#09 27歳独身女社長の秘密の花園
両家への報告も済ませ新居も決まり、引っ越しをする為の準備を始めた。
まずは俺の部屋の荷物の片付けから始めたのだけど、引っ越しが出来る翌月まではまだ日があるので、それまで生活するのに最低限必要な物や寝具などはそのままだし、衣類や書籍などでもう不要な物は処分したりし、あとは特筆すること無く三日もかからずほぼ終わってしまった。
問題なのは、リカコさんの部屋だ。
これまでの友人としての長い付き合いの中で、リカコさんの部屋に入ったことは無く、今回が初めてのことだった。
俺の部屋に来ては宅飲みすることは学生時代からチョイチョイあったんだけどね。以前は彼氏ですら滅多に部屋に入れたりしなかったらしい。
そんなリカコさんの部屋だが、汚部屋とまではいかないけど、兎に角物が多かった。
まず玄関に入ると、下駄箱に入りきら無いハイブーツやハイヒール、ミュールにパンプス等が出しっぱなしの状態で雑然と並んでるわ、他にも箱に入ったままのは廊下にまで積んであるわで、初っぱなから思わず苦い顔をしてしまった。
リカコさんはそんな俺の表情に気付きつつも、「こんなの序の口よ」とでも言いたげに、「ホラ、入って入って」と部屋に上がる様に促して来た。
リビングに通されると、意外と言っては悪いが普通に片付いてて、二人掛けのソファーとテーブルが1つと仕事関係だと思われる本棚が1つあって、広々としてる中でも何インチなのかわからない程の大型の薄型テレビが存在感を放っていた。
だが、キッチンには冷蔵庫が1台あるだけで、シンクとかは使用感が無く調理器具の棚も食器棚も中身がなくてガランとしており、聞いた話では自炊はしてないらしく、キッチンはコーヒーを入れたりお酒を用意したりする時くらいしか使ってないそうで、ヤカンはあるけど炊飯ジャーや鍋もフライパンも持ってないらしい。後で冷蔵庫の中を確認したら、缶ビールと缶酎ハイと、あとはカルパスしか入って無かった。
そして問題なのが、寝室。
6帖の室内にはベッドとメイク用の鏡台の他にハンガーラックがいくつも所狭しと並び、そのどれもが仕事用のスーツ等がパンパンに満載されていた。そしてその他にも、ベッドの下にも衣装ケースが並び、バッグや小物などが入っているであろう有名ブランドの袋などが部屋の片隅やベッドの周りに乱雑に置かれていた。
マナー講座を企画開催する会社の社長であるリカコさんは、自ら講師を務めることもあるらしいし、人前に立つことも多くて、ある意味身嗜みを整えることは仕事上もっとも重要な事なのだろう。
それに社長ともなれば会社の顔でもあるので、毎回同じ服着てるとかケチ臭い姿は見せられないのもあるのだろう。
貧乏そうな経営者よりも小奇麗で景気の良さげな経営者のが商談などでは説得力も違うだろうし、特にリカコさんの様な若くて容姿に優れた女性なら、衣装やメイクによるファッションを最大限有効な武器にすることも出来るし、舐められない為の武装と言ってよいだろう。
と、リカコさんの衣装関係が仕事上必要な物だという事情は理解していても、お部屋の片付けや引っ越しをする身としては、そう簡単な話ではないのも、また事実。
「起業してからは買うばかりでゆっくり整理したり処分する余裕が無かったのよね。フータが来てくれたからホント助かるわ」
「それにしても凄い量ですね。どこぞのセレブの衣裳部屋ですよ。いくら掛かってるんでしょうね」
「仕方ないでしょ、これも必要経費よ」
「まぁ、分かりますけど。 それでどうします?ある程度は処分します?」
「そうね。 リスト作ってくれる?後でそれに目を通して、処分するか持って行くかのチェックするから」
「了解っす。とりあえず今日から始めますね」
「うん、なるべく早めにお願いね。 スペアのカードキー渡しておくから、自由に出入りしていいからね。あと、泊まる時は一言連絡頂戴。早めに帰る様にするから」
リカコさんからスペアのカードキーを預かると、腕時計で時間を確認し、「ごめん、仕事に戻らないとだから、私行くね!」と言って、慌てて玄関に向かったので、俺も玄関までついて行くと、靴を履いたリカコさんがいつもの様に振り返ってから両手を広げたのでハグで応えると、「あと、よろしくね」と言ってほっぺにキスしてくれたので、「お仕事がんばって」と言って送り出した。
ちょっぴり新妻になった気分だ。
リカコさんが出て行った後一旦自宅に戻り、ノートPCやメモ帳に付箋などのリスト作成に必要な道具や泊まり用の着替えをリュックに入れて再びリカコさんの部屋に戻って、リスト作成を始めた。
玄関にある靴から着手し、1つ1つ付箋でナンバーを貼り付けスマホで撮影して、ノートPCに取り込んでエクセルにナンバーと一緒に画像を貼り付けて、リストを作成した。
サンダルなども入れると28足もあったが、靴のリスト自体は直ぐに出来上がった。
次に魔窟と化している寝室。
クローゼットが1カ所とハンガーラックが3つあって、ざっと数えただけでも5~60着はあるようだった。
靴と同じように写真でリストを作るつもりだけど、一日では終わりそうにない量だ。
まぁ、考えてても進まないので手を動かそうと、まずはハンガーラックを動かすのに邪魔になっているバッグや小物関係を片付ける為に、ブランド物の袋をいくつか持ってリビングに移動させると、その内の一つがやたらと重く、リビングの床に置くと「ゴトッ」と妙な音を立てた。
ん?なんか変な音したな?何か壊したりしたら怒られちゃうかも?と心配になって、袋の中身を確認すると、中から電マとか半透明でリアルな形したディルドとかピンクローターとか、その他ラブグッズと呼ばれる女性用のオナニーアイテムがいくつもゴロゴロ入っていた。
因みにこの日、泊まることになり、後でお風呂を準備する為に掃除しようとしたら、バスルームにも最近使用したと思われるラブグッズが1つ放置されていた。
何だかいけない物を見てしまったと言う罪悪感とは別に、結婚したいって言い出すほど本当は寂しかったんだろうなと、その生々しさに同情と憐みを感じずにはいられなかった。
コレを婚約者に見つかって同情されるなんて、流石に悲しすぎるぜ、27歳独身女社長サマ。
でも、これらのラブグッズもちゃんとスマホで撮影してリスト化しておいた。
俺はこう見えても、営業一課では期待されてた程の出来る男だからな。抜かりはないぜ。フフフ。
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