第51話 底辺配信者さん、行き当たりばったりの配信をする
「……というわけで、ぷにょちゃん達の世界に行けるようになるのがすごい楽しみ! っていうのがわたしの今の心境になりますかねー」
自室からの配信を続けるエモリス。
「……まあ、気がかりなこともあるんですけど……」
エモリスの脳裏には仮面姿のリサが浮かんでいる。
王国の姫君にして、エモリスのマネージャー。
「ダンジョンの制御・管理の権限が誰の手に渡るか?」
そのことばかりがにわかに注目されるようになったため婚約問題は一気に霞んでしまった。
最早誰もがそれどころではないような状況だ。
とはいえ、リサとエモリスの間で連絡が取れない状態は続いている。
……やっぱり王国の人達に監視されてて自由にメッセージも送れないのかな?
エモリスは口に出さず思った。
王国の姫の名で下手な情報を発信するとたちまち補足されてしまう。
連絡手段があったとしても、それではすぐに取り上げられてしまうだろう。
エモリスは一瞬、そんな考えに囚われて無言になっていた。
『ん?』
『音声入ってない?』
『無言配信助かる』
『どうしたどうした』
エモリスは気づき、慌てて冒険者カードに向かって弁明する。
「え、ええと、すみません! ちょっと気を取られていまして……」
『スライムか?』
『ま~たスライムのこと考えてる』
『そんなにスライム好きなら今日もスライムの配信すればいいのに』
『↑今日はダンジョン立ち入り禁止だってさっき説明したばかりだぞ』
『いや、ダンジョン入らなくてもなんかできるでしょ』
そんなコメントに、エモリスは顔を曇らす。
「……そうなんですよ! 今日はこうして雑談配信してますけど、本当はぷにょちゃん図鑑を続けたかったんです。でも、街にはぷにょちゃんがいなくて……」
エモリスは遠くを見る目をした。
「……わたしの田舎、北の大かまど村だったらそこら辺に野良ぷにょちゃんがいたのに……やっぱり都会ってそういう点が不便っていうか温もりがないっていうかぷにょちゃん砂漠ですよね……自然界のパワーが薄いんですよ」
『なに言ってるかわからんが街をディスってるのはわかる』
『田舎暮らし最高!っていいたい?』
『でも田舎って図書館とか地下下水道とかないからシティアドベンチャーできないじゃん』
『エッ……な酒場とか紳士の社交場もねーんだぞ』
「別にわたしはそういう街特有の場所に行かないですし……あ、でも図書館はいいですね。ぷにょちゃんの図鑑とか研究書とかなら一日中読んでいられます!」
『そんなエモやんもいつか都会に染まって汚れちゃうんだ』
『夜の街で遊びを覚えるとかな』
『エモリスちゃんが不良になっちゃう……!』
『きっとスライム風俗とかあったら一発でアウト』
『ていうか王都にもおるところにはスライムいっぱいおるぞ』
そのコメントを目にしたエモリス、身を乗り出す。
「それ、どこですか!? 気になります!」
『スライム風俗に食いつくとは……』
『この子もうだめだ』
『追い剥ぎ通りにノーパンのスライムが接客してくれる店あるで!』
『古式スライムマッサージとかも有名よな』
適当なことを言い出すコメント欄。
更に、彼等は優しくその筋の作法などを指示してくれる。
『バケツ持って行って。危なくなったらスライムをバケツですくって』
『お店に入ったらまず服を脱ぎます』
『スライムにかける塩と砂糖を間違えないように注意』
「ち、違います!? わたしが気になるのはそっちじゃなくて、ぷにょちゃんのいっぱいいるところの方です!」
エモリスは顔を真っ赤にして言った。
『しってた』
『なーんだ』
『せっかく色々お店でのマナーとか考えたのに……』
「そんな存在しないぷにょちゃんのお店の話は置いておいて、存在するぷにょちゃんの穴場の話をしましょう! 王都の、どこにそんなにたくさんのぷにょちゃんがいるんですか?」
気を取り直したのか、エモリスの目がキラキラし始める。
コメント欄が知ったかぶりを始めた。
『魔法商店とかでいっぱい売ってるんじゃない?』
『裏通りの売人がこっそり』
『純度の高いスライムは飛ぶからな』
『ワクドナルドのゼリーバーガーの原料、スライムだって噂だし、ワクドナルドに行けば』
『スライムなんか暗くてじめじめした場所ならいくらでもおるやろ』
『王都地下下水道』
「……地下の下水道……」
流れるコメント欄から1つ拾い出して、エモリスは呟いた。
「……確かに、湿度が高くてぷにょちゃん達にとってはエサも豊富な場所ですね……いっぱいいるかも……」
『えー』
『想像すると結構キツくない?壁とかにびっしり貼り付いてたらと思うとひゅっってなる』
『カレー食ってるときにスライムの話しないで』
『下水道のネズミ退治で潜ったことあるけど、確かにスライムも出たな』
エモリスの表情が明るくなった。
「……盲点でした! ダンジョンにしかいないものとばかり思って、ぷにょちゃんの可能性に気付けなかった……! これはどんな種類のぷにょちゃんが地下下水道にいるのか、調べてみる価値がありそうですね!」
エモリスの背後でキララが動いた。
ゴロゴロ転がっていたのが、伸びをして起き上がったのだ。
まるでエモリスが出かけるのを待っているかのように。
『どうせスカベンジャースライムばっかだろ』
『汚物処理スライム』
『くさそう』
『そんなの配信で紹介されても見る気にならないなあ』
『それよりエモリスちゃんの部屋の中もっと映して!』
「じゃあ、急遽ですけど、ちょっと地下下水道までお散歩しましょうか?」
エモリスはリスナー達の要望など意に介さないように言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます