第35話 底辺配信者さん、ギャルにピースする
「みなさん、こんぷにょ~! 今日も始まりました、みなさんにかわいいをお届けする癒しの配信、ぷにょちゃんねるです」
エモリスは冒険者カードに向かって、どーもどーも、と手を振る。
「今日はここ、ダンジョン中層ファッション・リフトエリアからお届けしま~す!」
ぽつぽつとコメント欄が動き始めた。
『こんぷにょ~』
『こん』
『元気?』
『前回あんなことがあったのに』
『幼馴染のこと引き摺らない?』
「あ、みなさん、心配してくれてるんですね? 大丈夫ですよ~? ああいう形にはなっちゃいましたけど……ずっと会えないってわけじゃない、と思いますし」
『魔王軍になっちゃったけど』
『敵じゃん』
『前回の配信、王国で問題になってる』
『エモリスちゃんも疑われてない?』
「ああ~、魔王軍……ですけど……考えてみれば、エモ―キンもメリッサさんと一緒にいれば元気でやっていけると思うんですよね」
エモリスはコメント欄に答える形で語り出す。
「……エモ―キンもダンジョンで1人で頑張るより、仲間がいればきっともっと安全じゃないですか? メリッサさん、頼りになりますし。なら今回、一緒になれて良かったなって。エモ―キンが無事なら、それで……それが一番大事ですから!」
『これは負けヒロイン』
『幼馴染取られたみたいなもんなのに』
『強く生きて』
『魔王軍と一緒でよかったって不謹慎だ失言だいう奴出るぞ』
『炎上案件』
『魔王軍関係者特定して私人逮捕してる奴等おるから気をつけろ』
「……あ、すみません! みなさんはこんな話を聞きに来たんじゃないですよね? みんな、愛くるしいぷにょちゃんを見たくてこのチャンネルに来てくれたんですもんね? わたしの話とか事情とか聞いても面白くないでしょう? さあ、今日もぷにょちゃんを紹介していきますよー!」
エモリスは気を取り直して、声を出す。
「今回、第4回ぷにょちゃん図鑑でご紹介するのは~? ここがダンジョン中層のファッション・リフトエリアってことでもうバレバレですね? そう! みなさんご存じの!」
『いや知らんがな』
エモリスはそう言いながら、冒険者カードに付近の光景を映し出す。
光り輝く結晶やキラキラした粒子が満ちた洞窟。
そのせいで明るい光が広がる空間だ。
あちこちに大小さまざまな鏡が配置された迷宮。
どこからかアップテンポなリズムが流れてきている。
そして、それらの中でカラフルな流動体が伸縮自在、踊るように動いていた。
「こちら! ギャルぷにょちゃんのみんなでーす! こんにちは~!」
エモリスがカラフルな流動体にピースをきめる。
と、そのカラフルな流動体──ギャルスライムは口々に鳴き声を上げ始めた。
カワ! カワイイ! ヤベ! カワ!
などなどの甲高い声。
エモリスのピースポーズに対して、とてもフレンドリーだ。
そして、その反応を見てエモリスはうっとり。
「ああ~! どうです!? この子達、めちゃくちゃかわいいでしょう!? このギャルぷにょちゃんたちは、ここファッション・リフトで日々おしゃれしてポーズ決めたり迷宮の鏡を利用して自分達のおしゃれを確認したり、とにかくかわいさを追求する職人なんですよ!」
そうやって紹介されたギャルスライム達はみな、ピンクや青、緑などの明るい色合いをしている。目に鮮やかだ。
その体表には小さな星型やハート型のキラキラしたアクセサリーが浮かんでいた。
それらが光を受けて反射する。一体一体、模様は異なるようだ。
更に、ギャルスライム達は着飾ってもいる。
体表上部には、どこから入手したのか、大きなリボンやカジュアルなバンダナが飾られていた。それぞれが自慢のファッションアイテムなのだろう。
また、多くのギャルスライムの表面にはスマートフォンの形をした模様も浮かんでいる。
古代の学術書では、これはギャルスライム達のコミュニケーションや情報収集への興味を象徴しているとされていたが、現在、このスマートフォンというのがなにを意味しているのか不明である。
ギャルスライムの姿を目にしたリスナー達はなにか記憶を刺激されたのか。
『……これはもしかして俺達に優しいスライム……?』
『ええやん』
『こんなギャルスライムと学校できゃっきゃしてたい人生だった……』
『ギャルに幻想見過ぎ本物のギャルはこんな……』
『↑今そんな話してねーから』
「はい! というわけで今日はこのギャルぷにょちゃんのかわいい生態をみなさんにお伝えしていこうと……」
ドーン!
エモリスが言いかけるのと、ダンジョン内が崩壊する轟音が響くのはほぼ同時だった。
カワ! ヤバ!
と悲鳴を上げるギャルスライム達。
エモリスは近くのギャルスライムを庇いながらあたふたと、
「な、なんですか!?」
「ぎゃああああ!」
「助けてくれええ!」
「ダンジョン破壊とか犯罪やぞ!? 警察! 警察!」
崩壊した壁面から、冒険者達が数人転がり落ちてくる。
どうやら近接するエリアから、ダンジョンの壁面にできた穴を抜けて逃げてきたらしい。
そして、そのダンジョンの壁をぶち抜いた張本人が、
キチキチキチキチ。
と、耳障りな擦過音を立てて、ずるりと蠢いている。
それは巨大なワームだった。
長虫、這いずるもの、大ミミズ。
そのように呼称される魔獣。
黒々とした体は鋼のよう。
むっとするような腐った土の匂い。
広大で堅牢なダンジョンですら、己が庭の如く食い荒らし、移動する。
その巨大ワームが今、不運な冒険者達を追ってギャルスライムの生息地をも食い荒らさんと姿を現していた。
「くそうくそう! なんでこんなことに……!」
「女一人捕まえるだけじゃなかったのかよ!? 血が止まらねえ……っ!」
壁面から逃げてきた冒険者達数名が喚き散らしている。
何人かは、倒れ込んだままピクリともしない、重篤な状態のようだ。
巨大ワームはすり鉢の様な咢をもたげ、そして。
逃げ遅れたギャルスライムを抱えて立つ、エモリスへと覆いかぶさってきた。
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