第6話 底辺配信者さん、惨敗……! 惨敗……! 圧倒的敗北……っ! そして……
今度こそギラファぷにょちゃんを引ける……いや、引く!
まだ見たことのない珍しいぷにょちゃんを遂にこの手に……!
そんな期待に胸躍らせるエモリスは、再びエルフの店員に20万チェブラを支払う。
そして繰り返される惨劇。
「……こちら10個目はストローゴーレムとなります」
「びゃあああああああっ」
奇声を発し、エモリスは崩れ落ちていた。
手に握りしめるのはたった1枚残った金貨のみ。
最初は31枚の金貨を手に希望に燃えていたというのに。
「……10分で……10分で無くなっちゃった……わたしの30万チェブラ……!」
『さっきも見た光景』
『レアモンスター一個も引けてないしさっきよりひどい』
『全ロス? 30万チェブラが全ロス? 10分もたたずにか』
『デジャブを感じる』
『終わったな』
エモリスはうわ言のように呟いた。
「……ここで諦めたら……なにも達成できずに終わっちゃう……ギラファぷにょちゃんに会わなきゃ……! 今手に入れた封印球を全部買い取ってもらっても10万……。……それと手元に残っている1万を合わせても11万チェブラ……これじゃ10連できない……あとは1個ずつ2万チェブラで買うとするとギラファぷにょちゃんを手に入れられるチャンスは残り5回……!」
『まだやる気で草』
『やめとけやめとけ』
『地獄を見てもらう』
と、エルフの店員がにこやかに提案してきた。
「お客様、冒険者カードを利用したキャッシングにはご興味ございますでしょうか?」
『あ』
『あっあっまずい』
『エルフ鬼畜で草』
『マジで地獄を見てもらうことになる』
「キャッシング……? お金貸してくれるんですか!?」
「冒険者ギルドとの提携で、冒険者カードをお持ちのお客様にはカードでのお支払いというサービスを提供させていただいております」
「わぁ……!」
『あーあ』
『ようこそ沼へ』
『だめだこいつ』
「と、とりあえず10万貸してください……! こ、これで手持ちと合わせて21万、10連できます……!」
『これは悪手』
『死ぞ』
『なんか必死過ぎて引く』
と、ここでエモリス、ようやくコメント欄に目を通した。
これまでなかった量のコメントに目を丸くしながらも、その内の1つにハッとさせられたらしい。
「……なるほど、そうですね……これまでダメだったのは、きっと物欲センサーってやつです。あまりにも必死に欲しがってると当たらなくて、逆に無欲で引くと大当たりが出るっていう……。理解しました! これからはがっつかずに行きます。無欲で引きましょう」
エモリスは取り繕った澄まし顔になる。
人生に余裕のあるお金持ち、といった風情。
「そうですよ。こんなのはお遊びなんですから。変に選んだりせずぱぱっと引いちゃいますね」
「では、こちらの10個でよろしいですね?」
「ええ、はい。ぱっぱと鑑定してください。SR以上確定の演出も時間かかるだけですし、いらないです。どうせ遊びですし」
「左様でございますか。どうか楽しんでいただければ幸いです」
「ええ、楽しく遊ばせてもらいますね♡」
「……ストローゴーレム、ストローゴーレム……」
「あはは、これむしろ全部ストローゴーレムの方が嬉しいまでありますね!」
「……ストローゴーレム、ストローゴーレム……」
「あ、あ、い、いいですよ、いいですよぉ。この調子で全然いいと思います」
「……できたてスケルトン、ストローゴーレム……」
「いや、もう、ぜーんぜん? 全然ギラファぷにょちゃん欲しくないので、この流れまさに理想的では?」
「……血塗れエイプ、ストローゴーレム……」
「え、えへ、無欲! こんなのお遊びなんですから……!」
「ストローゴーレム」
「そ、そして、そして?」
「そして、最後。無欲の勝利、おめでとうございます、SRストローゴーレムです」
「遊びでやってるんじゃないんですよ、こっちはっ!」
エモリスは手渡されたSRストローゴーレム入り封印球を床に叩きつけた。割れなくてよかった。
更に、いやいやする子供のように床に転がる。
「……なんでぇ! なんで出ないですかギラファぷにょちゃん! もうお金ないなってしまったじゃないですかあ! びゃああああああ!」
じたばた。
そんなエモリスをにこやかに見下ろすエルフの店員は親密そうに語り掛ける。
「それではお客さま。次はいかがなされますか」
「次……?」
「はい、お客様。冒険者カードからのキャッシングを継続なさいますか?」
「え、わたし……まだ、まだ借りられるんですか……?」
ぱあああっとエモリスの表情が明るくなった。
『あ、これまずい』
『あっあっまずいまずい』
『これもうダメ人間じゃん……』
コメント欄が一斉にエモリス終了のお知らせを報じ始めた。
「じゃ、じゃあ、また10万お願いします! それとこちらの買い取りも!」
『あったまってきたな』
『やりやがった……』
『みてらんない』
『絶望しか見えねえ』
エモリスはコメント欄を確認し、一瞬怯む。
借金してまでやること……? とエモリスの中の悪魔が囁き始めた。もう諦めて止めよう? と。
が、そこは強い決意でもって踏みとどまる。
エモリスは芯の強い子だ。
「い、いいんです、これで! 今更やめられないという結論に至りました! そうでしょう? ここまで費やしてギラファぷにょちゃんの姿すら拝めないなんておかしいですよね? こんなの……間違ってますよね……? そう、間違ってるんです。だからわたしは誰もが笑い合える世界を目指します。これってそんなにおかしいことでしょうか?」
『その理屈はおかしい』
「ま、まあ見ててください! ギラファぷにょちゃんさえ引ければ何もかも帳消しですから……!」
そして炸裂するC(コモン)モンスター10連。
「ほわああああああああああああああっ」
「お客さま、継続なさいますか?」
エルフの店員が穏やかに促してきた。
『もうやめたげて』
『これ放送事故だろ』
「え、えへ、えへへ、10万お願いしま~す。次こそ出そうな気がするのでへへへっ!」
『こわれちゃった……』
『頑張って、エモリスちゃん……今、エモリスちゃん輝いてるから! みんな結末を見届けたいの!』
「は、はい! 最後まで……行きます! ふあああ! 来る? 来る? ……来~な~い?」
来なかった。
またも外れの封印球10個を抱えるエモリス。
「……ユルシテ……ユルシテ……」
『キンキンに冷えてやがる……』
『どうしてこんなになるまで放っておいたんだ』
『……いや、でもまだあの子の目は死んでないぞ!』
そう。
許しを乞いながらも、エモリスはぎゅっと拳を握り締め、まだ立っていた。
度重なるダメージに常人ならおかしくなっていただろう。
だが、彼女は耐えたのだ。
ここからエモリスの反撃が始まる。
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