第二章 聖人とけだもの
第一話 私は絶対悪くない/犬ごっこ
うちのクラスでは、『犬ごっこ』が流行ってた。
『犬ごっこ』っていうのは……書いてあるそのまんまの遊びで、誰かが誰かの私物を投げる、「取ってこい、ポチ!」って言う、ポチって呼ばれた人(大抵は私物を投げられた人)がそれを持って戻ってきて「ワン!」って言うだけの遊び……別に誰のことも傷付けてないじゃん。何も悪いことなんかしてない。
でも、『犬ごっこ』が嫌いな生徒もいた。生徒会役員に立候補しようとしてた
けど、ダサいより迷惑なのが
苅谷夜明は自分の持ち物を触られるのをものすごく嫌がったけど、『犬ごっこ』のことも嫌ってた。というのも、遠藤が
ふうが悪い、っていうのが方言で「みっともない」とか「カッコ悪い」って意味だって知った遠藤はブチギレてて、次の日、苅谷夜明の椅子に「わたしはバカです」って書いた張り紙をしてた。マジウケた。でも苅谷夜明は──
「字ぃも汚い、ふうが悪いなぁ」
とだけ言って、紙を教室の隅にあるゴミ箱に捨ててた。
だからさ、ねえ、分かるでしょ? 先に感じ悪かったのは、あいつ。苅谷夜明なんだって。
それなのに、どうして私たちが『いじめ』をしたってことになってるの? 何もしてないんですけど。化粧ポーチを拾われた加藤だってぶっちゃけ迷惑がってたよ。苅谷に関わると……その……目を付けられるって。え? 私じゃないよ。男子のことだよ。小林とか、遠藤とか、西林とか。特に西林はサッカー部で体も大きくて、キレるとすぐ机を蹴ったりするし、仲良くてもヤバいなーって思うこと結構あったし。
苅谷夜明を夜中に学校に呼び出したのは私じゃない。
なのに──なのに。
どうして私の部屋に、悪魔がいるの。
ずっと。
苅谷夜明が入院した日からずっと、部屋の天井、右側の隅っこから悪魔が覗いてる。
尖った耳、鋭い牙、長く伸びた舌。ヨダレを垂らしながら、ハアハアって息を吐いてこっちを見ている。時々私の顔をじっと見て、「
なんで。私は絶対悪くない。それなのに。
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