第58話 底辺配信者さん、しんどい
皆で仲良く、地下下水道内に住むスライム達の生態を観察しているエモリスとリスナー達だ。
「というわけで、みなさん、良かったですね! 今日はなかなかお目にかかれない、追放系イケメンぷにょちゃんを見ることができたんですから! はぁーん、ちょっと、これはもう……! もう……限界突破……っ!」
エモリスは地下下水道に溜まったゴミ山の前で、乙女のごとく声を上擦らせた。
「こんなカッコイイぷにょちゃん、いないですよ!?」
ゴミ山には大きなスライムと小さなスライムがへばりついている。
エモリスの推しているのは大きい方のスライムだ。
小さい方のスライムを守ってやったと近頃評判のイケメンスライム。
だが、本人はそんな評判など全く気にした風でもない。
実にクールなスライムだ。
──俺は俺──他人からどう思われようが関係ないね──
そう態度で示している。
それがまたエモリスの琴線に触れたようで、
「ほら、見てください! 人助けしたのを鼻にかけることもなく、なんとも奥ゆかしいと思いませんか? これは見た目だけでなく精神もイケメンですよ、このぷにょちゃん!」
『イケメン……?』
『わかんない』
『スライムにイケメンもブサメンもあるか』
『おい、エモリスちゃんの目が……!』
『エロマンガ(催眠系)でしか見たことないようなハート型に!?』
『くわしいな』
エモリスは唾を飲み込んだ。
「こ、こんなイケメンぷにょちゃんってやっぱり感触も違うんでしょうか……? 優しくソフトな肌心地なのか、逆にざらついたやすりのように触る者の手を傷つけるのか……? ……ちょ、ちょちょちょちょっと、うふ、追放系イケメンぷにょちゃんの肌触りを、ふへ、た、試してみたいと思いまふひひ」
『エモリスちゃんがキモオタ語喋り出した』
『あかーん!』
『この子はもうだめだ』
『手を出したら犯罪やぞ』
『イエス スライム ノー タッチ』
『シンプルに、ゴミの上這いずり回ってるスライム触るのきったな』
「えへへ、さ、触りますよぉ? ぷにょちゃんの柔らかいところ……掴んで揉んでクリクリしちゃいますよぉ?」
エモリスは手をワキワキしながら、大きい方のスライムに近付いた。
『犯罪者の手つき』
『にげてースライムにげてー』
『おいこれ配信していいのか?』
『下水道のスライムとか素手でうんこ掴むようなもんやろ』
だが、エモリスの手を空を切る。
イケメンスライムはエモリスの手が近付くと、ぶるん、と震え、見た目に似合わぬ素早さで逃れてしまった。
それはまるで
──俺のことを何も知らないくせに──わかったふりして触れてくるな──
そう言って拒絶しているかのよう。
さらに苛立つように、
──鬱陶しい女だぜ──
エモリスにはイケメンスライムのそんな声が聞こえてきたような気がした。
「あ、あれ~? どうしました? あ、さ、触られるの照れちゃってるのかなあ?」
エモリスは再び接触を試みるが、スライムはやんわりとその手の届かぬところへと遠ざかるばかり。
『スライムの塩対応』
『フラれてて草』
『どんまい』
「……へー……そうですか……」
スライムに逃げられたエモリス、短く呟く。
『あれ?キレてる?』
『可愛さ余って憎さ100倍』
『これからスライム大虐殺映像が流れます。ストレスを感じたら視聴をお控えください』
『殺してしまえホトトギスの精神』
コメント欄がざわつく。
と、エモリスは、ふふっ、と笑った。
「面白いぷにょちゃんですね! 悪ぶってるくせに恥ずかしがり屋さんだなんて……!」
『おもしれースライム』
『自分に都合のいいように解釈した!?』
「ますます興味が湧いてきました!」
『まだ諦めてないの!?』
『鋼のメンタル』
「このぷにょちゃんの本当の気持ちを知っているのはわたしだけ……。いいんですよぉ? そうやって強がってるところもかわいいですし、最後は戻ってくるってわかってますから!」
『すげーまだ言ってる』
『妄想たくましいな』
『エモさん、あなた本当に気持ち悪い』
『スライムが関わるとまじでおかしくなるからなこの子』
だが、おかしくなったのはエモリスだけではなかった。
リスナーの一部もだいぶおかしい。
『ちょっと待って!? これってスライムにエモリスちゃんNTRれた!?』
『こんなのってないよ』
『熱愛発覚』
『ぼくの方が先に好きだったのに!』
『こんなんアンチになるわ』
『アドチューバーが裏でスライムと付き合ってたとかやべーよ炎上案件だよ』
『配信してたスライムと実はできてたって……これまでずっと彼氏とのいちゃいちゃを見せられてたってこと?おれら悲しいピエロじゃね?』
本気でスライムに嫉妬している連中が騒ぎ出す。
『おまえらよくかんがえろカブトムシ好きのアドチューバ―がカブトムシと結婚しますって言いだしたらおまえら怒るか?』
『むしろ安心するだろ』
『なんでスライムだとそんな燃えるんだよ落ち着け』
勝手に湧いて出た火消しもだいぶおかしいことになっていた。
その時だった。
エモリスの眉が曇る。
「……ん? あれ……? あの、ぷにょちゃん……? そっちの小さいぷにょちゃんとなにを……」
ゴミ山の上。
イケメンスライムは小さいスライムに近寄りつつあった。
「えーと……ああ! そっちの子とエサを一緒に分け合って食べるんですね! はいはい、仲良く分けて、え……うわわっ!?」
エモリスが上擦った悲鳴を上げた。
『スライムとスライムが体を伸ばしてくっついてる……?』
『あれ? これ、なんか……』
『チュー?』
『やってんねぇ!』
スライム同士が粘膜を擦り合わせていた。
粘膜接触だ。
「な、なにをしてるんですか!? ふ、ふふ不潔です!」
エモリスは顔を赤らめて叫んだ。
『ええ……?』
『この小さい方のスライム、もしかしてメス……?』
『スライムにメスとかオスとかあるのか?』
『種類による』
『おれの知ってるスライムじゃない』
「え? なんですか、これ? え? これ、つまり、そういう、ええええ!? イケメンぷにょちゃん、その子のことそんな目で見てたんですか!?」
エモリスはがくがく膝を震わせながら言った。
足に来ている。脳がやられた所為だろう。
エモリスの肩がガクンと落ちて、ため息が漏れた。
「……うっわ、しんどい……」
今日一テンションの低い声だったという。
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