第26話 底辺配信者さん、探していた手がかりを手に入れる

 エモリスの配信がBANされた後のこと。

 エモリスはキララと共に影人館から自室へと帰還した。

 疲労困憊といった態だ。


「……はあ……今日は大変だったね、キララ。おばけとか……おっぱいとか……」


 にゃん、と応えてキララはベッドに飛び上がる。そして、早速ゴロリと大の字。


「くつろぎすぎだよ、キララ。……ふああ、わたしも横に……」


 と、軽やかな着信音。

 目を擦りながら、エモリスは冒険者カードを取り出した。

 通信ボタンを操作すると、明るい声が流れ出す。


『はーい、エモリスちゃん、聞こえる?』

「あ、リサさん」

『そう、いずれエモリスちゃんをトップの超人気配信者へと育ててあげる敏腕マネージャー、リサだよ』


 自称エモリスのマネージャーであるリサからの通信だった。


「どうしたんですか? ……あ、今回の配信のことで、その……もしかしてわたし怒られちゃいますか……?」


 BANについてお説教されると思ったエモリス、小声になる。


『ああ! いやあ、そうだねー。エモリスちゃんの配信、またBANされてアーカイブ非公開になっちゃったねえ』

「うう……あんな怖い目に遭っても一生懸命配信したのに……オバケは嫌だって……」

『レネがことある毎に脱いじゃうからしかたないね』

「レネさんも好きで脱いだわけじゃないんですよ! 戦闘中に起こった不幸な事故みたいなものなんですから、それでBANって厳しすぎませんか?」

『BANの基準って冒険者ギルド運営のお気持ち次第なところあるから。今回の件、下手したらアーカイブ非公開だけじゃ済まないで、アカウント停止だってあったかもよ?』

「ええ!? 配信できなくなっちゃうかもしれないってことですか?」

『だってエモリスちゃんのチャンネル、前にも配信中にBANされたチャンネルだし運営も警戒して見張ってたと思うのよね。なのに、今回もまた服を脱いで肌色を多く見せたりしたから……』

「そ、そんな……! わたし、ぷにょチャンネルが配信できなくなったら困ります……」

『ま、そこはこの敏腕マネージャーが卓越した政治力を発揮して守ってあげるけどね! エモリスちゃんをビッグにするためだもの。こんなことでアカ停になんかさせないから!』


 リサの意気込んだ声は実に頼もしい。

 エモリスは少し気が楽になった。


『それにしても、レネもかわいそうよね』

「レネさん……またしてもあんなエッチな格好をさせられるなんて……」

『そんなキャラじゃなかったのに、エモリスちゃんと付き合いだしてからだものねえ。本当にかわいそう』

「え? あれ? それって、あの、わたしですか? 元凶?」

『レネはマスターズでの配信では一度だって脱いだことなかったのよ』


 清楚枠だったのに。

 なんだかそう言われると、エモリスは自分が原因の様な気がしてきた。

 わたしと関わったりしなければ、あんな目に遭うことはなかった……? と自責の念が湧く。

 

「……となると……も、もうわたしレネさんとコラボしてもらえないですかね……? わたし、嫌われちゃいました……?」

『ううん、レネからのコラボのお誘いはまた来てる』

「ほんとですか!」

『でも、こっちから断っておいてあげたから安心して』

「なんでですか!?」

『いや、何度も同じ相手とコラボしているとすぐ飽きられちゃうから。レネとコラボの時はポロリがある……! っていう期待感をリスナーに持たせ続けるためには、安売りしちゃいけないわ。エッチな配信はしばらく封印しておきましょう?』

「……そもそもそんなエッチな配信なんて最初からやろうと思ってないんですけど……」


 別にポロリしようと思ってしているわけではない。

 なのに、そんな言われようは心外だ、

 そんな思いが、エモリスの口から洩れて出た。

 それに対するリサの反応は、


『またまた~』


 肘があったらその場でツンツン、脇腹辺りをつついて来そうな調子。


『本当はこうなること期待してたんじゃないの? またエッチなシーンが見られるかも、ってリスナー数はどんどん増えてるんだから』

「いえ、ほんとにエッチなのは目指してませんけれど? ぷにょチャンネルはお子様も見られる健全なキッズチャンネル目指してるんですよ」

『お子様向けに服を溶かしたり催眠かけてくるぷにょちゃんを配信するなんて、それこそ性癖を歪めちゃうわ。ぷにょちゃんを配信のメインに持ってきてる時点で子供向けじゃないのよね』

「なんでです!? ぷにょちゃん、かわいいじゃないですか! お子達にも大人気間違いなしですよ!」

『でもねえ? 実際、レネが剝かれたりして、ぷにょチャンネルはそういう配信だっていうイメージついちゃったから』

「そんなぁ……じゃ、じゃあ、そんなイメージ払拭しなくちゃ! それこそまたレネさんとコラボして健全なぷにょちゃん配信をしましょう! 今度は決してポロリしたりしない真面目なやつを!」

『それフラグ?』

「違いますよ!」

『そう言っておいて即ポロリするんでしょう? オッケーオッケー理解理解♪』

「違うのに……」

『まあ、レネの方だってしばらく間を置いた方がいいことくらい理解してるだろうから、コラボについてはまた日を置いて検討することで話はついてるの』

「……そうなんですか」


 少なくとも、レネはまたコラボを希望してくれているらしい。

 ということは、レネに呆れられたり嫌われたりはしていないのだろう。

 そう思って、エモリスは気を取り直す。


『それと今回の配信で、クモの女神の神官と出会ったでしょう?』

「はい、メリッサさんのことですね」

『そう。アンデッドぷにょちゃんを封印球に封印してくれた彼女』

「お世話になりました……メリッサさんがいなかったらわたし達どうなっていたことか」

『そのメリッサなんだけど、どうも冒険者ギルドの冒険者じゃなかったみたい』

「ん……? ダンジョンに潜っているのに冒険者じゃないんですか?」

『少なくとも、冒険者ギルドに登録されてはいなかった。ギルドの許可も得ず、勝手に入り込んだモグリの冒険者かあるいは……』

「メリッサさんは仕事でアンデッドぷにょちゃんを捕獲しに来た……みたいなことを言ってましたし、ぷにょちゃんの生態にもとても詳しかったです。きっとぷにょちゃんを調査する研究者とか学者だったんじゃないでしょうか」

『研究者や学者が単身ダンジョンの奥深くまで潜って無事でいられる技量を持っていられるかしら? あれだけの力を持っていて、しかも冒険者ではないとすると、王国とか神殿とかの大きな組織に属している実力者ってところだと思うわ』

「はあ……そうなんですか?」

『ちょっときな臭い相手みたいだから、もし今度どこかで会っても関わりを持つのはやめた方がいいわよ』

「? どうしてです?」

『彼女が闇ギルドとか盗賊ギルドみたいな後ろ暗い連中の仲間だったりしたら、炎上案件だから! エモリスちゃんがトップ配信者になる気なら法に反する奴等からは少しでも遠ざかっていた方がいい』

「……でも、メリッサさん、わたしのこと好きみたいですし……メリッサさんの方からわたしに会いに来てくれたのなら、遠ざけることもできないですよ」

『まあ、一応警戒しておいて、ってこと。マネージャーとしてエモリスちゃんに悪い虫がつかないよう気を遣うのは当然だから』

「ええと……ふぁ……そんな悪い人じゃないと思うんですけれど……」


 エモリス、ちょっと眠くなってきた。


『マネージャーの忠告は聞いておくべきだよ、エモリスちゃん』

「わかりました。またお会いすることがあれば気をつけます。ご忠告ありがとうございました。それじゃ……」

『待って待って! 一番大事なことまだ伝えてないから!』

「あ、他にも何か用件があったんですね」

『そうだよ? エモリスちゃんにとって、きっとすごく興味の湧く情報!』

「ええー? なんでしょう?」

『私の特別なプロデュース力で掴んできたとっておきのネタだよ! エモリスちゃん、前に七色に発光するぷにょちゃんを探してるって言ってたよね?』

「はい、配信でも情報提供をお願いしたことありますけど、まだ反響は無くて……」

『そのぷにょちゃんのダンジョン内での目撃情報が入ってきたんだよ! 下層の深淵エリアで見かけた人がいるって』

「えっ!」


 エモリスは目を見開いた。

 眠気も吹き飛ぶ。

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