第59話 底辺配信者さん、反転アンチになる
エモリスはイチャイチャし合うスライム達を前にして、淀んでいた。
イケメンスライムを見ながら、張りのない声を漏らす。
「うわあ……他のぷにょちゃんの前でそんな顔するんですね……」
『?』
『いやわからんが』
『スライムの表情は読めんなぁ~』
『テンションだだ下がりで草』
『エモさん、なに目線なんすか』
『後方彼女面』
エモリスの呟きに、リスナー達がコメントをあげていく。
エモリスは疲れたように首を振りながら、
「……あーあ……これは、ダメでしょう……こんなのは違うんです」
『スライムの恋愛にダメだしする人初めて見た』
『スライムのカップリングに一言ある女』
『恋愛っていうか最早これ完全に交尾だろ』
『他人の交尾を否定するな』
リスナーからの反応に、エモリスは口を尖らす。
「なにを言ってるんですか、皆さん。思い出してください! このイケメンぷにょちゃんは一匹狼で結構悪いこともするクールなキャラなんですよ! それが別のぷにょちゃんに出会って即落ちデレぷにょしちゃうとか……! 通るわけないでしょうっ、こんなことっ!」
『そのスライムのキャラとか性格とかあなたの感想ですよね?』
『そもそもスライムに個性とかないでしょ?あるの?』
『スライムなんてみんな同じだよなあ』
『俺達にはただスライムが2体いるだけにしか見えないのに、なにに引っかかってんだ』
『エモリスちゃんの謎のこだわり』
エモリスはリスナーからのコメントに目を通し、嫌々をするように首を振った。
「いや! 違うんですよ! わかりませんか!? イケメンぷにょちゃんは最初1人で群に属さずにいたでしょう? その生態がすでにクールなんです! でも、他のぷにょちゃん達がこっちの小さいぷにょちゃんを虐めてたら、助けに入りましたよね? ここでもう、クールだけど実はいいひと……って個性がわかるじゃないですか! 更に、困っているぷにょちゃんを見捨てられない、でも、悪いことするぷにょちゃん達には容赦せず暴力で解決する、そんな悪いところもある……ってそういうイケメンぷにょちゃんの性格、読み取れますよね? いえ、それはそれでいいんですよ! でもですね!」
『なんだなんだ』
『めっちゃ語り始めた』
『早口』
『長くなりそ?』
エモリスは語った。
「このイケメンぷにょちゃんの優しさは! 困っている相手になら誰にでも向けられるべき優しさであって! 困っているのがかわいい女の子ぷにょちゃんだったから、その子にだけ特別優しくして助けてあげた……とかじゃないんですよ! そんな、自分がモテたいから助けてあげた、みたいなの、クールじゃないですもんねぇ!? なのにっ!」
エモリス、台パン。
更に、目の前でいちゃいちゃするスライム達をドアップにする。
「こんな風にっ! めっちゃモテて、しかもそれを受け入れてるのは全然違うんです! 解釈違いっ! 本当にクールなイケメンぷにょちゃんなら、優しくした相手と仲良くなるようなことになったら、──俺にはそんな資格はない……──みたいに自ら身を引いて、その子が他のカタギのぷにょちゃんと幸せになるのを見守って去るべきなんです! むしろその子のことをわざと傷つけるようなことを言って、ヒールになって嫌われてあげるべきなんです! ほんとは好きなのに! でも、好きで大切だからこそ嫌われて去る、みたいなっ!」
『なんかの少女漫画?』
『エモリスちゃんの歪んだ恋愛観』
『一匹のスライムからここまで妄想するとか天才やな』
『なにをきかされてるんだおれたち』
と、エモリスの表情が、ふっ、と緩む。
「……そして、そんなイケメンぷにょちゃんの悲しい恋心をわかってあげられるのは、わたしだけ……これまでずっとイケメンぷにょちゃんのことを見てきたわたしだけなんですぅぇひひ」
『あ』
『あーあ』
『やっぱおかしい』
『目を覚まして!』
エモリス、はっとしてよだれを拭き、きっ、と真剣な顔。
「そういうのが尊いのに、なのに! だから、ここでこの2人は仲良くなったらダメなんです! 解釈不一致! 無理っ!」
『ええ……?』
『スライムの話だよな?』
『なるほど、わかるわー』
『目を覚まして!』
リスナー達の中にも様々な反応がある。
そんな中、スライム達に動きがあった。
イケメンスライムが、ゴミ山の中のシャトーブリアンっぽい部位から身を引いたのだ。
そこはスカベンジャー系スライムにとって最もうま味を感じるゴミで構成されている。
イケメンスライムがどいたことによって、小さなスライムがその部位に覆いかぶさった。
エモリスの口が歪む。
「うっっっわ……! うーわっ! ──さあ、お前のために取っておいたぜ?──みたいなこと言いたげにっ! 譲ってあげてますよこの子! 違うんですよねええええ、そういう優しさじゃないんですよ! わかってないなああああああ! そういうことしないの!」
と、小さなスライムはゴミの最高級うま味部位を体内に取り込み、その体を伸ばしてイケメンスライムへと結合させた。ゴミの最高級うま味部位がイケメンスライムの体内へとぬるぬると移動する。
「うわっ! これ、あの、あれ! はい、あーんして? ですよこれ! しかも関節キッス系! この子、とんだ小悪魔ぷにょちゃん……! しかも、それをなんのかんの受け取りやがりましたねえええええ!? ──おい、なんだこれは──、──うふふ、ぼくが食べさせてあ・げ・る──、──やめろ、うっとうしい──、──ぼくの触れたものなんか食べるの、嫌?──、──嫌じゃないが……照れ臭いだろうが──、──ふふ、恥ずかしがっちゃって──、みたいなみたいなニュアンスの会話が成り立ってましたよねえ、いまあああああ!」
『おちけつ』
『そこまで妄想するか?』
『なんやねんこれ』
『幻聴が聞こえてる。末期やね』
エモリスの大騒ぎを気にしたのか。
スライム達はお互いから離れ、距離を取ってゴミ山のエサ漁りを再開する。
「いやだ~、あ~、やだやだ! 今、この子達お互いちょっと離れてますけど! でも、意識し合ってるの見て丸わかり! ですよね!? 振りですよ振り! 離れてる振り! 本当は今すぐにもくっつきあいたいんでしょう? 合体したいんですよね? どっちから合体しに来るか、誘ってるんでしょお互いにぃっ! か~っ! うっわ! うぅわっ! わざとらしく離れてるけどお見通しなんですよこっちは! ぷにょちゃんのプロなんですから! あ~、いやらしい! クールなぷにょちゃんはそんな小賢しいことしないんです。こういう駆け引きするとか……むりぃっ!」
エモリスは両手でバッテン作って、これ以上無理! と体で表現する。
そして、がっくりと肩を落とす。
「……あーあ……これ、もう、なんていうか萎えました……地下下水道のぷにょちゃんを発見するっていう当初の目的は果たしましたし……もう萎えオチしていいですか……?」
エモリスは配信のギブアップを宣言した。
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