【番外編】男どもの性癖
「……普通なら絶対しない体験だった」
「マジか」
「さすがだな更衣。俺たちとはレベルが違う」
俺は自室でぐったりしていた。
疲労自体は二段変身ですっきりなくなったはずなのだが、精神的な疲労のせいか調子が戻らなかった。
相槌を打ったのは湯美の取り巻きズ。こいつらとはなんだかんだ、たまにこうやって話をするようになった。
感心してるふうなのはなんか若干イラっとするが。
「あのな。知らないからそんな呑気なことが言えるんだぞ」
土曜に更紗とラブホに行って、帰ってきたのが今日の朝。
少し休憩したあと今度は撫子と出かけることになった。
前からの約束を果たすためだ。向かった先は──わかってはいたけど同じラブホ。更紗公認とはいえなんかものすごく悪いことをしている気分になりつつ、昨日とは別の部屋を取って。
撫子の用意していたエロい下着に身を包んで女の子になった。
大事な部分がことごとく開いているそれは保護的な役割はまったく果たさないが、気分を盛り上げる効果は高い。エロいことをするのに邪魔にならないという意味でも便利だった。
あそこで何があったかは撫子の名誉のためにも語れない。
相手が撫子だということも伏せている。更紗の件だとでも勘違いするかもしれないし、もし気づいたとしても義理堅い奴ら(あの湯美の取り巻きを続けている連中だ)なので誰かに話したりはしないだろう。
ただまあ、女子としての喜びを身体に思いきり教え込まれたと言っておこうか。
撫子の繊細な身体はそれを敏感に受け止め、同調した撫子の心は与えられた責めのすべてに歓喜した。男が出しちゃいけないような声をこれでもかというほど上げ、汗もそれ以外のものもいろいろ分泌してしまった。
なんか更紗とする時の参考になりそうな気もするものの、
「俺はまともな性癖に戻れるか心配だよ」
「更衣がまともな性癖だったことってあったか?」
「お前ら。本当のことでももうちょっと配慮しろよ」
それはともかく。
「っていうか可愛い子から愛されるならそれはもう天国だろ」
「男の尊厳を全部奪われたんだぞ?」
「俺は湯美様の妹にされてぐずぐずにされるなら本望だが」
「ああ、そうか。お前らも筋金入りの変態だったな」
顔はけっこう格好いいのにどうしてこうなったのやら。
「湯美が女王様趣味だったら良かったのにな」
「例の仮説が本当でも、俺らが湯美様に会ったのは入学後だからな」
入学後に初めて会ってこの心酔ぶりもすごいな。
「子供の頃に出会えていたら別の異能になってたかもなあ」
「小さい頃の湯美が今の性格だったかはわからないけどな?」
「詰んでるじゃないか」
せめて一歳か二歳年下だったらもう少し可能性があったかもしれない。
実際、湯美ってどうしてああなったんだろうな。
あいつの欲求不満も解消してやれればいいけど、一度付き合うと離してくれなさそうなのが困る。撫子ならともかく湯美となると更紗がいい顔しない気もするし。
「お前ら、湯美の過去ってなんか知ってるのか?」
「大した事は知らないぞ」
「知っていても湯美様に無断で言いふらすことじゃない」
お前なら知る手段があるだろ、と言われて「まあな」と答える。
「俺だって本人に断りもなく記憶を読むのは気が引けるんだよ」
「お前意外といい奴だな」
「おいこら、今までなんだと思ってた」
「パンツ大好きな変態だが?」
言い返せないから困る。
それ言ったらお前らだって「殴られるの大好きな変態」なんじゃないのかという気はしないでもないが。
「ん? 湯美をドSの女王様に教育できたら上手くいくんじゃないか?」
「どうやって教育するんだよ」
「そりゃ、こう、お前らが這いつくばって『踏んでください』とか『ぶってください』って」
「普通はドン引きすると思うぞ」
確かに。
◇ ◇ ◇
「あたしたちの性癖が目覚めたきっかけ?」
「ああ。なんか参考になるかと思って」
翌日、ダンジョンの適当な階で小遣い稼ぎを終えた後のパーティ部屋。
着替えを終えてだらけつつ尋ねると、更紗は「別に面白い話でもないわよ」と微妙な顔をした。
「小学校三年生くらいの頃だったかな。プールの授業があったんだけど、ふと『最初から水着をつけていけば着替えが楽なんじゃない?』って閃いたのよ」
「あー。なんかオチが読めたな」
「だから面白い話じゃないって言ったでしょ?」
着替えのパンツを忘れた更紗は残りの授業をノーパンで過ごす羽目になった。
「その時さ、めちゃくちゃ恥ずかしかったんだけど……なんかこう、癖になるものがあったのよね。で、たまにこっそりノーパンで過ごしたりしてたら完全に目覚めちゃって」
「幼少期の体験というのは影響が大きいですものね」
わかるわかる、とばかりに頷く撫子。
昨日、俺を恍惚の表情で嬲っていたとは思えない落ち着きぶりである。というか普段より肌艶がいいような気さえする。
嬲られた俺のほうはぐったりしてるっていうのに女子は強い。……いや、俺も撫子のままだったらつやつやしてたのか?
「じゃあ撫子も子供の頃の経験?」
「ええ。わたくしの家は格式あるところでして、そのせいか古い本などもたくさんあるのです。勉強のためにも本を読むことは推奨されていたのですが……わたくしはある日、とある本で『亀甲縛り』という記述を見つけてしまいまして」
なかなかにマニアックだな。
まあなんというか、日本が誇る伝統的なエロ技術に「縄で女体を拘束する」というものがあって、その縛り方の一つだったはずだ。
なんでそんな記述が子供の読む本に、と言えば、昔の本はそういうの緩かったからというかそういう背徳的なものがある種高尚と考えられた面があるからだろう。吾輩が猫だったりする本を書いた作家の三角関係ものとか寝取られ性癖持ちが読んだら興奮すると思う。
「縄かー。ああいうのもいいわよね。恥ずかしいところ隠せなくなるから」
「ボンデージとはまた違った良さがありますよね。スタイリッシュでない分だけいやらしさが際立つと言いますか……」
「わかる。縄がぎちって食い込んでる感じも見てるだけでエロいわ」
縛りの話題で盛り上がれる女子高生たち。
更紗にとって撫子こそが運命の出会いだったんじゃないかって気がしてくるな。……まあ、俺もその撫子を引き合わせたっていう意味では少しくらいは役に立ったのか?
それはそれとしてちらちら見てくるのをやめて欲しい。言わんとしていることはわかるが。
「あれぜったい難しいだろ。覚えるのめちゃくちゃ大変そうだぞ」
「練習台ならここにいるじゃない」
「真似さまのご要望とあらばいつでもこの身体をお貸しいたします」
想像して興奮してくるからやめて欲しい。
裸とか薄着で縛るとなったらどうしたって肌に触れるわけで。そりゃもうそれだけでエロい。是非お願いします、と言いたくなってくる。
「でも、どうせ縛るならおっぱい大きい女のほうが」
せめてもの抵抗として敢えて憎まれ口を叩けば、更紗が「このクズ」とばかりに睨んできて、
「じゃあ湯美になった真似を縛りましょうか」
「おいちょっと待て」
「大丈夫です、真似さま。わたくしのブラを着けていただければ受け入れられるはずです」
撫子のブラだと湯美にはきついが、そこはキャミソールにするとかオープンタイプのブラを使えばどうにか……ってそうではなく。
「わかったよ。覚えればいいんだろ、覚えれば」
でも今すぐじゃなくてそのうちだ、ということでなんとか納得してもらった。
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