銃はこの世界で神話級の武器だそうです

時雨トキ

プロローグ

第1話

 この異世界に来て、一ヶ月が経った。今日も食事を手に入れる為に狩猟を行なっている。


「息を止めるように、ゆっくりと狙うんだよ」

「はいです。にいに!」


 僕にそう言いながら微笑ましい顔を向けてくるのは、柚子だ。茶色の髪に二つ結びの五歳の少女。ピンク色のワンピースは一層、幼さを引き立てている。さらには上から羽織ったギリースーツは草になじんでいる。日本人特有の茶色い目は一層輝いている。ここは深い森の中全く人が通る気配がない。手に持っているのは狩猟用ライフル。


「大丈夫か?」


 柚子の顔色がよくないと察した僕は柚子に問いかける。


「にいに……息ができないの」


 顔を真っ赤にしながら息を止めている柚子は大変苦しそうである。


「息は止めなくて大丈夫だよ?」

「そうなの?」

「うん」

「すう……すう……はぁ……はぁ……」


 柚子は小さい背中を小さく上下させながら、狩猟用ライフルをゆっくりと下す。


「もう一回、狙いを定めて」

「はいです」


 柚子は再びゆっくりと構える。今回、狩猟する相手は鹿型の魔物で全長は僕の三倍くらいの大きさだ。こちらに気付いてしまうと攻撃されてしまう。


「チャンスは一回だよ」

「はいです」


 柚子は呼吸を整える。


「いくです」


 柚子は引き金に手を添える。うつ伏せ状態で肩にストックを当てながら支えている。僕が教えた構え方をしっかりと守っている。(これなら大丈夫だな)僕は微笑みながら柚子を見る。


バン!


 甲高い銃声が森の中を響き渡る。放たれた銃弾が一瞬で鹿型の魔物の脳天を貫く。鹿型の魔物は静かにその場に倒れた。


「よくやったな!」

「うん!」


 体を何回も宙に浮かせて嬉しそうにしている。僕は優しく柚子の頭をなでる。柚子は猫のように顔を崩していた。


「よし!血抜きするか」

「柚子も手伝う!」


 顔をゆるめている柚子に癒されながら鹿型の魔物に近づく。僕と柚子はナイフを持っており、すぐに作業に取り掛かった。(手慣れたものだな)僕は少しだけ口角を上げた。


「よし!食事にするか」

「うん!」


 最上級の笑顔。このためだけに生きていると思ってしまうほどに……。今日はお肉の串焼きを作ろう。広い場所まで鹿型の魔物を運び、小枝をいくつも拾って火をつける。銃弾は魔法属性を付与できることを知ってから銃を発砲することで火を起こしている。


「焼けたよ!」

「わぁーい!いただきます!」


 柚子はすごい勢いでお肉にかぶりつく。よほどおなかが減っていたのだろう。僕はにこりとしながら見入ってしまう。


「にいに!それ食べちゃうよ!」

「それはダメだ!」

「けちぃ~」


 柚子は頬を膨らませているが、容赦なくお肉にかぶりつく。


「あぁぁぁ!にいにぃぃ!」

「ははは、いただき!」


 僕はいたずらな笑みを浮かべる。


「むにゃむにゃ……ねむひ……」


 おなかがいっぱいになったのか、柚子は僕の膝の上に頭をのせて眠ってしまった。愛らしい顔をしている。


「元気にしていても分かってしまうなぁ……もっと僕に頼ってもいいのに……」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 柚子は優の膝の上に頭をのせて目をつむった後、少しだけ起きていた。この世界に来て不安だった柚子の心の穴を埋めてくれたのは優だった。茶色の落ち着いた髪型に茶色い目。無地のシンプルな朱色のトレーナに茶色いズボンはお似合いでかっこいい。羽織っているギリースーツも似合っている。そんな優は柚子を心配してくれている。(頼りにしているの……にいに)少しだけ表情が緩んだ気がした。

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