#12 モチベとは裏腹に
入籍してから10日経った。
月も替わり、俺は正式に会社を退職となり、そして月頭に俺だけ先に新居への引っ越しも済ませた。
それにしても、入籍や新居での生活を始めるにあたって、やらなくてはならないことが山の様にあって、結婚がこんなに面倒なことだと今更ながら身に染みている。
今まで住んでいた賃貸マンションの解約、免許証にマイナンバーカードに銀行口座や生命保険などの名義変更、健康保険の切り替え等々各種手続き。ああ、ハローワークにも行かなくては。
そして、リカコさんの引っ越しも俺がすることになるし、多少処分したとは言え、まだ大量にある衣装類の荷ほどき&収納して、必要に応じてクリーニングにも出して、靴磨きもしないとだし、新居で使う必要な家電や家具もまだ買ってないままだし、同じく新居で使う調理器具や食器に寝具などのモロモロも買い揃えないとだし、カーテンとか絨毯も必要だし、照明や時計とかの小物も無いと困るだろうし、ライフラインやネット環境の契約とかも忘れてはならないし、更には引っ越しの挨拶回りにそれに必要な手土産の準備、マンションや地区の自治会なんかへの挨拶や今後の予定とか聞いておいた方が良いだろうし、他にも、アレもコレも・・・。
結婚って、婚姻届書いて出せば終わりって訳にはいかなくて、やらなくてはいけない事が滅茶苦茶多くて、特に俺たちの場合は、結婚決めてから実際に入籍するまでに1カ月も経ってなくて、その間に両家に挨拶に行ったり新居決めて引っ越ししたりと、異常な程タイトなスケジュールで進めているからなおの事忙しくて、これで式とか挙げてたらどうなってたんだろうと思う。
ああ、そう言えば、落ち着いたらお披露目パーティーの準備もしないとだ。
でも、結婚してる女性はみんな通って来てる道なんだろうな。
正直、こんなに大変だって考えずに簡単に結婚すること決めちゃってたな。
しかもリカコさんが猪突猛進なとこあってせっかちで強引だから、本当ならもっとゆっくりでも良かったはずなのに、リカコさんのペースに巻き込まれる様にあっと言う間に入籍までしちゃってたし。
とは言え、俺の場合はきっと慎重に構えてたらいつまで経ってもグダグダして結婚なんて出来てなかったと思えるし、勢いみたいなのは必要だったんだろう。
だから、リカコさんの様な人にグイグイ引っ張って貰えるのは、俺には丁度良いのかもしれない。
けど、入籍前までと違って今後は夫婦なんだし、時には俺がブレーキになれるように慎重になって、お互いの意見が上手くバランス取れるようになれると良いよな。
あ、つまり、俺とリカコさんは恋愛期間がほぼ無いまま結婚してるから、結婚が雇用契約みたいなものなのかもしれない。そう考えると、結婚生活へ向けてのこういった面倒な手続きや準備なんかは、外で働くリカコさんの分も俺が頑張って処理していくことに使命感みたいな物が湧いてくるな。
ただ、ビジネスとしてのドライな雇用契約と違うのは、長年の先輩後輩、そして友人としての付き合いの中で信頼関係が出来上がってて、その上、婚約してからはキスやセックスなどの夫婦としてのコミュニケーションをする様になったし(しかも付き合い始めたカップルの様に情熱的に)、いずれは子供だって作って二人で育てる計画だってある。
主夫としての使命、そして夫婦としての責任感。
これが今の俺の原動力だと言える。
なので、やるべきことが山の様にあって忙しくても、モチベーションは決して低くは無い。むしろ、会社勤めの頃よりも頑張れそうだ。脚の引っ張り合いも無ければ、上司(世帯主のリカコさん)はキチンと俺を評価して、頼るべきところは頼って任せるべきところは任せてくれているし。
まぁ、頼られて嬉しいし、褒められればもっと頑張ろうってなるのは上手く飼いならされてる感じもするけど、これがただの後輩としてなら利用されてるだけとも思えるけど、結婚してる夫婦だからね。
と、忙しい中でも色々と考えるのだけど、26歳という年齢で仕事を辞めて、結婚して主夫になるという選択をしたことに、実は物凄い不安も感じている。
学生時代の友達や元居た会社の同期やライバルたちは、今俺がこうして新居で掃除したり料理したりと家事をこなしてる間も忙しく働いて出世競争の中で戦っている訳で、つい最近まで自分もそう過ごしていたのに、今の俺はそこから脱落した様な状況な訳で、退職届出した時は解放感を感じていたけど今になって不安を感じ始めている。
結婚相手に不満は無いけど、それとこれとは別で、世間から置いて行かれてしまうのでは無いかという焦りや、入籍してても他人からはヒモとしてしか見られないのでは無いかとか、ネガティブなことを色々考えてしまう。
そんな自分への言い訳が欲しくて、リカコさんとの結婚や主夫となることへの意義を見出そうと必死なのかもしれない。
こういうのを、マリッジブルーと言うのだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます