第62話 底辺配信者さん、不法侵入も辞さぬ構え
エモリスにお礼をしたいと言い出した白っぽい少女。
その彼女が突然、スーッと音もなく歩き出す。
5、6歩分、歩いたところで振り返り、エモリスを手招き。
「……さあ、こっちへどうぞ」
「え、なんです?」
「……お礼ですよ。どうか、私の後についてきてください」
「でも、本当にお礼なんて……拾った金貨を持ち主に返しただけなんですから」
「……欲のない方ですね。でも、それでは私の気が済みません……どうか私を助けると思って」
「は、はあ、そこまで言うなら……」
エモリスは遠慮して見せたが、結局白っぽい少女に押し切られる。
それを見ていたリスナー達が呟き始めた。
『怪しくない?』
『どこに連れてこうとしてるんだ』
『知らないゴーストについていったらダメって親に言われなかった?』
『罠じゃね? ゴーストとか、迷った人を危険な場所におびき寄せて殺したりするじゃん』
『金貨を見つけてもらった恩を仇で返す、それが邪悪なアンデッドモンスターってもんよ』
エモリスはそれらのコメントを見て囁く。
「……えーっと、この子、そんなに悪い子には見えないんですけど……」
『あーあ』
『怪しいって言ってるのに』
『あとで泣かないようにね』
『信じてあげていいと思うよ』
『お礼ってなんだろな?魔法の品物とか?』
『なんでも入れられるマジックバッグおすすめ』
「確かに、なんでしょうね? ……あのー、すいませーん」
エモリスは前を行く少女に声をかける。
「お礼って何を……」
「ここです」
白っぽい少女は薄汚れた壁の前で立ち止まった。
そこは地下下水道内の行き止まりだ。
それまでずっと続いていた一本道はそこから先、どこにも通じていない。
『袋のネズミ』
『来た道塞がれたらもう出られないねえ……』
『壁! 壁見て壁! 不自然に汚れがついてない部分がある!』
「え? え? 壁、ですか? そこになにが……」
「よく気付かれましたね。そうです、そこが動くようになっていて……」
白っぽい少女が壁を指差す。
壁の一部分が妙に擦れたようにすり減っていて、汚れもついていない。まるで誰かが、よくそこだけ触れて掃除でもしているかのように。
「……隠し扉になっているんですよ」
「扉……? じゃあ、この先に道が続いているんですか?」
「ええ。どうぞ遠慮なく、そこに手を触れてください」
『きた!隠し扉!』
『いや、簡単に信用するなよ。わざわざそこに触れさせようとするのは怪しい』
エモリスは壁のそのすり減った部分に顔を近づけた。
よく見る。が、それがどういう仕組みでどのように作用するのか、素人なのでわからない。
そこを触ったら壁が回転して先に進めるようになるのか、どこかから毒矢でも飛び出してくるのか。
「……えーと、これがお礼……なんですか?」
「はい。この扉を通れば、地下下水道から出ることができます。もう危険な地下下水道を通らず帰れるのですよ」
「え? いえ、別にここから出なくても、入ってきた場所から出ればいいだけですし……ていうか、外に出られるとしても、どこに出るんです?」
「王城の宝物庫です」
『宝物庫!?』
『やったじゃん』
『そんなとこ入ったら普通に捕まるやんけ!』
『罠だ!』
『なんでそんなところと繋がる隠し扉が地下下水道にあるんだよ』
コメント欄がざわつく。
白っぽい少女の答えに、エモリスも目を丸くした。
「王城の宝物庫って、じゃあ、ここからお城と出入りできるんですか?」
「はい、そのようですね。もともとここは王家の者が城から脱出する際に使われる秘められた出入り口のようです」
『王家の隠し扉を配信でばらすアドチューバ―さん』
『これヤバくない?』
『あーあ』
『またBANされるかー』
コメント欄からの指摘で、エモリスは慌てる。
「あわわ……こ、これ映しちゃいけないやつですかね? モ、モザイクかけますからなんとか見逃してもらえませんか、運営さん!?」
と、リスナー達の一部から、ふと白っぽい少女に関する疑問が呟かれる。
『ていうかこの子、なんで隠し通路のこと知ってたの……?』
『秘密、なんだよな……?』
『……そもそもこの子が持ってた七星金貨ってどこから来たんだ……?』
『あ』
『……泥棒の片棒担いじゃってない……?』
白っぽい少女は薄い笑みを浮かべながら、
「……さあ、どうしました? 宝物庫に行かないんですか? 王国の財宝がたくさん眠っているんですよ。私からのせめてものお礼です」
「あのう……わたし、そういうの興味ないので……それに、勝手にお城に入り込んだら怒られますよね?」
「城に行きたくはないんですか?」
「! それは……」
エモリスは気付いた。
これはチャンスでは?
思い浮かぶのは、連絡が取れなくなっているリサのことだ。
エモリスの配信を真っ先に面白がってくれて、マネージャー役を買って出てくれた彼女。
王国の姫で、城から出してもらえなくなっているらしい彼女。
そのリサに事情を聴き、何か手助けできるチャンスでは?
また、前みたいに会って話せるようになれないか?
だが、そのために宝物庫へ忍び込み、そこから更にリサの居場所を探し歩くというのは余りに無謀……!
捕まってしまうリスクを避けるためにも慎重に事を運ぶべき……。
リサの元へ安全に辿り着ける方法を考えろ、考えろ……と自分に言い聞かせる。
そこへ、
「……お城の宝物庫には様々な財宝があるんですよ」
白っぽい少女の声が続く。
「いえ、ですからわたしは宝には興味がないので……」
「……例えば、そこには黄金製のスライムがいるそうです」
「行きましょう!」
即断即決だった。
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