底辺配信者さん、この世で最もかわいいスライムを配信してバズりたいのに

第36話 底辺配信者さん、ギャルを揉みしだく

「わ、わ、なんですか!?　なんで!?」

　巨大ワームがのたうちながら、突然標的を変え、エモリスへと襲いかかってくる。

　エモリスの手に抱えられギャルスライムの、ヤバ！　ヤベ！　という鳴き声。

　エモリスはぎゅっと手に力を込めた。

「だ、大丈夫ですよ？　ぷにょちゃんはわたしが守りますから……！」

　そして、不安定な体勢から、それでも呪文の詠唱に入る。

「どんな攻撃も当たらなければ……ヘイスト！」

　エモリスが唱えた呪文は加速の魔法。

　恐ろしいまでの速度で動き、敵の攻撃を軽く避けてしまう。

　それどころか相対的にのろまとなった相手に好き勝手に攻撃を加えることだってできる。

　エモリスのふくらはぎや太ももが漲り、どんっ、と跳んだ。

　一瞬でその場から消える。

　巨大ワームの体毎突っ込んでくる咢は空を切った。

「ヘイストがかかった今のわたしなら、どんな攻撃も当たりません！　だから帰ってくれます？」

　巨大ワームの背面側にびゅんびゅんジャンプしながら、そう話しかけるエモリス。

　ギャルスライムを抱えたままで手がふさがっており、今にも転びそうなのに転ばない。ヘイストによって強化されたのか、体幹もすごかった。

　コメント欄が称賛の声で溢れる。

『すげぇ』

『ヘイ……スト……？』

『ジャンプ力すげえ』

『普通に脚力よな』

『またこのパターン』

『ソーサラーが魔法使えるわけないだろ！』

『高度に発達したフィジカルは瞬間移動と見分けがつかない』

　獲物を見失った巨大ワームはキチキチと節目を鳴らした。

　鎌首をもたげる。

　逃げた相手を見つけ出そうと、周囲を見回すかのよう。

　だが、エモリスはギャルスライムをぎゅっと抱えて岩陰に隠れている。

　キラキラ光る結晶の中、その姿は捉えづらい。

　諦めたのか。

　巨大ワームは大きくしなると地面に齧りつき、凄まじい速さで地を穿ちだす。

　地鳴りと軋みの音を撒き散らしながら、巨大ワームはすぐに地の底へと消えていった。

「……ほんとに帰ってくれた……？」

　岩陰から顔をのぞかせて、エモリスは呟く。

「……ふぅ、いやあ、ヘイストの効果が切れてしまっていたので、帰ってくれて助かりました！」

『話の分かる奴だ』

『いや、このヘイストに効果切れあるの？』

『むしろ無限にかかったままだろ』

『魔法使えてる風に装うな』

『巨大ワームとかぶっ倒しちゃえばいいのに』

　そんなコメント欄の一部の指摘は無視して、一部にだけ反応するエモリス。

「あの、このチャンネルはキッズチャンネル目指してるんで暴力はNGなんです。それに今回はこの子を守るのが最優先ですから、戦わずに済んだならそれが最善なんですよ」

　と、手に抱えたギャルスライムを撫でてみせるエモリス。

　ギャルスライムは体内のピンクや青の組織を白い液体の中でたゆたわせて、カラフルな色合いを際立たせている。

『暴力はNG（使わないとは言っていない）』

『キッズチャンネルとは……』

『ギャルスライムって子供の好きそうなカラフルさではあるよな』

『なんかこういう子供のおもちゃありそう』

「あ、もしかして、ギャルぷにょちゃんの身体のこと、気になっちゃいました？　ギャルぷにょちゃんの中には前向きさとかフレンドリーさのエキスが詰まっていて、それがこんな綺麗な体を形作っていると言われているんですよ！　素敵ですね」

『ギャルの身体狙ってるみたいな言い方止めて』

『フレンドリーなエキスってなに？』

『なるほど、子供への受け狙いでギャルスライムを取り上げたのか』

『商品化いけるでこれは』

「それにギャルぷにょちゃんの身体はぷにぷにしていて揉み心地もいいんですよ！」

　言いながら、揉んでみせる。

「ああ～……ボリュームもあって、いくらでもモミモミしてられますね～。一説によると、ギャルぷにょちゃんの感触は時速60キロで走るテラーバードから手を出したときの風の感触と同じだと言われてるんです。テラーバードに乗ったことないんでわかりませんが、風を感じますね！」

『それ、おっぱ……』

『ギャルの揉み心地、アウト』

『その情報必要？』

『ていうかそんなこといってる場合か』

『さっき怪我人おったやろ』

　リスナー達にコメントされて、ようやくエモリスもはっとする。

「そ、そうですね。さっきまでワームに襲われていた冒険者さん達が……」

　キョロキョロと見まわし、少し離れた所に4人の冒険者の一団を見つける。内2人は横たわっていて、動きがない。

　ちょっと気後れしつつ、エモリスは彼等に近付き、

「あの、大丈夫ですか？　わたし、狩りの邪魔をしたんじゃなければいいんですけど……」

　冒険者達の内の細髭の男が、暗い目をエモリスに向けてきた。

「……お前、エモリス・サマーだな？」

「あ、はい……もしかして、どこかでお会いしたことありましたっけ……？」

「ない。だが、お前の所業は知っている」

「？　どういうことでしょう？」

　細髭の男は口元を歪ませて笑う。

「……ある意味同業者だからな。俺達は正義のアドチューバ―、フェイタルスだ。賞金稼ぎ、正義の執行人、法の及ばぬ悪党に鉄槌を下すアウトロー集団……いろいろ言われてるが……。この様子もライブ配信されている」

「そうなんですか？　えーっと、じゃあ、これは突発コラボみたいな感じですね」

「……ああ、そうなるな。する側とされる側、両方の立場で配信されているわけだ」

「する側とされる側？　ええと、どういう意味です？」

「お前の前回の配信、見させてもらった」

「え、わたしのリスナーさんなんですか？　そ、それはそれは、みてくださってありがとうございま……」

　細髭の男の冷たい声が遮る。

「お前、魔王軍の手先だってな？　裁きが必要だ。俺達についてきてもらおう。おとなしく従うなら良し、さもなければ……」

　細髭の男は黒い刀身の剣を抜き、エモリスにつきつけてきた。