第12話 底辺配信者さん、コラボ相手にエッチな配信をする子だと思われた後、気に入られる
「あ、あ! ま、待ってください! その子、わたしの仲間なんです!」
問答無用でキララを斬られては堪らない。
エモリスは必死な声をあげる。
「殺さないでぇ!」
「え? 君、今、このファットキャットに襲われて悲鳴を上げてなかった?」
剣士レネは面食らったようだ。
キララから目を離し、エモリスに顔を向けてきた。
レネに見つめられて、エモリスは口をモゴモゴ。
「お、襲われていたというか怒られていたというか……と、とにかくキララは敵じゃないんで、斬らないであげてください!」
「そうなの? てっきり、魔獣に苦戦しているのだとばかり……」
そこで、レネははっとした。
「あ! 女の子が魔獣に襲われてるっていうこの状況……君、エモリスちゃんもアドチューバ―だって言ってたよね……?」
「はい、そうですけど」
その答えを聞いて、レネは頬を赤らめた。
「じゃ、じゃあ、もしかしてこれ、そういう配信だったりする……? あたし、邪魔しちゃった……?」
「はい? そういう配信って、なんのことですか?」
「その……チーム不徳の子達がやってるような配信のことだけど……ご、ごめんね? あたし、ほんとにダンジョンでそういうことするアドチューバ―ってこれまで実際に会ったことなくて勘違いしちゃって……」
「チーム不徳……?」
その名について、エモリスには聞き覚えがない。
冒険者のパーティ名だろうか。
配信している、ということはアドチューバ―か。
「でも、君みたいな子が本当に……そうか、そういうのもありだよね」
「んん……?」
レネの言い方に、エモリスは首を傾げる。
「えーと、その人達とわたしの配信って似てるんですか? チーム不徳の配信ってどんな配信なんです?」
「その、え、エッチな配信……?」
「わたし違いますがっ!?」
思いもよらぬ疑いをかけられ、エモリスは大きな声を出してしまう。
だが、レネはどこかエモリスから目を逸らしつつ、けれどチラチラ見ずにはいられない感じ。
「え、いや、いいと思うよ? あたし、そういうの気にしないしエモリスちゃんかわいいし」
「わた、かわ……っ!?」
「ただ……気をつけないとエッチな配信はすぐ冒険者ギルドからBANされちゃうから……エモリスちゃん消されたらもったいないなとは思う……」
「ちょー!? ちょっと待ってください!? わたし、ぷにょちゃんを愛でる配信していただけですよ!? それのどこがエッチな配信なんです!?」
「だって、わざとこのファットキャットに襲われて、エッチな目に遭う配信をしてたんじゃないの? 服が溶けちゃうとか裸になるとか言ってたよね?」
「そ、それは、キララがじゃれついていただけで……そういう絵面を狙っていたわけじゃ……」
そう聞いて、レネはなにか納得したように頷いた。
「うん、まさにそれ。チーム不徳の女の子達がいつも言っていることだよ。狙ってやってたわけじゃないって」
「ええ……?」
「チーム不徳の子達も、自分達の不徳の致すところで、なんでかいつもこんな目に遭っちゃいますけどわざとじゃないんです、って釈明してるから。やらかした後にね」
「……その人達は一体なにをメインに配信してるんですか……」
「普通の冒険の様子。生配信だよ。でも、その子達の誰かが極端に不運らしくて、冒険に出ると必ず触手ローパーとか催眠イビルアイに遭遇してるんだよね。で、負けて縛られたり変な気持ちにさせられちゃったり……そういうMPHが彼女たちチーム不徳の人気の秘密だって言われてる」
「わたしは本当にそういうのじゃ……ていうか、MPHってなんですか」
「PHはプレイヤーによるエッチな配信の略で、即BAN対象の重罪なのはわかる?」
「PH……
「そう、どっちも重罪なのは一緒だからね。プレイヤー……つまり冒険者のことだけど、そのプレイヤーが自分からスカートめくったり胸の谷間を強調したりとか、そういうエッチな内容を配信すると、冒険者ギルドからセンシティブ判定喰らってすぐBANされちゃう。
「そ、そんな配信もあるんですか……」
「チーム不徳のMPHは自分達でモンスターつれてきて自分達でエッチな目に遭うからまだ許されてるところもあるけれど、質の悪いアドチューバ―は見ず知らずの女の子冒険者がいるところにモンスターを引っ張ってきて襲わせて、その様子を配信するの。これはよくないよね! そういうのはあたし、かわいそうすぎてちょっと……」
「レネさん、詳しいんですね」
さすがマスターズだ。最大手のアドチューバ―集団の一員として、他のアドチューバー達の事情にも詳しい。
そう思ったエモリスは素直に感心する。
だが、そのレネは喉を詰まらせたように変な声をあげた。
「い、いやぁ!? あたしもよくしらないけど! ぜ、全然、チーム不徳の配信とか見たことないし!」
咳き込む。
「だ、大丈夫ですか?」
「ご、ごめん、変なとこ入っちゃった……。と、とにかく、MPHを装ってエッチな配信する子もいるから……いや、見たことないからよくしらないけど、いるかもしれないから! エモリスちゃんもてっきりそういうのかと……」
「そんなことしません! わたしはぷにょちゃんのかわいさをみんなに知って欲しくて配信してるだけですし……。わたしのリスナーさんだってぷにょちゃんを見て癒されたくて見に来てくれてる人ばかりです! 誰もわたしなんかをエッチ目的で見る人なんかいません! ね! そうですよね、リスナーさん達?」
エモリスはコメント欄に同意を求める。
コメントが流れていく。
『……』
『……』
『うん』
『そうだよ』
『そのとおりです』
『えっちなのはよくないみないうそつかない』
そのコメントを見て、エモリスはご満悦。
コメント欄が流れている自分の冒険者カードをレネに差し向けた。
「どうです? リスナーの皆もそうだって言ってくれてますよね」
「……うわ、なんか心のこもってないコメ……いや、そういうことなら、まあ、ともかく、この子は危険な魔獣じゃないんだね」
レネはキララに向けていた剣先を下げる。
それで、エモリスも一安心。
身構えていたキララも力を抜き、もうすんなよ、小娘、といった上から目線に見える顔になった。
「……でも、MPH目的の配信じゃないとすると……エモリスちゃん、ぷにょちゃんのかわいさを知って欲しくて配信してるって言ってたよね……ぷにょちゃん……? って?」
「今、キララが咥えている子です」
エモリスに言われ、レネはキララの口元に目をやる。
そこにまだ咥えられているピールスライムを。
「……スライムのこと……? エモリスちゃん、スライムをメインに動画配信してるんだ?」
「はい! かわいいでしょう?」
「へえ、面白そう!」
レネの目が輝いた。
「スライムの特性や弱点、戦術なんかをリスナーみんなに解説するわけね?」
「あー、まあ、そういうのもあるかもですけど、メインは愛らしさをですね……」
「エモリスちゃんの配信を見た冒険者達は、きっとスライムとより効率的に戦えるようになる……。うん、人の役に立つ、志の高いアドチューバ―だね、エモリスちゃんって!」
好感度が上がったらしい。
レネの声が和らぐ。
「エモリスちゃんがそんな立派なアドチューバ―なら、ますます無事に地上へ返してあげないとね。じゃあ、ついてきて」
と、レネはエモリスの手を取った。
「あ……」
急に手を握られ、エモリスはどきりとしてしまう。
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