【番外編】パンツの洗い方
更紗とパーティを組むようになって困ったことがある。
どうやってパンツを洗えばいいのか。
寮の各階には洗濯乾燥機が複数台設置されている。何日かぶん溜めた洗濯物をそこへ適当にぶち込むのが今までの俺のやり方。他の奴らも特に気を遣ってる一部以外はだいたいこんな感じのはずだ。
洗い始めたら終わるまで部屋に戻っていてもOK。
回収し忘れていても「おい、さっさと回収しろよ」とか言って誰かが(文句と共に)持ってきてくれるという気楽なシステムなのだが。
──俺の洗濯物に女子のパンツが混ざってたら絶対騒ぎになる。
俺がパンツ使いなのは知られてきているが、それにしたって女子のパンツだ。
変態扱いされる程度ならまだいい。心無い者が盗む可能性だってある。たかがパンツだろう、って言う奴は童貞の執念を何もわかっていない。多くの奴は怒られるのが怖くて何もしないだろうが、我慢できなくなった奴が衝動的に事を起こさないとは言い切れない。
っていうか俺の洗濯物と一緒に洗うのはだめだろ、なんとなく。
そんなことしたら一気に「俺のパンツ」感が漂ってしまう。ただでさえ俺の部屋に置いているわけで、これ以上俺の生活臭を染みこませたら変身に差し支える。
使えなくなったパンツを大量に所持していたらそれはもう単に「女子のパンツをたくさん集めている変態」だ。
そもそも女子のパンツって普通に洗っていいのか?
考えれば考えるほどわからなくなった俺は睡眠に支障をきたして授業に遅れかけた。
「どうしたらいいと思う?」
「知らないわよ、あんたの変態っぽい洗濯事情とか」
進退窮まって唯一のパーティメンバー(忍野撫子はまだこの時点では仲間になっていなかった)に相談してみたところこの返答。
更紗としてはガチでどうでもいいらしく、少女は白米と餃子、春巻き、焼売(全て単品購入)という不思議なメニューを黙々と食べ進めている。
「あんたの物になったんだから自分で管理しなさい」
「だからその管理で良い方法がないか相談してるんだろ」
俺がもらったとはいえ元・更紗の所有物。
俺以外の男子の手に渡るのは嫌なはずだと主張すると嫌そうな顔でため息をついて答えてくれた。
「クリーニングサービスでも使えば?」
「なんだそれ?」
「学内にクリーニング屋さんがあるのよ。お金はかかるけどプロだからしっかり仕上げてくれるし、他のお客さんに渡したりしないから安心でしょ」
ちなみにパンツは洗濯ネットとか使って他の洗濯物と混ざらないようにするのが普通らしい。
俺の下着なんか適当にぶち込んで終わりなんだが。それを告げると「男子の下着と一緒にしないでよ」とジト目で言われてしまう。
「なるほどな。クリーニングか。更紗と湯美の服もあるしちょうどいいな」
「そうね。でも、あんたの服と混ぜるんじゃないわよ」
「そんなことしねえよ。俺の服をクリーニングに出すとかもったいないし」
良いことを教えてもらった俺は昼食を早めに終えると急いで寮に戻り、鞄に洗濯物を詰め込んだ。
クリーニングサービスは校舎の一角にひっそりとあった。これは知ろうとしなければ(行こうとしなければ)気づかない。
利用者はやっぱり女子が多いのか、一人女子の先客がいた。
他のスタッフさんが声をかけてくれて受付をしてくれる。
「初めてですか? でしたら登録を行いますのでこちらの機械にスマホを──ありがとうございます」
学内のシステムと連動しているので利用履歴も学内アプリ内に記録される。
本人確認もスマホや学生証でするので間違いが起こりづらい。
「ここってやっぱり女子の利用が多いんですか?」
「ええ、そうですね。でも男子の利用ももちろん大歓迎ですよ」
「そうですか、ならよかった」
「男の子はお洒落に無頓着だったりしますからね。身嗜みに気を遣うと女の子からの評価も──」
笑顔で応対してくれていたスタッフさん(女性)は俺の鞄から洗濯物を一つ一つ取り出して硬直。
「……えっと、これは全部あなたの?」
「あ」
ごく普通の男子が初めての利用で女物の服をごっそり。
怪しい。怪しすぎる。俺は慌てて「これは変なあれじゃなくてですね」と弁解。
なんか逆に不審な目で見られつつ、
「異能に必要なんです」
「なんだ、そうだったんですね。これは失礼しました」
「あれ」
めちゃくちゃあっさり納得された。
「あ、本当だ。これはまた珍しい異能ですね」
「あ、そんなことまでわかるんですね」
「ええ。生徒データと連動していますので」
もちろん女装が趣味だからって犯罪になるわけじゃないので基本的には咎められないのだが、盗品だったりすることもあるから注意しているらしい。
じゃあ、俺もあそこで嘘をついていたら怪しまれたわけか。
便利だけど怖いなここのシステム。
「確かに、そういうことでしたらご自分で洗うのは難しいでしょうね」
「そうなんです。自分の服なら適当に洗うんですけど」
「ふふっ。全部持ってきていただいても構いませんよ?」
「ははは」
一着いくらの会計方式なのでそんなことしたら懐が一気に寒くなる。
「それから、念のため周りの目には注意したほうがいいかもしれません」
「はっ」
先に店内にいた子は会話が聞こえていたらしく平然としていたが、いつの間にか後から入ってきていた女子がいて、その子はこっちを不審そうに見つめていた。
「違うんだ。この服と下着は異能に必要なんだ」
なんだこれ。
入学してきた頃は異能を知られるのが嫌で仕方なかったっていうのに、今となっては「俺の異能はパンツを穿くと発動します!」と札でも下げて歩きたい気分だ。
◇ ◇ ◇
「へー。じゃあクリーニングでなんとかなったんだ」
「ああ、更紗のおかげだ。ありがとう」
「まあそれくらいはね。あたしの姿でぼろい服着られても困るし?」
放課後、狩りをしながら報告すると更紗も思ったより喜んでくれた。
「お前もああいうところ使うのか?」
「ううん。部屋の洗濯機でだいたい済むし」
「部屋の洗濯機……?」
なんのことだ? としばらく考え込んでから「ああ!」と気づいた。
洗面所になんかでかい機械が置いてあった気がする。
風呂上がりに着替える服を置くための台くらいにしか思ってなかったので認識から外れていた。
正直にそれを告げると「あんたね」とジト目で睨まれて、
「もうちょっと身の回りのことをちゃんとしなさい。だからモテないのよ?」
「お前だって彼氏いないだろうが」
「うるさいわね。あたしはモテないんじゃなくて相手を選んでるだけ!」
実際、顔はめちゃくちゃいいので男子からはけっこう人気がある。
絡んだことのある奴は「やめとけ。性格が悪すぎる」と口を揃えるが、まあ夢見がちだったり無謀な奴っていうのはいるもので。
いちいち聞かないから知らないが、俺の見ていない時に告白されていたりとかするかもしれない。
それにしても告白ぜんぶ断るってどれだけだよ。
将来、こいつの彼氏になる男の顔が見てみたいと思う俺だった。
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