第5話 底辺配信者さん、モンスターガチャに全財産ブッコみ覚悟完了する

「……と! いうわけで! たった今、冒険者ギルドに預けておいた虎の子の金貨25枚……っ! 全、額! 引き出してきました……!」

「お早いお戻りでお客様」

「最初に手持ちで持っていた6万チェブラちょっとと今下ろしてきた25万で、合わせて約31万チェブラ……! これ全部使っちゃったら、明日からわたしどうやって生きていけばいいのか……」

「準備は整ってございます。封印球をお引きになられますか」

「は、はい……手、手が……っ! 手がッ……震える……っ!」


 エモリスはがくがくしながら、金貨20枚をエルフ店員に渡す。


「こ、このお金……行方不明になった幼馴染を探すときに使おうとちょっとずつ貯めてきた大事なお金なんです……! どこかで捕まっていたり遭難して帰れなくなっていたら、冒険者を雇って一緒に助けに行ってもらおうと思って……薬草採取とか皿洗いのバイトでコツコツ貯めたお金で……な、なんだか、このお金が無くなったらもう二度とエモ―キンを助けられなくなっちゃうような気がして、こ、怖い……っ!」

「どのような由来のお金でも魔法商店は差別いたしません。金額の前にはすべて平等、由来は問いませんし、詮索することもございません。お客様もそのような金銭の来歴などを開示なさる必要はございませんので、どうぞ速やかにお支払いください」

「あ、はい……」


『そんな大事なお金を今どぶに捨てようとしている』

『幼馴染よりレアモンスターガチャだよなぁ!?』

『ああ~他人が良心とか自制心をぶん投げて破滅していく姿を見ると心にちゃにちゃするんじゃあ~』


「……はい、確かに。それでは、こちらの棚からお好きな封印球を10個お選びください」

「20万……20万使って10個……150個分の10……! ギラファぷにょちゃん……きっと絆はあるもん……絆の力を信じて……!」


 エモリスは封印球の並べられた棚の前に立つ。

 ずらりと並んだ魔法の玉。

 それらはエモリスの見ている前で、ごろり、ごろりとランダムに転がって、棚の中で位置を変えていく。

 棚の奥に置かれたため誰にも手に取られないまま売れ残る封印球が出ないよう、常にシャッフルされているのだろう。


「わたしの20万……家賃3か月分……! 全部スッたら……来月から住む場所が無くなっちゃう……!」


 エモリスは思わず1人呟いていた。

 そして、自分のこれからのこと、簡単な将来設計を描き出す。


「……い、いえ、大丈夫。だ、大丈夫……。だって、この10連でギラファぷにょちゃんさえ引ければ、残りの封印球9個を買い取ってもらって9万チェブラ返して貰える……今、手元に残ってる11万チェブラと合わせればそれで20万……うん、大丈夫! これならまだ3か月分の家賃代は残る……! そう思えばこれは安い買い物……!」

「どうされました? どうぞお選びを」

「わ、わかってます。し、慎重に選ばないと……」


 エルフ店員に促されて、エモリスは唾を飲み込んだ。


「これと……これと……でも、どの封印球も同じに見える……うう……なにかヒント……」

「肉眼ではなにが封じられているかまったく判別できないようになっております」

「あ、これ! これなんか他のより少し重い気がする……! これ! 絶対これ!」

「残り7つ、お選びください」

「……これは肌触りが若干ぷにょぷにょして……る? こっちは滑らかさが違う……かも」

「そちらをお選びですね。残り5つでございます」

「……待って? この封印球……中から波の音がする……? いえ、これはぷにょちゃん特有の這いずり音……?」

「残り4つでございますね」

「あ、あの……ちょっと齧っても……?」

「お言葉ですが、封印球は簡単に人の歯でへこませたり傷つけたりできるほど柔らかくはありません。相当強くお噛みになれば別ですが、その場合傷物としてお買い上げいただいた上、買取は不可とさせていただきます」

「あはは、ですよね……味も見たかったところだけど……えっと、叩くのはダメですか?」

「手で叩くくらいでしたら構いません」

「じゃ、じゃあ……これは中がぎっしり詰まっている音……こっちは、うん、なんかいい音……これ! と、これ! に、します!」

「残り2つでございます」

「あとは……ふんふん……この香りは……!」

「封印球は無味無臭でございます。それでよろしいですね?」

「……はい……。うう、もうわかんない……あ、でも! この封印球、最後になんかピンときました! 僕だよ、選んで、って言ってるような……! 決めた! 最後の1個はこれです!」

「かしこまりました。それではお客様のお選びになった封印球10個、早速中身を確かめることといたしましょう」


 エルフの店員はなにやら半透明の魔法装置らしきものを持ち出してきた。

 エモリスが訝し気にそれを眺める。

 エルフ店員は頷いた。


「こちらは鑑定人アプレイザー。水晶製の大型漏斗で中身は千里眼式解析装置になっております」

「漏斗……。この管の部分、丁度、封印球が通り抜けられそうな太さですね」

「仰る通りでございます。この漏斗の中に封印球を落とし込みますと、漏斗の中を通り抜ける際、封印球の中になにが封じられているのか、封印球を割らずとも中身を確認できる仕組みになっております。普段は魔獣使い達から封印球の買い取りをする際に使用しているものでございます」


 そう言いながら、エルフ店員は手早く順番にエモリスの選択した封印球を漏斗の中に落とし込んでいく。

 封印球は漏斗の中をくるくる回りながら中央の管の中に吸い込まれていった。

 と、


「ふわっ!?」


 エモリスは半身を引いて後退り。

 というのも、突然、水晶製大型漏斗が色とりどりにピカピカ光り始めたからだ。

 その色、金と緑と赤。

 さらに響き渡るファンファーレ。

 どどん、どどん、と花火のような音まで鳴り響き始めた。

 派手派手しく景気がいい。


「え!? え!? これなんですか!?」

「おめでとうございます、お客さま。これは、たった今中身を確認した封印球の中にSR以上の封印球が含まれていることを知らせる演出です」

「ええっ! てことは……きたあ⁉ ギラファぷにょちゃんきたあっ!?」


 エモリスは小躍りし出した。


「やった! やった! やっぱりそうだったんですね! 最後に選んだあの封印球……! あれが囁いてくれたんです! わたしの愛がギラファぷにょちゃんに伝わって、それにぷにょちゃんも応えてくれた……! そういうことなんですよ!」


 ふんはー。

 鼻息も荒く、エモリスはエルフの店員に訴えかける。

 エルフの店員は穏やかな笑みで、


「おめでとうございます、お客様。お客様の喜びは私共の喜びです。それでは、1つずつ確認してまいりましょう」


 そして、封印球を一つ一つ取り上げだした。


「こちらの中身はストローゴーレム、こちらはボーンゴブリン……」

「藁のゴーレム……かかし? ですか?」

「……こちらはシックウルフ、できたてスケルトン……」

「全部レベルは高くなさそうなモンスター達ですね」

「……ストローゴーレム、ストローゴーレム、ストローゴーレム……」

「ストローゴーレム被り過ぎでは……?」

「……菜食主義ワーグ、ウェブスパイダー。そして、最後の1つはSSRモンスターの……」

「SSR! はいっありがとうございますっ!」

「トロピカルワイバーンとなります、おめでとうございます」

「……」


 エモリスは目をすがめて、最後の1個の封印球を受け取る。

 んん~? と首を捻って、まるで老眼の老人のように封印球を手にしたまま遠ざけて観察。


「……ええと? なんです、これ?」

「おめでとうございます。トロピカルワイバーン、SSRモンスターになります」

「……ギラファぷにょちゃんでは……?」

「いいえ、トロピカルワイバーンで間違いございません」


 エルフの店員はにこやかに応えた。

 その時、エモリスは気付いていなかったが、いつの間にかエモリスの配信を見ている視聴者数は20人を超えている。

 コメントが流れていた。


『初めまして初見ですこれなんの配信ですか?』

『トロピカルワイバーン?』

『これ当たりだろ。こいつのウォーターブレス、継続ダメージ入って強いぞ』

『魔法商店のモンスターガチャいいの入ってるな』

『参考になる。俺も今度行こ』

『とりあえずこのトロピカルワイバーンは残してあとはクズだし買い取りかな』


 エルフの店員が穏やかに問いかけた。


「どうなさいますか?」

「全部買い取ってください」


『ふぁっ!?』

『トロピカル売った!?』

『なにやってんの!?』

『あーあ』

『もったいない!』

『あっまずい』


「……ギラファぷにょちゃんじゃなければ全部いりません!」


『ギラファスライムガチ勢』

『ギラファに親でも殺されたんか』

『俺がギラファさ!』

『いいわエモリスちゃん! その調子よ!』

『狂気を感じる』

『コメ欄も盛り上がってきた!』


「それではすべて買い取りで、こちら金貨10枚になります。……それでどうなさいますか? まだお続けになりますか?」

「はいっ! また10連でお願いします!」


 いきなりSSR引けたんだし、これならギラファぷにょちゃんも次あたり出るかもしれない。

 いや、出そうな気がする。

 そう思ったエモリスは、とてもいい笑顔で元気よく答えた。

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