第63話 底辺配信者さんは友情を一番大切にする徳の高い人です

「お城の宝物庫にいる金のぷにょちゃん……!」


 エモリスは頬を赤らめ、瞳を潤ませる。


「なんて心躍るぷにょちゃんでしょう! そのぷにょちゃん、身体は黄金でできていて、その金のボディがにゅるにゅる動くんですよ! 考えただけでもすっごくキレイ……! 金ぷにょキラキラ金曜日……!」

「喜んでもらえてよかったです」


 白っぽい少女は満足げに微笑んだ。


『おまわりさんこいつです』

『城の宝物庫に忍び込むとか盗賊の所業』

『やめなよ』

『いうて王家の宝物とか見てみたいよな』

『だまっときゃばれへんばれへん』


 リスナー達も一枚岩ではない。

 エモリスの行動を止める者もいればけしかける者もいる。

 それらを見て、エモリスも考えた。


「……確かに、勝手にお城に入り込むのは犯罪です……う、ううん、で、でも、これは絶対、一度は見ておかないと……! 後悔しちゃうと思うんですよ。そんなゴールデンぷにょちゃんなんて聞いたこともないぷにょちゃん、滅多に見る機会のあるものじゃないですし……!」


『おいバカやめろ』

『捕まるぞ!警察舐めんなよ!?』

『王国の衛兵マジ半端なく厳しいかんな』

『あーあ、やめろっていったのに』


 結構強く止められて、エモリスも怯む。が、その決意は変えられない


「う……べ、別にそのぷにょちゃんを攫ったり、その体の一部をコレクショ……サンプルとして採取したりするわけじゃないんですよ? 見るだけです、見るだけ! ……それならわたし、それほど悪くないですよね……?」

「ええ、もちろん。見るだけなんですから。そしてそれから触るだけ、揉むだけ、抱きしめるだけ……そうやって私達はもっと先へ行けます」


 エモリスの問いかけに、白っぽい少女が励ましの言葉をかける。


『悪い』

『ギルティ』

『このゴースト、囁くねぇ』

『そそのかされて悪の道いきそう』

『でもぶっちゃけおれも金のスライムみてみたい』

『いや、もっとやらなきゃいけない大切なことあるだろ』


「! ……そうでした。そもそも金ぷにょちゃんを見に行くのはついでで、本当はリサさん……わたしの大事なマネージャーに会いに行くためでした……! ここ最近、ずっとお城から出てきてくれていないリサさんにまた会って、その気持ちを……本当の願いを確かめたいんです」


『ああ、お姫様だっけ』

『会えてないんだ』

『城から出てこないってことは会いたくないってことだろ。確かめる必要なくない?』

『本音をぶつけあうのはいいこと』

『本当~?』


 エモリスはやけに大きな声で言い切る。


「だから仕方なくお城に入るんです! 友情のためなんですよ! やましい目的でお城に入り込むわけじゃありませんっ!」


 せん……! ……せん……! …………せん…………ん…………

 と、そんな力強い言葉が地下下水道内に木霊した。


『友達に会いに行くためじゃしゃーないかー』

『ノットギルティ』

『許した』

『うそくせぇ』

『嘘を吐いている味がする』


「ですので、リスナーの皆さんも見逃してくださいね? わたしがお城の財宝室に入り込んでも通報とかしないでくれますよね?」


『友達のためなら王城に忍び込んでもしゃーなし』

『明らかに金のスライムの方がメイン』

『友達って言葉を正当化のために使うのやめてもらえます?』


「ち、違いますよ~? リサさ~ん、どこですか~?」


 言いながら、エモリスは隠し扉を通って先に進む。

 だが、白っぽい少女はエモリスに続かず、一礼して見送った。


「あれ? 一緒に行かないんですか?」

「……もう私の大好きなお金は……七星金貨は手元にありますから……これから、久しぶりの再会を祝うつもりです」


 そう告げると、白っぽい少女は地下下水道の闇の中に消えていく。


「あ、ここまで案内してくれてありがとうございました! ……行っちゃいましたね。……さて、ここからはいよいよおたのしみの……! 宝物庫に突入です……!」


『いよいよか』

『どんなお宝があるのかワクワクが止まらんね』

『楽しそうなとこ悪いけど、金のスライムってただの金製のスライム像じゃ?』

『なんでおたのしみなん? リサを探すのでは?』

『友情のために城に忍び込むんだもんなあ?』


「あ……そ、そうですよ? まずは第一にリサさんを見つけ出さなきゃ……」


 もごもご言いながら、エモリスは隠し通路の先の扉に手をかける。

 そして開ければ、そこには瞬く財宝の数々。

 宝箱や魔法の武器や防具。

 美術品や宝石の山。


「きた! ほんとに宝物庫ですよ! すごい……さあて、早速金のぷにょちゃ」


『宝物庫で金スラ探してる暇なんてないねえ』

『うろうろしてる場合じゃない』

『早く先に進んで』

『立ち止まっちゃダメだよ』


「え、あの、え、え? いえ、確かにそうなんです。そうなんですけど……ちょ、ちょっと宝物庫の中探してみても良くないですか? ……リサさんが宝箱の中に隠れてるかもですし」


『それじゃ単なる宝物庫荒らしになっちゃう』

『なら、通報せざるを得ないな』

『あーあやっぱり金スラ目当てか』

『友人よりスライムを選ぶか』


「そ、そそんなことないですけど? えーと、金のぷにょ……じゃない! リサさん、ざっと見たところ宝物庫の中にはいないみたいですし、先を急ぎます!」


『宝箱の中に隠れてるかもしれないんじゃないの?』

『通報してぇなぁ』

『あ、いちおう友達優先なのね』


「……先にリサさん見つけて、金のぷにょちゃんの居場所を教えてもらった方がワンチャン効率いいですし……もしかしたら、わたしにくれたりするかもしれないですから……!」


『なんか漏れてる』

『なんという図々しさ……!』


 心の中の声を呟きつつ、エモリスはこっそり宝物庫から城の中へと足を踏み入れる。

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