第27話 底辺配信者さん、ガチャ切りされる
長年探し続けていた相手。
その姿を見かけた者がいるという話に、エモリスは食いついた。
「そ、それは本当ですか、リサさん!? 深淵エリアで?」
『そう。ダンジョンの下層階層だね』
「じゃ、じゃあそこに行けば会える……!」
『ちょ、ちょっと落ち着いて、エモリスちゃん』
「で、でも、そこにいることは確かなんでしょう? だったら、すぐにでも探しに行かないと……!」
今にも飛び出しそうな勢いだ。
たった今ダンジョンから帰宅したばかりだというのに、エモリスは意気込んでいる。
ベッドの上で、キララが巻き込まれては迷惑とばかりににゃあと鳴いた。
『だから落ち着いてって! 下層の深淵エリアっていっても結構広大な範囲だよ? 闇雲に探し回っても時間と労力がかかるだけだって!』
「それはそうですけど、ではどうしたら……」
『えへん、そこは安心してほしいな。敏腕マネージャーの私がその発見場所の詳細を聞き出してないとでも思う?』
「え? あの子の居場所、わかってるんですか?」
『もちろん!』
「なんだ、よかった……!」
『でも約束して? 今日はもう休んで、探しに行くのは明日以降にするって』
「え……わたしとしてはすぐにでも行きたいんですけど……」
『だーめ! 配信者の健康管理も私の大事な仕事なの。エモリスちゃんに休みもなく無理な配信させてトラブルでも起きたら大変! だから約束! 今日はもう休む。それ約束しないと居場所は教えてあげられないかな』
「う……」
一瞬言葉に詰まるエモリス。
だが、すぐに息を吐いた。
「……わ、わかりました。約束します」
『オッケー! エモリスちゃん、話をちゃんと聞いてくれるから大好き』
「え、あ、す、好き……ですか? 嬉しいけど、困っちゃいますね……わたしのこと好きな人だんだん増えてきちゃって……」
『じゃあ、七色発光ぷにょちゃんの発見の詳細を教えるね?』
「あれ? スルー……?」
『えーと……モンスター凶暴化の原因調査を請け負った冒険者グループの報告書によると……深淵エリアの中でも血の簒奪場と呼ばれるフィールドで七色に発光するぷにょちゃんに遭遇したそうよ』
「血の簒奪場……?」
エモリスは首を捻る。
記憶を辿っているらしい。
「……そこって確か……炎があちこちで燃えてる、硫黄くさい荒野みたいな場所ですよね」
『そうみたいだね。デーモン達のテリトリーでデーモン同士がその力と支配地域を競い合っている、殺伐とした場所……ってところみたい』
「そんなところ……ぷにょちゃんの生息にはあまり適さないはずなのにどうして……?」
『その理由までは報告書には書かれていないわね。なにしろその冒険者グループ、凶暴化したデーモンの集団に追われている途中で七色発光ぷにょちゃんを見かけただけみたいだから……っていうか、凶暴化したデーモンって……凶暴じゃないデーモンなんていないでしょうに』
通信で伝わってくるリサの声に呆れの様なものが感じられた。
「……それにしても、その冒険者達はどうして血の簒奪場なんて不毛な場所へ……?」
『ここ最近、首攫いデーモンが深淵エリアから出てきたりとかモンスターが凶暴化しているとか、ダンジョン内で異変が起きてるでしょ? 冒険者ギルドもそれらを問題視してて、その調査に腕利きのパーティを何組も各所へ派遣してるらしいの。で、そのうちの一組が深淵エリアに送られて、七色発光ぷにょちゃんを見つけたってわけ』
「なるほど……そうだったんですね」
『まあ、エモリスちゃんの実力なら血の簒奪場だってソロで行けるだろうけど』
エモリスが首攫いデーモンを屠った配信を生で見ていたリサには、エモリスに対する謎の信頼がある。
「いえいえ、そんな……わたし、そこまでじゃ……」
『あれ? じゃあ、行かないの? 血の簒奪場?』
「行きます」
迷いのない声。
エモリスは即答していた。
『それでこそエモリスちゃんだよ。じゃあ、次の配信はこれで決まり、と。注目度上がってるから頑張ってね!』
「注目度? そんなにわたし、その、期待されてますか?」
『そりゃそうだよ。連続BANされたあとの配信だし……次は何をしでかすだろうってみんな思ってるもの。そこに、デーモンの巣窟に住む新種のぷにょちゃんを第3回ぷにょちゃん図鑑配信のメインとして持ってくる……。結構真面目な内容で、かつ危険な冒険に挑むエンターテインメントとしてうけそうじゃない?』
「そ、そうですかね」
『うんうん、人気でちゃうよ~。ガチ恋勢も増えるだろうね!』
「え、ええ? またわたしのこと好きな人が増えちゃうんですか? 困ります……」
『あ、でも、さっきも言ったように、今日はもうしっかり休んでよ? 万全な状態で、七色発光ぷにょちゃんを捕まえに行ってね?』
「? 捕まえる?」
『うん? なに? どうしたの?』
「いえ、わたし、捕まえに行くんじゃないですよ。迎えに行くっていう方が……」
その時、リサのいる場所でなにか起こったようだった。
がちゃん、となにかが割れる音や、ドンドンとなにかを叩く音が紛れ込んでくる。
「? どうしました? 大丈夫ですか、リサさん?」
『うん、あ、エモリスちゃん、ちょっと待ってて……なに? なにかあったの?<……ガサ入れですわ! お気をつけあそばせ……!>』
「え? リサさん?」
『ごめん! エモリスちゃん! 急用が入っちゃった! じゃ、そういうことで!<……全員その場で動くな!……>』
リサからの通信は唐突に途切れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます