第46話 底辺配信者さん、事情を教えてもらう
「……早速、魔王軍と合流か」
その声は地の底から響くかのよう。
キングスガード筆頭として、邪悪な魔王軍を見過ごすわけにはいかない。
そう言わんばかりに、セバスチアンは剣に殺意を込める。
「え? あ、いや、ちょ、ちょっと待ってください!」
魔王軍とは何のかかわりもないと主張したエモリスは、手を振って大きくアピール。
「た、確かにこの子達は魔王軍ですけど、その、悪い魔王軍じゃないですし、この子はわたしの弟みたいなもので……」
『悪くない魔王軍ってなに?』
『あーあ』
『おまわりさんちがうんです』
『これは悪手』
『通報した』
『ワンチャン、エモリスちゃんも反王国罪で逮捕!』
『王国中に配信されてるし言い逃れできないねえ』
『いやむしろこんな間の抜けた子が魔王軍に入れるわけないって配信見てればわかるやろ』
コメントの一部は無情にもエモリスを切り捨て始める。酷い奴らだ。
セバスチアンは巌の様な眼差しで吐き捨てた。
「弟が魔王軍に所属しているような輩が信じられるはずもなし。やはり姫様を誑かし、悪用しようという腹積もりだったのだな。姫様から王国の機密を引き出す企みか? それとも、誘拐して魔王軍の手駒にでもしようと? ……まったくもって許されざる悪党というもの」
「ち、違います!? わたしもメリッサさん達も人を傷つけるような真似は決して……」
そんなエモリスとセバスチアンのやり取りを見ていたメリッサ、その目がすっと細まる。
「……なるほど、事情は察してやったぞ、エモリス。こいつは敵なんだな? ……なら、私達が片付けてやってもいい」
「ほう……やる気か? このキングスガード筆頭と?」
「死に損ないの老剣士は剣よりも口を使う方が得意らしい。やるぞ、エモ―キン。そして、エモリス、こいつを始末する代わりに、あとで私達に手を貸せ」
「……ち、確かに老いた。10年前ならもう斬っていたものを……つくづく手ぬるくなった」
身構える両者を前に、エモリスは溜息を吐く。
「あの、ちょっと黙っててもらえますか? メリッサさん? ややこしくなっちゃうんで……」
「なんだ? せっかく味方してやろうというのに……」
メリッサは眉を顰め、僅かに頬を膨らませた。
エモ―キンも不満そうに暗い青や紫色に発光して見せる。
「セバスチアンさんもわたしの話を聞いてください。……人の話を聞かないのって、お年寄りの証拠ですよ」
「……む、そう言われると……10年前ならもう聞いていたものを……よかろう、そちらの言い分を言え」
セバスチアンも一旦、殺気を収める。
ただし、その眼差しは油断なくエモリスやメリッサ達に向けられたままだ。
エモリスは深呼吸した。
それから、セバスチアンに一気に話し出す。
「……わたしはリサさんのことを姫様だなんてしりませんでした。だから、リサさんのことを悪事に利用しようだなんて考えたこともありません。わたし達は本当に、一緒にアドチューバ―活動をやっていく仲間、いいえ、友達です! だから、セバスチアンさんにもう会うなと言われても、納得はできないです。というか、むしろリサさんに会わせてください!」
「それはできぬ」
セバスチアンは一言で切り返した。
「なんでですか!?」
「貴様が姫様の正体を知らずに知り合った、というのが事実だとしよう」
「事実ですけど……」
「だが、今はどうだ? 貴様は自分の友が姫様だと知っている」
「セバスチアンさんが教えてくれましたから」
「……そして、貴様が魔王軍と関わりがあることを私も、この配信とやらを見ている者達もみな、知っている。それはすなわち、姫様は魔王軍と関わりがあると受け取られることと相違ない」
「で、ですから、わたしは魔王軍の仲間っていう訳じゃなくて、エモ―キンの幼馴染であって……」
「そのような細かな事情は誰も考慮せん。特に……帝国やその第2皇子ともなればな」
エモリスは首を傾げた。
「え? 帝国……とかがなんの関係があるんですか? 今はリサさんとわたしの問題ですよね?」
「……これはすぐに公になることであろうから教えておいてやろう。姫様は帝国の第2皇子とご成婚される」
「え!?」
エモリスは一瞬言葉を失う。
そして、思い当たる節について呟いた。
「……そ、そういえば、リサさんから結婚するってメッセージを貰ってましたけど、それってそのこと……リサさん、帝国の皇子様と恋人だったんですか……」
「そんな訳があるか。王国安寧の礎となるためだ。そこに好悪の感情はない」
セバスチアンが厳しく言い放つ。
『えええええええ』
『帝国と婚姻関係!?マジかよ』
『よくある政略結婚やんね』
『これまでの王国・帝国間の小競り合いも収まるんか?』
『戦争回避じゃんめでたい』
『株!今の内に株買っとこ!』
『帝国第2皇子って確かやべー奴だろ?』
『些細な罪で女子供でもばんばん処刑するって聞いた』
『完全正義の皇子』
「……その第2皇子とのご成婚に当たり、貴様の様な輩が姫様の傍にいてはどのような災いが姫様に降りかかるかしれぬ。故に、貴様にはもう姫様との関りを断ってもらいたい。そういうことだ」
セバスチアンは、これ以上言うことはない、といったぴしゃりとした口調で言った。
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