第43話 底辺配信者さん、占ってもらう

「はい! というわけで、皆さん、こんぷにょ~、です!」


 エモリスは冒険者カードへ向けて元気に挨拶。

 リスナー達へ呼びかける。


「今日も始まりました、皆さんにかわいいをお届けする癒しの配信、ぷにょちゃんねるですよ~」


『こんぷにょ~』

『今日はなに?』

『お、間に合った』


 リスナー達のコメントが流れ始めた。

 それを見て、エモリスは今回のぷにょチャンネルの内容を話し出す。


「さて、今日のぷにょちゃん図鑑でご紹介するのは~こちら! 占いが得意なぷにょちゃん、ヴィジョナ―ぷにょちゃんです!」


 そう言って、エモリスが指し示したのは半透明で優雅な輝きを放つスライムだった。

 その内部にはガラス玉の様な物体が浮いており、そこに様々な顔や風景が一瞬流れては消えていく。


『また変なスライムを……』

『結構デカいな』

『かわいくはないよね』

『そんなのどうでもいいからまた服だけ溶かすスライム出して!』


「この子の中に、大きな水晶球みたいなものが浮いてるでしょう? ヴィジョナ―ぷにょちゃんは、ここに未来や遠くの光景を映し出してくれるんです!」


『ヴィジョン? を見せてくるからヴィジョナ―か?』

『魔女の水晶玉、みたいに見えないこともないな』

『おれ、こういうの酔うからダメなんだよ』


 エモリスは得意げに言った。


「このぷにょちゃんさえいれば、今日のお天気や家の鍵がどこに行ったかも簡単にわかるようになるんですよ、すごくないですか? そのうえ、こんなにかわいいなんて……! まさに天が二物を与えたぷにょちゃん、それがこの子なんです!」


『へー』

『未来予知してくるとか強そうじゃん。敵の攻撃とかも筒抜けでしょ?』

『ほんとにそんな力があるなら一儲けできそう』

『金の匂いしてきたな』


「このヴィジョナ―ぷにょちゃん、ダンジョン下層のプリズムエリアにしか生息していない、かなり見つけにくい子なんですけど、運よく3日くらい石のふりしてじっとしてたら近寄ってきてくれました! 優しいですね!」


『また下層かよ!』

『しかも3日もそんなところに居続けるとかバケモンじゃん』

『ソロでそんなとこいけねーよ!』

『パーティ組んでても行けるか!』


「……まあ、そうは言ってもヴィジョナ―ぷにょちゃんの身体の中に映るヴィジョンは曖昧で、正確に知りたいことがわからなかったりしましたけど……それでも、ヴィジョナ―ぷにょちゃんを探し求める人は後を絶ちません」


『試したことあるのか』

『なんだ、このスライム、大したことないじゃん』


 そんなリスナーからのコメントにエモリスはむきになった。


「い、いえ、ヒントにはなるんですよ!? エモ―キンのときだって、このダンジョンのどこかにいるのはわかったんですから……今回のわたしみたく、何にも手掛かりがない場合はすっごく役に立つんです!」


『なに占ってもらうつもりなんだ?』

『明日のキッカ賞の1着2着占って‼ まじで! 命かかってんの!』

『俺んちのリ・モコンがどこにいったか占ってもらえる?』

『おれのおよめさんどこにいるかおしえて』


「……えー、ギャンブルの予想は……ヴィジョナ―ぷにょちゃんにはお願いしない方がいいですよ? はずれる未来しか映してくれないって聞きますし……。リ・モコンって大体、歯ブラシと一緒にあるっておばあちゃんの知恵袋で言ってました。あと、およめさんならきっとすぐそばにいますよ? わたしとか……えへへ、なんて……」


『は?』

『は?』

『……?』

『ごめんむり』

『スライム食ってる女の子はなぁ』

『くさそう』


「ぷにょちゃんを食べたりなんてしてませんよ! ……たまにしか。それも、が、学術的興味でやむにやまれず、です! ……て、そんなことはどうでもいいですね」


 気を取り直して、エモリスは神妙な顔になる。


「今日は、このヴィジョナ―ぷにょちゃんにわたしの探し物を占ってもらって、その能力のすごさを皆さんにご紹介しようという、そんな企画です。それで、さっそく占ってもらいたいのが『わたしのマネちゃんが今どこにいるか』という問題ですね」


『マネージャーいたんだっけ?』

『マネちゃんの居場所がわからないって、逃げられた?』


「リサさんがわたしから逃げるわけありません! きっと、何か事情があって私に連絡できなくなってるんです……もしかしたら、悪者に攫われて捕まっているのかも……! そう考えると、わたし、居ても立ってもいられなくて……!」


 熱弁しかけたエモリスだったが、すぐに我を取り戻す。


「……え、えーと、色々聞いて回ったりもしたんですけどギルドも教えてくれないし、考えてみたらわたし、リサさんの住んでるところも知らなかったり……もう、こうなったヴィジョナ―ぷにょちゃんに賭けるしかないんです」


『ギルドが教えてくれない?』

『それこそ冒険者ギルドに依頼して人探しとか定番だよな』

『ギルドが知らんふりしてる時点でヤバくね?』

『裏社会の人間とか反社のメンバーとか』

『……狂気の領域に繋がってると口封じされることはよくある』

『あ、あ、やばいやばい』

『……これ知らんほうがいいやつじゃ……』


「じゃ、早速ヴィジョナ―ぷにょちゃんに占ってもらいますね!」


 コメント欄のざわつきをよそに、エモリスはヴィジョナ―スライムに顔を近づける。

 自分の知りたいことを思い浮かべてヴィジョナ―スライムの中を覗き込むと、そこに答えが現れるという。エモリスはそれを配信で確かめようというのだ。


『エモリスちゃん、ストップストップ!』

『深淵を覗くとき深淵もまた覗いているのだ』

『これで狂気の領域とかヴィジョンに見えたら正気度がががが』

『やべえもん見て気が狂うかもしれんぞ!』


 一部のリスナーが不穏を感じて騒ぎ出した。

 エモリスは彼等を安心させるよう元気よく、


「皆さんも、ぷにょちゃんの中の水晶球に浮かんだヴィジョンをよく見ておいてくださいね! わたしだけじゃ見逃しちゃうところとかあるかもしれないので! 頼りにしてますよ!」


『おい! 巻き込むな!』

『ぎゃあああああああ』

『目ぇつぶれ!』

『窓に!窓に!』 


 エモリスはヴィジョナ―スライムを覗き込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る