第44話 底辺配信者さん、配信切り忘れみたいになる
マネージャー役だったリサの失踪。
その行方を探るエモリスは、一縷の望みを占いスライムに賭けた。
未来を映し出す占いスライム(ヴィジョナ―スライム)ならリサがどうなっているか、その姿を映し出してくれるだろう。
悪人に捕まって、牢獄にでもいれられているかもしれない。
その場所さえ特定できれば、わたしが助けに行ける……!
そう期待したエモリスは、しかし、覗き込んだヴィジョナ―スライムの中の光景に戸惑う。
「……これ……どこのお屋敷でしょう?」
生配信されているその光景を同時に目にしたリスナー達も呟き出した。
『目つむってんだけどやべえもんうつtった?』
『きらっきらやな』
『パーティ会場?』
『ワイの職場に似てる』
エモリス達の目に映るヴィジョン。
それは、壁にカラフルなタペストリーや由緒ありそうな剣盾が飾られ、天井は魔法の明かりによって煌々と照らされた広い空間。
山のように積まれた料理の間を、制服姿の使用人が行き交っている。彼等の手にあるのは色とりどりのグラスの載せられたお盆だ。
談笑しながら、多くの人々がそのグラスを受け取ったり、中身の空になったグラスを渡す。
その脇では楽隊が楽器を奏で、その音色に合わせて踊りに興じる者達もいた。
「……きらびやかな人達がいっぱいですね……お金持ちのお誕生日会かなにかでしょうか……? ここにリサさんが……?」
『闇のオークション会場か!?』
『人身売買』
『あれ!? あの人見たことある! 王国の大臣やぞ!?』
『王国が関わってる……?』
「り、リサさん、ここでどこかのお金持ちに売られてしまうっていうことですか!? 早く止めないと……!」
コメント欄に煽られるようにして、エモリスは慌てる。
だが一方で、リスナーの一部から遠慮がちな声が上がり始めた。
『盛り上がってるとこ悪いけど、これ王城の大ホール』
『見たことある』
『おそらく公式の夜会の様子だね』
『人身売買の会場じゃないのか』
「……そ、そうなんですか? ……じゃ、じゃあ、リサさんは悪人に捕まったわけじゃないんですね? よかったぁ……でも、お城のパーティでリサさんはなにを……?」
『婚活やろなあ』
『お城のえらいさん捕まえて玉の輿狙い』
『ええとこのお嬢さんなのかも』
『貴族のイケメンとラブラブなのかもしれんな』
「……え? それはつまり……誰か好きな人とデートをしているってことですか? リサさんが? こんな……こんな陽キャの社交場みたいなところで……?」
エモリスは受け止めきれないように、言葉を吐き出す。
そして内心、落ち込んだ。
わたしのこと好きだったんじゃ……。
わたし、フラれた……?
なんで? どこが悪かったの?
「……も、もしかして……やっぱりぷにょちゃん好きな女の子なんておかしいからでしょうか……? もしかしてわたし、ぷにょちゃんくさい……?」
『そんなことないよ』
『俺らがついてるぜ』
『しらんけど』
『エモリスちゃんもパーティに乗り込もう!』
『皆〇しだ~!』
慰めたり突き放したり煽ったり。
コメント欄はいつものように好き勝手言い始める。
そして、その中に一つ奇妙なコメントが流れた。
『配信を中止させろ今すぐにだ』
途端に、エモリスの配信画面に黄色と黒で縁取られた警告文が現れる。
『次のコンテンツは一部の視聴者にとって攻撃的または不適切な内容を含んでいると特定されるものです』
『ご自身の責任において視聴してください』
「え? あれ?」
その警告メッセージに気付いたエモリスが首を傾げ、コメント欄もざわつき始めた。
『なんだなんだ?』
『BAN対象になった?』
『王城の中とか映したから?著作権的な?』
『城の中の様子っていうかスライムの体の中を映しただけやぞ』
『機密情報漏らしてたら当然怒られる』
『え、これ、見てる方もヤバくね?捕まる?』
配信がBANされるだけでなく、視聴者側にも不利益が起こるかもしれない。
王城内部の警備状況やVIPの所在などを知った者は、スパイ容疑をかけられてもおかしくなかった。
『消せ消せ消せ消せ』
『俺見てないよ!目閉じてた!』
『やっぱ知らんほうがいいやつだった……』
「わ、あの、え、えっと……」
慌てふためき、エモリスは冒険者カードをあちこちいじくる。
こういう時は……、と操作して、
「え、えいっ! ……と」
エモリスの掛け声とともに、配信画面がスライム動画になった。
雄大な川を一匹のピンクスライムがゆったりと流れていく。
『nice slime』
『なんか急に配信内容変わったんだけど?』
『なぁにこれぇ』
流れゆくピンクスライムの姿を背景に、エモリスの声だけが聞こえる。
「こ、こんなこともあろうかと、映しちゃいけないものが急に出てきた場合に備えて、ぷにょちゃん動画を用意しておいたんですよ! これで映しちゃいけないものを隠したまま配信を続けられます!」
『なるほど?』
『策士』
『配信を切るという選択肢はないんか?』
エモリスの配信を見ている者達の画面上には、流れゆくピンクスライムが川辺の子供達に手を振られている様子が映し出されている。
それに被せて、エモリスの声が流れた。
「お城の中の様子を映さなければ、BANされたりしない……ですよね? と、とにかく、これでリサさんがお城の中のどこにいるのか確認して……」
「……貴様がエモリス・サマーだったのか……」
突然、男の声が配信に乗った。
画面には抜けるような青空の元、川の中をゆったり漂うピンクスライム。コントラストが美しい。
『誰よ今の声!?』
『いやあああああなんでエモリスちゃんの配信に男の人がいるのおおおお!!!!!!!??????』
『放送事故やんけ!』
一部コメントが過剰反応する。
それをよそに、エモリスの声は戸惑ったものに聞こえた。
「はい? ええっと……おじいさん、どこかでお会いしたような……?」
「あの時事情を知れていれば、拗れなかったものを……まあよい。今からでも遅くはない」
『ん? なんだ? なにが起きてる?』
『エモリスちゃんのところに誰か来た?』
ピンクスライムの横を川船がすーっと追い抜いていく。
そんな動画の流れる中、男の声は厳かだった。
「これから貴様に内密の話がある。王国の将来に関わる話だ。他言無用に願う」
「え、あの……あなたは……?」
『配信されてるが?』
『おいこれ流してていいのかよ』
「名乗ろう。私は王国の守護者、キングスガード筆頭セバスチアンというものだ」
流れるピンクスライムはそう言った(ように見えた)。
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