第37話 底辺配信者さん、スーパーなんとか人みたいになる
「わたしが魔王軍の手先?」
エモリスは目を丸くした。
身に覚えのないことだったからだ。
「あの……わたし、魔王軍に入った覚えはないんですけど……」
エモリスはアドチューバー集団フェイタルスの男に言い返す。
細髭の男は陰気な眼差しでエモリスを見据えてきた。
「だが、魔王軍に協力してたよな? お前、前回の配信で、魔王軍の奴をデーモンから助け出して、さらに手下探しを手伝ってただろう?」
「あれは、デーモンに食べられかけている人がいたら普通助けますし、幼馴染のエモ―キンを探してただけですし……」
「そらみたことか! 尻尾を出しやがった」
「え?」
「魔王軍の手下になったスライム、あれはお前の幼馴染だって認めるんだな? やはりお前は魔王軍と関係があるじゃないか!」
「あれはエモ―キンの選択で、わたしはそれを尊重して、その、本当は一緒に村に帰ってほしかったですけど、ええと、とにかく、わたしと魔王軍自体は何の関係も……」
「そんな言い訳が通用するか! じゃあ、お前は幼馴染が悪の組織に入って人々を害するようになるのを止めもせず、見過ごしたってことだな。それは結局、悪の行いだ。やはり、俺達が裁かなきゃならない」
「エ、エモ―キンはそんな人を傷つけるようなことは絶対しません! たぶん……」
エモリスはエモ―キンへの厚い信頼感を正直に言った。
だが、細髭の男の心を打つことはできなかったようだ。
「そもそも、あんなモンスター風情が幼馴染だっていう時点でお前は胡散臭いんだ。スライムが身内とか頭がおかしいんじゃないか? 相手はただの経験値だぞ」
「ぷにょちゃん達はただのモンスターじゃありません! かわいくて愛らしい、わたし達の友達なんです!」
「ちっ、頭お花畑が……! モンスターなんて皆殺しでいいんだよ! スライムは特にな!」
「むきー!」
エモリスもヒートアップする。
『スライム敵視するとかこいつアンチか?』
『やべえ奴らに目をつけられたな』
『むきーって……』
『カチキレてる』
『落ち着いて』
『キッズチャンネル目指してるんでしょ!』
『やっちゃえ!』
『エモやんが本気出したらボッコボコやぞ!』
『おっさんわからせ、見てぇー』
リスナー達は諫めたり煽ったり。
と、フェイタルスの1人が上擦った声を上げた。
「お、おい、待ってくれヴァル! 今、そんなこと言い合ってる場合じゃないだろ!?」
そう横から口を挟んできたのは、弓使いらしき男だった。
腕を抑えている。
その抑えた手からは赤いものが滲んでいた。止まらないようだ。
「俺はこの様だし、ブレードとナイトがやられちまったんだぞ!? 回復役がやられちまったんだ! 俺、このままじゃ死んじまうよ……今すぐ、地上へ戻らなきゃ!」
「ちっ……俺1人で、どうやってブレードとナイトを運べってんだ、ウィス? お前、その腕じゃこいつらを運ぶのに役に立たないだろう?」
「だ、だからこそ、その女と言い合ってる場合じゃねえだろって言ってるんだ……」
弓使いはエモリスを窺うように視線を向けてきた。
「お、おい、お前! 助けろよ! どっちか一人、担げ」
「馬鹿言ってんじゃねえぞ、ウィス! 俺達が裁かなきゃならない悪人に助けを求めろってのか? お前、それは悪い行いだぞ!」
細髭の男は顔を歪め、エモリスも心外とばかりに頬を膨らませる。
「そんな勝手なこと言わないでください!」
『言ったれ言ったれ!』
『なにが、助けろよ! だ!』
『調子いいこと言ってんなって話よな』
「わたしみたいなか弱い女の子に、大人の男の人を担げるわけないでしょう!?」
『は?』
『そっち!?』
『か弱い?』
『面白いこと言うねぇ』
「あ、今、コメント書いた人達、みんなブロックです」
『は? は?』
『ごめんて』
『ごめんね(#^ω^)』
エモリスとリスナー達がやり合う。
そして、フェイタルスの男達もやり合っていた。
「ダメだ! 認められねえな。俺達は悪党を処するアドチューバ―なんだ。それが悪党と手を組んだりしたら炎上する。見ろ! もうコメント欄が荒れ始めたじゃねえか!」
「おい、冗談だろ!? こっちは生きるか死ぬかなのに、そんなリスナーの反応気にしてんのかよ!?」
「当たり前だ! これで登録者数が減ったら大損だろうが! ここはまず魔王軍の手先のこの女を捕まえる。そして、その様子を配信するのが最優先だ」
「ふざけやがって! 大体、ヴァル! あんたがこの女を追おうと言い出さなけりゃ、途中でワームに襲われることもなかったんだぞ……! こりゃ、あんたのせいじゃねえか! 責任取れよ責任!」
「そりゃ怪我したお前の自己責任だろ! 見ろ、俺は怪我していない。自分のミスを俺のせいにするな。逆に、フェイタルスの活動に支障をきたすような怪我を負うなんて、ウィス、怠慢だな。俺たちみんな、お前のせいで損害を被る羽目になる。賠償しろ賠償!」
「なにぃ!?」
『ふう、醜い醜い』
『おっさん同士の責任のなすりつけ合い、最高だな』
『こんな奴らほっとこうよ』
『こんぷにょー今来たんだけどどういう状況?』
『倒れてる人達死んじゃわない?』
コメント欄の8割程度がフェイタルスに反発するものだったが、中には心配するものもある。
それらを見て、エモリスは1つ深呼吸。
気持ちを落ち着かせた。
そして、まだ言い争っているフェイタルス達に声をかける。
「……あの、わたしまだギャルぷにょちゃんの配信続けたいんですけど、皆さんに手を貸した方がいいですか? それとも、余計なお世話です?」
「ああ、手を貸せ!」
弓使いが尊大に喚き、
「この期に及んでまだスライムなんかの配信だと!? 舐めやがって! お前はこれから罰を受けるんだよ!」
細髭は激高した。
エモリス、その剣幕に目を✖✖みたいにして腰も引ける。
その瞬間、細髭はエモリスの手からギャルスライムを奪い取っていた。
「あっ!?」
「こんなモンスター捨てて、かかってこいよ! 来い! ぶっ倒してやる!」
「やめてください! やめて!」
細髭はギャルスライムを大きく掲げ、今にも地面に叩きつけそう。
エモリスが必死に止めにかかる。
だが、そこで唐突な揺れが全てを襲った。
「うおっ!?」
細髭はよろけ、ギャルスライムごと転倒。
ゴロゴロと転がってしまう。
だが、それがよかった。
揺れが強まり、それまで細髭の立っていた地面に亀裂が走る。
そして、その亀裂を吹き飛ばして突き出して来たものが、
キチキチキチキチ
と軋みを上げる。
黒いボディにすり鉢の様な巨大な頭部。
「巨大ワーム! まだいたのかよ!?」
転がったことで難を逃れた細髭が喘ぐように叫ぶ。
その時、エモリスは見逃さなかった。
巨大ワームが飛び出してきたときの衝撃で飛び散った小さな石つぶてが、ぴょーんと飛んでギャルスライムの表面にぽよんと弾かれたことを。
「……っ!! よくもっ! ギャルぷにょちゃんに傷を……っ!」
エモリス、金色に輝き、怒髪天を突いた(画像はイメージです)。
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