【番外編】初めてのデート(中編)
「今から何をさせられるかわかるか、更紗?」
「……うん、わかる。あたし、変態なことさせられちゃう」
衣料品店の試着室。
外からは店内BGMと人の声。カーテン一枚で仕切られただけの空間は決して安全・安心じゃない。
何かの気まぐれでいきなりカーテンを開けられたら? その時ちょうど、恥ずかしい状態だったら?
後ろから肩に手を添えている俺には、少女がごくりと息を呑むのがはっきりわかった。
「変態なことさせられたいんだよな?」
囁く声だって外に聞こえないとは限らない。
それでも。
「させられたい。……して、真似。命令して?」
「ああ。更紗。鏡に向かってスカートの中を見せるんだ」
「……ああっ」
震える手がワンピースのスカートを摘まむ。
恐る恐る、ゆっくりと持ち上げていく様は許しを待っているようでもあり、少しでも長く楽しもうとしているようでもある。
はあ、と、深いため息。
鏡に向かっているせいで頬が真っ赤になっているのが丸見えだ。
更紗は膝まで震わせながらスカートをギリギリのところまで持ち上げて、
「早くしないと人が来るかもしれないぞ?」
「~~~っ」
きゅっ、と、唇を結びながら最後の一線を超えた。
更紗は間違いなくノーパンだった。
何も身に着けていない下腹部を俺は少女と一緒に凝視して、そのスリルを共有する。
更衣室へ一緒に入る関係上俺も更紗になったままなので自分が露出しているような錯覚さえある。
さらに囁きかけて羞恥を煽ろうとしたところで俺はふと思いついて、
「あーあ、やっちゃったね、あたし?」
声がそのままなので口調を似せるだけで本物そっくりになる。
自分自身に囁かれた格好の更紗は潤んだ瞳を俺に向けると、にへら、と緩んだ笑みを浮かべて──かくん、と膝を折った。
小さな音を立て更衣室内で尻もちをつく少女。
気づいた店員さんが「お客様、どうかなさいましたか?」と声をかけてくると、俺たちは揃ってびくっとして、慌てて乱れたスカートを直した。
◇ ◇ ◇
「あー、もう。下手したらダンジョン潜るより疲れたわよ」
「やりすぎたのは悪かったって」
昼食は学園の敷地内にある中華料理店。
既に何度か来ているらしい更紗は看板娘(中学生)に「この人彼氏?」とからかわれていた。
さっきあんなことしたばかりだからか真っ赤になって応じる様子も可愛かったので看板娘にはGJと言ってやりたい。
注文したのはチャーハン、餃子、焼売、海鮮あんかけ焼きそば、それにエビマヨ。
二人でシェアして色んなものを食べようという提案であり、俺としても全く異存はなかったので即OKした。
「美味いなここ」
「でしょ? 我慢できなくなったらたまに食べにくるのよ」
学食でも中華食ってるのにさらに中華料理屋に来るとはこいつ、本当に好きだな。
「お前辛党なんだよな? ペペロンチーノとかああいうのも好きなのか?」
「もちろん。辛いのはなんでも好きよ」
なんだかもう長いこと一緒にいる気がするが、更紗とはまだ出会って一ヶ月ちょっとでしかない。
知らないこともまだまだたくさんある。
同調すれば一気に知ることもできるとはいえ、ここは少しずつ知っていくほうが楽しいだろう。
「あんたは? 何が好きなの?」
「がっつり系かな。特に肉」
「わかりやすい。っていうか男子なんてみんなそうなんじゃない?」
「いや、男子だって魚好きとかさっぱり派はいるだろ」
身体動かしてる男はだいたいめっちゃ食うし、そうなると質より量なのは共通してるけど。
「なるほどね」
うんうん頷いて笑った更紗はふと思い出したように、
「なんかこうしてるとほんとデートって感じね」
「普段の腹ごしらえと違ってのんびりできるもんな」
「そうそう。周りにいる人も少ないしね」
敷地内だけにお客さんの中には生徒もいるが、別に付き合ってることを隠す気もないのでそこは構わない。
「午後は買い物の続きをしてからお茶でいいか?」
「いいわよ。……そっちでスイーツ食べるならデザートは頼まないほうがいいかしら?」
「お前いつも目いっぱい動いてるんだからそれくらい平気だろ」
「そっか。じゃあそうしよっかな」
俺たちはデザートにゴマ団子と杏仁豆腐を注文してしっかり味わった。
俺がゴマ団子を一個渡すと更紗は杏仁豆腐を「あーん」してくれて、なんか周りの視線が痛かったことは付け加えておく。
◇ ◇ ◇
ダンジョン探索グッズを物色したり消耗品を買い足したりした後、喫茶店で休憩ついでにケーキとコーヒーを飲んで。
たっぷり休日を堪能した俺たちは店を出たところでぐっと伸びをした。
「ああ、楽しかった?」
「楽しんでもらえたならよかった」
「なによ。あんただって楽しかったでしょ?」
気を遣ってもらうより一緒に楽しめたほうがいい、と言う更紗に俺は笑って、
「楽しかったに決まってるだろ。可愛い女の子とデートだぞ」
「……そ、そう。まああたし可愛いもんね」
わかりやすく上機嫌になるのいいなあ。
更紗はそこから俺を物陰に引っ張っていくと「でさ、真似」と声をひそめて、
「このあと、どうしよっか?」
まるで誘うような問いを投げかけてきた。
◇ ◇ ◇
寮生活をしている男女はどこでエロいことをしているのか。
彼女ができたばかりの俺にとってこれは注目度が高く、かつ重要な事項だった。
普通ならお互いの部屋が定番だが、二人とも寮生だとどっちの部屋にしても周りに同級生がたくさんいる。物音や声を殺したとしても二人で部屋に入ってしばらく出てこない時点で「……やったな?」という雰囲気になるのは間違いない。
となると候補はパーティ部屋。同じパーティのメンバー同士ならこれはなかなか安パイだ。ベッドが仮眠用のためあまり大きくないのと他のパーティメンバーと出くわすかもしれないのが玉に瑕だが。
ダンジョンの中とか空き教室とかトイレとかはまあ論外。
普通のカップルは俺たちみたいに変態じゃない。というか俺たちだっていきなり屋外はハードルが高すぎる。
……さっきの露出プレイ? あれは更紗がスカートをめくっただけだしセーフ。
となると、残されるのはただ一つ。
「ラブホか」
「ラブホね」
学園の敷地内には交際している男女用のそういうホテルまで存在する。
認識阻害の結界とかいう謎の機構(?)により近づくほど周囲から注意を向けられなくなる、当然建物自体もかなり遠巻きに見るしかないというそこを実際に間近で眺めるのは俺も更紗も初めてだった。
外見は普通のお洒落なシティホテル。
「今更だけど、いいのか更紗?」
「今更でしょほんと。……まあ、あたしはわりと満足してるんだけど」
刺激的な露出プレイしたもんな。
「あんたはまだ満足してないでしょ? どうせなら、ね?」
「お前ほんとにいい女だよな」
「でしょ? もっと褒めていいわよ?」
どきどきしながら中に入って部屋を選ぶ。
「鏡張りの部屋とかあるのか。これにするか?」
「んー。今日はもう鏡を堪能したから印象が薄くなるかも」
「じゃあ普通の部屋にするか」
「そうね。冒険して失敗したら一生思い出しそう」
ちなみに認識阻害は俺たちにも効いており、通路で誰かとすれ違ったものの誰なのかさっぱり記憶に残らなかった。
「これ、露出プレイにもちょうどいいわね……?」
「そういう使い方は想定してないんじゃねえかなあ」
ちなみに更紗はシャワーを浴びた後、パンツを穿いて出てきた。……興奮したけど、どっちかっていうと逆じゃね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます