第28話 底辺配信者さん、腹パン有資格者だった
「みなさん、こんぷにょ~! 今日も始まりました、みなさんにかわいいをお届けする癒しの配信、ぷにょちゃんねるです。今日はここ、ダンジョン下層深淵エリアの血の簒奪場からお届けしま~す!」
エモリスは冒険者カードに向かって、明るい声で話しかける。
浮き立つ心が抑えられない様子だ。
「いぇーい! 見えてます~?」
そう言ってWピース決める始末。
エモリスの背後に映る、荒涼とした光景とはそぐわないウキウキ具合といえる。
『こんぷにょー!』
『待ってた』
『テンションたっか』
『今日もBANされるの期待してます』
『ちょっと待って!? 深淵エリア!?』
『デーモンの巣じゃん』
『死ぬ気か』
リスナーからのコメントが流れ始めた。
エモリスの身を心配するコメントが増え始める、
『ただでさえ首刎ねてくるデーモンとか強いのにそんなのがあとからあとから生えてくるみたいな場所だろ?』
『そこをソロで行くのは無謀』
『デーモンの群れに見つかる前に帰れ!』
『手ごわい割に実入りが少なくて行くだけ損なんだよな』
『そこで死んだ経験から言わせてもらうと死ぬ場所ちゃんと考えて』
だが、エモリスはそんなリスナーからの声を目にしても、気を引き締めるでも怯えるでもなく上機嫌のまま。
「『金食い虫』さん、ご忠告ありがとうございます! でも、もう見つかっちゃったんですよね、てへへ……。『46号』さんもありがとうございます! はい、死ぬときは気をつけまーす」
『え?』
『てへへ、で済むかぁ!』
『もうデーモンに見つかってんの!?』
『これ死んだわ』
『あーあ』
「あ、大丈夫ですよ? もう終わりましたから」
と、エモリスが冒険者カードを傾ける。
血の簒奪場のひび割れた大地に累々と転がるデーモン達の残骸が映し出された。
そのどれもが、強烈な打撃にひしゃげており、手足があるものはそれらがあらざる方向へ折れ曲がっている。
多種多様なデーモン達の残骸見本市のようだ。
『ひぇ……』
『そういやエモリスちゃんはこうだったな』
『前回の影人館のときはオバケ相手にキャーキャー言ってたから騙された』
『殺戮ゴリラやんけ』
『どしたん? デーモンに親でも殺されたん?』
惨状に若干引き気味のリスナー達。
一方、エモリスは頭を撫でられるのを待つ犬みたいな笑顔だ。
「わたしの大事な配信の邪魔をしてくるので先にお掃除しておきました!」
『お掃除できて偉い!』
『デーモンの群れを掃除とかマジで偉いよ、つーか怖ぇ』
『しばらくしたらまた生えてくるからお掃除は永遠に終わらない』
『ここまでして配信するのがまたスライムなの……?』
「はい、というわけで! 今日の第3回ぷにょちゃん図鑑配信でみなさんにご紹介する予定なのは~~~~?」
と、エモリス、首を傾げて一旦溜め。
リスナーからの反応を見る。
『血の簒奪場みたいな干からびて火の勢いの強いところにスライムなかなかおらんやろ』
『なのは~~~~?』
『ああ、あれね、知ってる知ってる』
『いいからはよ』
「~~~じゃーん! これまでわたしがずっと探し求めていた七色に発光するぷにょちゃん! です!」
『ああ』
『前の配信でも探してるって言ってた例の』
『新種だっけ?』
『ついに見つけたんか』
「……といっても、まだ見つけてはいないんですけど。でも、ここにいるという情報は掴んでいますし、なんなら大声を出して呼べばきっとすぐに来てくれます。だってわたしの大切な……」
そこまで言いかけたエモリスを遮るように、地響きが鳴った。
「え……? この気配……巨大な何かがこちらに向かって……もしかすると、あの子、わたしのことに気付いたんじゃ……!?」
地面を揺らすような音が更に大きくなってきたかと思うと、
ドーン!
とばかりに灰色の肉塊がデーモン達の残骸を蹴散らして姿を現す。
その肉塊には無数の腕が生えていて、中心の巨大な口の周りには無数の小さな口が穿たれていた。
「……あ……ぷにょちゃんじゃないですね……デーモンです」
エモリスはその肉塊を前にして、気落ちしたように声を落とす。
『でけぇ!?』
『これ知ってるなんでも丸のみにするデーモンだ』
『ぶよぶよしてくさそう』
『なんか誰かすでに食われてね?』
見れば、口の1つに上半身を飲み込まれ下半身だけが外に突き出ている人影があった。
エモリスもそれを見逃さない。
「大変……! 早く助け出さないと全身食べられちゃう……!」
『人の心配より自分が食われることを』
『まだ間に合うか!?』
『やべえ半分消化されてグロくなってるんじゃ』
灰色の肉塊から伸びた無数の腕がエモリスに掴みかかる。
その全てをひょいひょいと躱し、
「その人、返して!」
エモリスは腹に一撃を食らわせた。
どこが腹かは素人目には判断できないが、一級の腹パン検定資格保持者なら可能な技と言える。
丸のみデーモンの全ての口が、ゲッ、と開き、中身を吐き出した。
吐しゃ物や溶けかけたハンバーガーやタイヤに混じって上半身唾液でひたひたの女の子が落ちてきた。
それを見て、エモリスの目が丸くなる。
「あれ? メリッサさん?」
クモの女神に仕える神官の少女は、ぐったりしていた。
唾液に塗れた上半身の僧服部分がぴったりと身体に張り付いて、そのシルエットをあからさまにしている。
『エロ要素キタァァァ!』
『ほう、今回のBAN対象はこの子ですか。大したものですね』
『濡れさせることができるということは透けさせることもできる、ということだ』
『服だけ溶かす唾液はよ!』
『TKB!』
コメント欄の一部が盛り上がりはじめる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます