でも答えてくれるし、コチラからの意見等も前向きに聞いてくれる。

 なので、事前に俺の方から確認してれば、こんな風にいざ当日になってゴタゴタすることも無かったと思う。


 実際にその日の夜に「朝は抜かない方が良いです。美容にも良くないですよ」と話せば、今日みたいにオニギリだったら出勤の準備しながらでも家で食べてくれると約束してくれて、翌日からは約束通りに家で食べてくれるようになり、オニギリ2個とお味噌汁というのが朝食メニューの定番になった。

 ただし、メニューがオニギリ固定になると、今度は飽きない様に具のレパートリーを増やしたり白米以外のご飯で握ったり海苔に拘ったりと、それはそれで大変にはなっていたけど。

 でも、毎朝残さず食べてくれるようになったのは、たったそれだけのことでも嬉しかった。


 因みに、日にもよるけど夜は朝や日中程忙しくないようで、帰りが遅くなることはあっても9時までには帰って来るし、夕食は必ず家で食べてもくれる。

 なのでリカコさんが帰る時間を見計らって料理を始め、帰って来るのを待って俺も一緒に食事をするようにしている。


 と、こうして会社経営者の多忙さや生活のリズムを目の当たりにして、なんとかキチンとした食生活をと色々考えるが、そんなことばかり考えてて新婚らしい甘々でイチャイチャらぶらぶな事にまで考える時間も余裕も無い状況が続いている。


 それに、リカコさん自身も性欲が旺盛な割には、そこに新婚夫婦としてのらぶらぶ生活は求めていない様だ。

 実際にあった話だが、夕食後にリカコさんがお風呂に行ったのでキッチンで一人で洗い物してたら、何故か10分もしない内に髪が濡れたままタオル1枚巻いただけの姿で出て来て、「フータ、今からするわよ!」と言われて、食事の片付けとか洗い物が途中なのに強引に寝室に連れて行かれて相手をする羽目になったことがあった。


 甘いもへったくれも無い、本当に性欲満たす為だけのオナニーと同等のセックスだった。

 おまけに、ロクに体を拭いていなかったのか洗面所だけじゃなくて廊下やリビングに寝室などの床がビショビショになってたし、キッチンの片付けは途中だし、事を終えた後は甘いピロートークを囁き合うことも無くリカコさんはそのまま(髪濡れてて全裸)寝ようとしちゃうしで、無理矢理起こしてドライヤーを寝室に持ってきて髪乾かしてあげて下着とパジャマも着せて、その後に濡れてる床を拭いて周り、漸くキッチンの洗い物を再開して、それを終わらせてから俺もお風呂に入れたという状況だった。


 更にはお風呂出てからもするべきことが色々あるので直ぐに寝ることは出来ない。

 性欲満たして満足そうな寝顔のリカコさんを後目に、リカコさんの翌日着て行くスーツやブラウスに靴の準備をしたり、朝食の為の洗米したりもしなくてはいけないので、独身時代の様にエッチしたらそのまま裸で抱き合って寝るなんていうのは無理な話だった。


 事前にセックスパートナーとして求められていることは言われてたし、俺だって性欲は旺盛なので致すとなれば直ぐに準備は出来るし、始まれば気持ち良いし気持ち良くしてあげたいしで頑張るのだけど、終わった後の賢者タイムになってからがオナニーや独身時代のセックスと違って大変なんだよね。


 世の主婦もみんなこうなんだろうか。

 セックスそのものの負担を考えれば、男の俺よりも女性のがもっと大変かもしれない。



 と、新生活開始早々に、結婚生活の現実に直面している。







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