#08 結婚へ向けて、着々と進む
翌日の火曜日から退職する月末まで有給休暇の消化に入ったので、完全フリーとなった。
久しぶりに羽を伸ばしてゆっくりしたいところだけど、結婚が控えている身としては、しなくてはいけないことが山ほどあって、意外とのんびりしてられない状況だ。
今週末にはリカコさんを連れて俺の実家にリカコさんの紹介と婚約の報告をしに行かなくてはいけないので、事前に説明しておく必要がある。
普通の結婚ならそれほど難しいことは無い話だけど、俺は既に会社を退職することが決まってるし、リカコさんの希望でしばらくは無職のまま主夫だ。それらモロモロをウチの両親に納得させておかなければ、結婚の話そのものが拗れる可能性がある。
おまけに、昨夜一緒に食事してた時に、『この週末は土日とも完全オフに出来たから、フータの実家に行くついでに一泊二日で近くの旅館にでも泊まりたいわ。近くに温泉とか無いの?』と言い出したので、その旅館のチョイスと予約もしなくてはいけない。
幸い、シーズンオフなのかネットで調べるとどこも空いてる状況だったのでなんとかなったけど、急に言い出すから、こちらとしては右往左往してしまう。
他にも、新居を決めたり、引っ越しの準備だって近々始めなくてはいけないだろう。
しかも、俺は時間がフリーになっても、リカコさんは相変わらず多忙なので、リカコさんの引っ越しも俺が担うべきだと考えている。
あと他にも、月末の正式退社を済ませたら会社に離職届け発行して貰う依頼して、職安に行って失業保険の手続きだってしないといけないし、役所に婚姻届を貰いに行かないといけないし、婿養子として入籍するとなれば銀行の名義変更やら他にも保険や税金のことも色々手続きが必要だろう。詳しいことはよく分かってないから、そういうことの勉強もしなくては。
と、羽を伸ばしている暇もなく、せかせかアレコレ動き回っていた。
まずは最初の難題。
実家への説明だ。
電話で説明しても話が拗れる気がするので、水曜日に日帰りで帰省してウチの親に直接話すことにした。
事前に『結婚の事で話がある』と連絡を入れて帰ると、両親ともに嬉しそうな笑顔で出迎えてくれたけど、いずれリカコさんの会社に移るという
親にしてみれば、折角一流企業に就職出来て期待されてたのに、それをアッサリ辞めてしまうことは受け入れ難いのだろう。
因みに、ウチには弟が二人いる男3人兄弟の為か、俺が婿養子になることには特に反対はしていなかった。
結局、話し合いは平行線のままなので、「兎に角、週末カノジョを連れて来るから、会って欲しい」と話を終わらせて、その日のウチに実家を後にした。
次に、新居選び。
リカコさんからは、『敷金礼金家賃モロモロ私が全部出すから、私が選ぶわよ』と言われていたので、どうぞお好きなようにとお任せした。
それで、その週の金曜日のお昼、リカコさんが空いてる時間に待ち合わせて二人で不動産屋を訪ねて、リカコさんが事前に出していた条件にあった物件の内覧もした。
3LDKで、リビングが12帖あって対面式のキッチンもあって、玄関やお風呂は広いし、地下鉄の駅から徒歩5分圏内だし、立体駐車場も完備してるしで、かなり良さげな物件で、家賃も相当な物だったけど、リカコさんは「ココにするわよ」と即決していた。
内覧の後、不動産屋に戻ると、そのまま賃貸の仮契約を済ませてしまい、翌月から借りることとなった。
これで、引っ越しの準備を進めることになるので、来月に入ったら早々に俺の方が先に引っ越しを済ませて、それが終わったらリカコさんの引っ越しも進めることになった。
因みに、リカコさんの引っ越しは俺の方から申し出るより先に、「私の引っ越し、任せるわね」と要請された。
そして、週末。
実家へリカコさんの紹介と婚約の報告に。
退職したこととか、まだ親との話し合いに決着が付いてないままの帰省だ。
いくら親と言えども俺も社会人だし、些細な事なら「勝手にさせてもらうわ」で済ませられるけど、流石に結婚が絡む話だとそうもいかないので、事前にリカコさんにも状況を説明してあり、話が拗れない様に、俺の話に上手く合わせるようにお願いしておいた。
今回は、旅館に泊まってゆっくりしたいという目的もあったので、リカコさんの自家用車では無く、電車での移動となった。
俺の実家は、今住んでる名古屋から新幹線で1時間半程で乗り換え、そこからローカル線で40分程の田舎にある。
朝、名駅で待ち合わせると、リカコさんはクリーム色のニットのノースリーブにグレーのハイウエストのスカートで黒いレースのカーティガンを袖通さずに羽織って、脚は小豆色のタイツにブラウンの光沢がピカピカのミュールにブランド物の旅行鞄とサングラスで、如何にも”イイ女風”のキメキメの装いで現れた。
通る人通る人、特に男性の視線を集めながらも颯爽としてて、ウチの両親に会うのにここまで本気でキメていることに、改めてリカコさんの結婚への本気度を見せられた気分だった。
乗車券は事前に俺の方で手配しておいたので、リカコさんのバッグを預かりホームへ上がる為に歩き始めると、リカコさんはすかさず俺の腕に手を絡ませて、「フータと二人で旅行なんて初めてね。凄く楽しみだわ」とニコニコと機嫌が良さそうだった。
確かに長い付き合いの中で、遠出はしたことはあっても泊まりでの旅行は無かったな。
先週のリカコさんの実家へ行ったのだって、日帰りのドライブみたいなものだったし。
それに、旅館では夜の楽しみもある。
今回、部屋に小さな露天風呂がある部屋をチョイスした。
結婚を決めて以降、顔は頻繁に会わせては居たけど、キスは毎回しててもエッチは土曜日に一度したキリだ。
先回は一方的に攻められたから、今回は男としてのプライドを見せたいと、意気込んでいる。
俺だって、それなりに経験は積んでいる。
リカコさんに負けたままじゃ終われない。
「こんなの初めて」って逆に言わせるくらいのつもりで挑まなくてはな。
と、俺が、熱くなるであろう旅館での夜に想いを馳せている間、リカコさんは新居がペット可だからと「ワンちゃん飼おうかしら。でも子猫ちゃんも可愛いわよねぇ」と言いながら、スマホで猫や犬の動画を見ながら、だらしなく頬を緩ませていた。
乗り換え駅に到着して、駅弁を2つ購入してからローカル線に乗り換え、駅弁を食べているウチに目的地の俺の地元に到着した。
事前に駅へ着く時間を連絡しておいたから、上の弟(コジロウ)が駅まで車で迎えに来てくれていた。
コジロウとリカコさんを互いに紹介し、「お兄サマにはいつもお世話になってます。本日はよろしくお願いしますね」と流石マナー講師の肩書も持つリカコさんがエレガント且つ色気ムンムンの挨拶をすると、普段軽口ばかりでお調子者のコジロウが、ガチガチに緊張して「こ、こちらこそ、おねしゃす!」と噛み噛みの挨拶してたので、「お前、リカコさんが超絶美人だからって緊張しすぎ」と突っ込んでやると、「う、うっさい!」とムキになって怒ってて、我が弟ながらダサかった。
で、実家に到着して、同じ様に両親や下の弟のマタサブロウにも紹介すると、コジロウと同じように3人ともガチガチで、我が家族ながらやっぱりダサ過ぎだった。
しかし、ネコ被ってお澄まししたリカコさんの美貌と存在感と肩書に圧倒された両親は、先日話し合った時の反応がウソの様に掌を返し、何でもウェルカム状態になって、結婚だけじゃなく俺が仕事辞めること(一応体面上は将来的にはリカコさんの会社に移ることになってる)も賛同してくれることになった。
それで、事前に用意してあった婚姻届の証人欄を父親に書いて貰い、これで正式に両家とも結婚を認めて貰うことが出来、結婚へ向けての難題は無事にクリアー出来た。
そしてその夜。
旅館に移動して二人の熱い夜を過ごした訳だが、前回以上にお互い本性を曝け出してあんなことやこんなことまで心置きなく存分に楽しむことが出来たけど、最後まで「こんなの初めて」と言わせることは出来なかった。
やはりリカコさんは、過去俺が抱いた女の中でもずば抜けて強敵だった。 だからこそ、結婚後の夫婦生活も楽しみなのだけども。
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