第52話 底辺配信者さんの二択問題
エモリスがニコニコで、地下下水道までぷにょちゃん探しに行きます!宣言した瞬間、リスナー達の一部が不満を漏らし始めた。
『あれ?雑談配信じゃないの』
『なんで行く』
『部屋から出ないで』
『女の子のプライベートを覗き見したいんだよ、こっちは!』
『住所特定して乗り込めー!するのに助かる』
完全にアウトなコメント。
エモリス、キョトンとした顔。
「え? でも、ぷにょちゃんのかわいらしさを見たくて視聴してくれてるリスナーさん達みんな、わたしが雑談配信するよりそっちの方が嬉しいでしょう?」
『え?』
『うーん?』
『そうでもない』
『スライムとか正直別に……』
『ぶっちゃけスライム見せられても、ふーん、としか……』
『言うな言うな言うな傷ついちゃうだろ』
『ちょっと男子―』
空気読んだコメントが露骨に話を逸らし始めるなどする。
『いや、地下下水道汚いから行かない方がいいかなって』
『お化け出るとか噂もあるし怖いよ? ホラー配信になるよ?』
『どこに通じているのか謎の秘密通路もあるらしいし不穏よな』
『部屋にいた方がいいって』
『大ネズミ退治とか初心者用のクエストのためのエリアだし高レベル帯の冒険者が入るのはマナー違反やぞ』
「え、幽霊とか出るんですか……」
大量に流れるコメントの中から見出される不穏なコメント。エモリスの目はそれに吸い寄せられてしまう。
リスナー達も食いついた。
『腐肉漁りの化け物アティアグに骨まで食われた冒険者とかが無念の思いでゴースト化してるらしい』
『アンデッドの神を信仰するカルトが隠れ住んでいて、切り刻まれた犠牲者の霊が夜な夜な呪いの悲鳴を上げてるって聞いた』
『やつらは生者を呪い仲間を増やそうとしてる』
『いや幽霊なんか出ないよ?』
『こわくなんかないからおいでなさい』
『まってる』
「え? え? で、出るんですか? 出ないんですか? ど、どっちなんです?」
『ここにいるやつらのいうことなんて信ぴょう性ゼロ』
『ウソでもガセでも言いたい放題だからね』
『下水道エアプ勢しかいないよ』
『怖いならお部屋で雑談してた方がいいって』
「……」
エモリスは考え込む。
その足元で、キララが体をスリ寄せてきた。
甘えているのか、なにか催促しているのか。
それに何を感じたのか、エモリスは口元を引き締めた表情で冒険者カードに向き合った。
「……確かに幽霊が出るとか、怖いです。でも……そこにぷにょちゃんがいるのなら、それだけでそこに行かない理由はないんです! わ、わたしの怖いっていう気持ちより、ぷにょちゃんの愛らしさをみんなに伝える方がずっと大切だから……!」
『あーあ』
『せっかくちゅうこくしてあげたのに』
『がんばれ!』
『恐怖を乗り越えて挑戦する心……!』
『おれみたいなぷにょちゃん図鑑楽しみにしてる少数派にとっては嬉しい』
決意したエモリスは迷いを振り払うように、明るい口調で言った。
「まあ、ただのお散歩ですよ。みなさんからのマシュマロを紹介しながら、のんびり行きますね」
そうしてエモリスは地下下水道へ向かいつつ、リスナーからマシュマロ(匿名ダイレクトメール)で届けられた質問に答えていく。
「ええと、まずはこちら……アドチューバ―になったきっかけは何ですか? これはですね、わたしが幼馴染のエモ―キンの行方を捜してることを冒険者の皆さんに知ってほしかったっていうのがまず第一でしたねー。わたしの事情を多くの人に知ってもらえれば、エモ―キンの情報も教えてもらいやすくなるかなって、もう、藁にも縋る気持ちでした」
『それがどうしてこんなことに』
『エモ―キンっていうかスライムにしか興味ないよな』
『ちょっとサイコパス入ってる』
「は、はい! 次! 次はこちら……今、やってみたい企画とかコラボとかありますか? これはもちろんぷにょちゃんですね! ぷにょちゃんをいっぱい集めて大規模オフコラボしてみたいです! リスナーさんも参加できたらもっといいですね!」
『うおおおおおお、お、お?』
『スライムを画面いっぱいに集められて……それで俺達は何を見せられるんだ?』
『参加するリスナーってそれスライムのエサやろ』
「はい、次でーす。最近、マスターズのレネさんとはどうですか? またコラボしないんですか? ていうマシュマロですけど、実は配信外で会ったりしてまして、この前は一緒にお洒落なお店で、ええと、ティー? アフタヌーンティーとかいただきました! なんかカゴ? がタワーみたいになってるクッキー入れから無限にクッキー食べてました! 美味しかったです」
『食い方よ』
『マナーとは』
『優雅なアフタヌーンティー、飲み放題食べ放題』
「おすすめのお掃除道具を教えてください。あー、そうですね、今、わたしが気になってるのは全自動魔法吸引徘徊機ですね。あのぅ、詳しくないんですけど、あれ、お部屋に置いておいたら勝手にお掃除してくれるんですよね? いいなあ……」
『部屋、雑だもんね』
『あれ、床にもの置いてあると動かんぞ』
『吸引力強過ぎると家具とか猫とかも徘徊して吸い込んじゃうから注意』
「えー、次行きますね……これ、いくつも同じ質問が来てたんですけど……エモリスさんは何味ですか? っていうの……味って何ですか?」
『あ』
『これしってる』
『どういう意味?』
『思った通りのことを答えればええよ』
「……うーん、そうですね……やっぱりわたし、ぷにょちゃんのこと大好きなので、ぷにょちゃん味になるのかなあ? ……ぷにょちゃん味です」
『へー』
『エモリスちゃんそんな味なんだ』
『ぐへへ』
『TKBの味のこと』
『? なんだか意味わからんクソマロやな』
「次―。ええと、これは二択問題ですね。ぷにょちゃん味のTKBとTKB味のぷにょちゃん、舐めるならどっち? とのことですが……」
『おいぃぃぃぃ!』
『なに聞いてんだこのクソマロ!?』
『そしてそれを読み上げるな!』
「これどういう意味ですかね? ……でも、舐めるならぷにょちゃんかな。TKBがどんな味かわからないですけど、ぷにょちゃん舐められるならそっちの方が……あ、でも、味がぷにょちゃんならそっちの方が美味しいですよね、きっと……うーん、どっちか迷いますねー……」
『やめろやめろやめろ』
『ライン超えやぞ』
『こんなクソマロ送ってくるやつ即ブロしとけ』
『犯罪級のセクハラ』
エモリスの配信はBANされたという。
エモリスの冒険は終わった。
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