銃とパンツ売買
「ああ、あたしの剣~♪ なんて名前付けようかしら」
「名前って太郎とか一郎とか?」
「エクスカリバーとかデュランダルとかあるでしょ」
「さすがに名前負けするだろそれは」
刃物店ではさらに、更紗が酷使したサバイバルナイフを新調、予備武器としてコンバットナイフを購入した。
俺も念のためコンバットナイフを一本見繕っている。「あたしとお揃いにする?」とからかわれたが無視して一まわり大振りのものを選んだ。
自分や湯美の身体で使う可能性もあるのでグリップが小さすぎると扱いづらい、というのもある。
「さて、次は銃を見ましょうか」
「急にテンションが普通に戻ったな」
「銃は剣ほど好きじゃないのよ。殺しに行く気が強すぎるっていうか、いかにも『武器です』って見た目してるから」
「ああ、遠くから撃たれたら心の準備も何もないしな。機能美はあるけど品がない」
「でしょ? 死ぬならせめて刀でぶった斬られるほうが『ああ、死ぬんだ』って覚悟決まるわよね」
便利だし撃つ分にはいいが、撃たれるのは嫌だし見て楽しいのは刀剣類。
意外とこいつとは趣味が合うのかもしれない。
と言いつつ、
「これはこれで良いものよね」
「だな」
ガンショップにはまた刃物店とは違った物々しさがあった。
弾を抜いたうえでケースに入った実銃の数々。トイガンの類は「紛らわしいから」と一切置いていない。
値段も物によっては日本刀に引けを取らない。機械的な武器特有の物々しさと重厚感にはさすがの更紗も少し息苦しそうだ。
今持ってる拳銃は購買で買ったから俺もここに来るのは初めてだ。
しばらく眺めていると店主が寄ってきて、
「冷やかしか? それとも買う気があるのか?」
「ああ。予算と目的に見合えば」
「どんな銃が欲しいのか言ってみな」
銃もダンジョン攻略用によく売れるので開発競争が進んでいて種類が多い。
正直困っていたので嬉しい申し出。
「ええと、小さい──こいつくらいの女の子でも使えて、拳銃より威力の出るやつが欲しいんです」
「なんだ、プレゼントか?」
「え、ほんと?」
からかいの声に軽く頬を染める更紗。喜ぶな。こんな高い物ほいほいプレゼントできるか。
「いや、使う時は俺がこいつくらい縮むんで」
「あ? ……ああ、なるほど。お前がパンツで変身するっていう新入生か」
「もうこんなところまで広まってるんすか!?」
絶望する。
俺が打ちひしがれていると店主は「まあいいじゃねえか」となんの慰めにもならない言葉をかけてきて、
「そうだな。扱いやすくて威力が出るとなるとやっぱりPDWか」
「なんでしたっけそれ。サブマシンガン?」
「PDWはPDWだ。代表的なのはこれだな」
見せてもらった実物は確かに女子でも使えそうなサイズ。
それでいてサブマシンガンのように連射が可能。これならオーガが相手でもパワー負けしないだろう。
値段は──高い! でも今の懐具合なら十分買える額だ。
と、そこで更紗はくいくいと俺の袖を引いて、
「ねえ。なんであたしの身体で使う前提なの?」
「湯美の身体だと力がなさすぎて武器が重いんだよ」
異能で出てくる弓は実物より明らかに軽くなってたし、あいつらのパーティだと固定砲台的な運用がメインだろうからいい。
更紗と連携するには俺もある程度動き回れないとだめだし、そうなると湯美の身体じゃ息切れしてくる。
「たぶんお前の身体で射撃訓練した方が戦える」
「へー。なんだ、やっぱりあたし超強いじゃない」
ふふん、とない胸を張るリーダー様。
ツッコミを入れたいのはやまやまだったが、実際こいつはめちゃくちゃ強い。
ノーパンなのとキツい性格がなければみんなの人気者だっただろうに。
「おっさん、これをください」
「おう。セットで買うなら弾も安くしとくぞ」
「マジで!? じゃあ千発、いや二千発くれ!」
「あんた、そんなに買ったら絶対重いわよ」
「お前も人のこと言えるか?」
西洋剣を背負ったままの更紗は気まずそうに目を逸らしながら「そうね」と言った。
「一回、荷物を置きに帰りましょうか」
「置くならパーティ部屋か」
寮の部屋だとダンジョン潜る時に取りに行くのが面倒だし防犯面でも不安がある。
パーティ部屋ならメンバー以外入れないので安全だ。
俺がやったみたいに一回メンバーになれば入れるが──仲間を加える時は注意しましょうって話。でないと湯美みたいにパンツを盗まれたりする。
俺たちは無事パーティ部屋のロッカーに武器を収めて、
「なんかもう面倒だから明日にしない?」
「何日授業サボる気だ」
「一生遊んで暮らせる金をダンジョンで稼げばいいのよ。そしたら学歴なんか関係ないじゃない」
「一理あるが、今日できることは今日済ませようぜ」
「しょうがないわね。じゃあせめてご飯食べて休憩してからにしましょ?」
敷地内にはいくつか飲食店もある。
金も入ったし、学食じゃなくてそっちに行くことにした。
「なにがいい? やっぱり中華か?」
「あたしの好みがわかってきたわね。でも、今日はあんたが決めていいわよ」
「マジか。じゃあステーキにしようぜ」
「ああ、さすがに学食にはないもんね」
学食の煮込みハンバーグも美味いがあれは完全に別の料理だ。
「でも、女の子連れてステーキって。あんたぜったいモテないわよ」
言いつつ、更紗はがっつりステーキセットを注文。
「お前も男にモテなさそうだが」
「残念。あたしは可愛いからちゃんとモテるわ」
「俺だってお前以外の女には気を遣うっての」
言い返しつつ、俺は更紗より五十グラム多いステーキをセットで注文した。
鉄板の上でじゅうじゅう音を立てるステーキを二人で頬張るのは至福の喜びだった。やっぱり肉はいい。身体に力が漲ってくる。
デザートのアイスまできっちり食べてから、午後はこまごましたものを買い求めた。
明かりが設置されていない区域に備えた照明装備や床に転がして使えるケミカルライト。
食事時までに学園に戻れなかった時用の保存食。
多少のダメージではびくともしない丈夫なリュックサックなどなど。いろいろ買ったらけっこうな額になって懐が一気に寂しくなった。
高い武器も買ったのでまた貧乏に逆戻りだ。
「ダンジョンの攻略ってもしかして自転車操業か?」
「そうよ。……まあ、どんどん下に潜っていくスタイルじゃなければお金は貯まるでしょうけど」
装備の買い替えやメンテナンスにも金がかかるので稼いだ額がそのまま収入になるわけじゃない。
億万長者を狙いたければ欠かさずダンジョンに潜るか、あるいはドラゴンのような強力なボスを倒さないといけないわけだ。
できることからコツコツと。
将来の成功に備えて一歩ずつ先に進んでいくしかない。
◇ ◇ ◇
「よし、っと」
夜の自室にて、俺はコツコツを内職をしていた。
机の上にはクリップ式のタグが複数。表面には油性ペンで更紗と湯美の名前を書く。
それからどうするかというと、
「これをこうして……」
洗濯済みのパンツにひとつひとつ挟んでいく。
湯美から買ったパンツとブラが計四セット。……四だと縁起悪いからもう一つ売ってもらえないか頼んでみるか。
更紗のも一枚しか持ってなかったが「自分と同じ顔の女が毎日同じパンツ穿いてていいのか?」と脅し──もとい、頼み込んで一枚一万円で売ってもらった。こっちは計五セット。
増えたパンツ。
男子寮に置いておくにはアレなのできちんとしまっておかないとだが、どれが誰のパンツかわからなくなると困る。そこで名前を書いたタグを挟むことにしたのだ。
「さすがにこう、直で名前を書くのは抵抗あるしな」
小学校低学年の女子じゃないんだし。
それにしても十枚ものパンツが並ぶのは壮観だ。ここまで来るとコレクションの域。めちゃくちゃ変態っぽいが、これも異能を使うため、ダンジョン攻略のため。
しかし、俺の部屋に女子のパンツがあるって広まったら本気で盗まれそうだな。
俺の部屋から女子のパンツが盗まれたとして、学校側に訴えたら対応してくれるだろうか。
「してくれない気がするな、なんとなく」
鍵つきの金庫でも買うか? 金庫ごと盗まれたら意味ないよな?
とりあえず二枚ずつくらいパーティルームに避難させることにした。
◇ ◇ ◇
「なあ、
「売らねえよ。なんだその噂」
朝、授業に出るつもりで朝飯を食っていたら一年男子から声をかけられた。
「なんだよ。女子からパンツ買ってるんだろ? 俺たちにも分けてくれよ」
「一万で買って一万で売っても俺が得しないだろ」
「じゃあ二万ならいいのか?」
「ちょっと本人たちに確認してみるわ」
更紗と湯美にスマホでメッセージ送ったらそれぞれ『死ね』『なら湯美が直接売ったほうが儲かるよね?』との返答。
パンツ転売作戦、失敗。
「本人と直接交渉したら可能性があるかもな」
「マジか! ちょっと挑戦してみるわ」
その後、馬鹿正直に「パンツ二万で売ってください!」と頭を下げた奴が更紗からめっちゃキレられ、女子からつるし上げに遭うという痛ましい事件が起こったが俺はたぶん悪くない。
「あんた、変な噂流すの止めなさいよね」
「待て、俺も流されて困ってる側だぞ」
昼休みに更紗と合流するとすぐ文句を言われた。
最近いつも一緒にいるせいで「やべー女とやべー男がつるんでる」と噂になっているらしいがまあ事実なので仕方ない。
「でもさ。パンツ売って一万とか二万になるならモンスター倒すより効率よくね?」
「ん……まあ、一日一枚二万で売ったら月平均六十万ね」
「めっちゃ稼げるじゃん」
もはやそれだけで暮らしていけるレベル。
「一日二枚なら百二十万か」
「どうやって一日二枚のパンツを生み出すのよ」
「お前、律儀に一回穿いたパンツを売る気か?」
「あんたたち変態ってあたしたちが穿いたパンツだから興奮するんでしょ?」
そうだけど俺は変態じゃねえ。というか変なところで変態に対する理解を見せるな。
「ねえねえ、
「付き合ってるように見える?」
パーティメンバーをことごとく追い出した凶暴女だが、俺が頻繁に話しているせいで多少は印象が和らいだのだろうか。
女子の一人が不意に俺たちに話しかけてきたものの、話題が地雷。
じろりと睨まれた彼女は「んー」と考えてから笑った。
「わりと見える」
「マジで?」
「マジか」
俺的にはまあ、胸は小さいし性格も悪いがこれだけ可愛い女の子相手ならご褒美だが。
「お前、俺と付き合って嬉しいか?」
「嬉しいわけないでしょ頭湧いてんの?」
「だよなあ」
話しかけてきた女子はこのやり取りを聞いて「仲良いね」とくすくす笑った。
一番頭が湧いているのはこの子かもしれない。
「更衣くんが女の子からパンツ買い取ってるって本当?」
「少なくともあたしは売ったわ」
「おいバラすんじゃねえよまた変な噂が立つだろ」
「もう手遅れだから大丈夫だよ。でも、そっか。本当なんだね」
何やら考えるようにする彼女に「売ってくれるのか?」と尋ねると更紗に足を蹴られた。
「うん、まあ、恥ずかしいけど、異能に必要だから集めてるんでしょ? ……ちゃんと買い取ってくれるって言うならちょっと考えるかも」
「ひょっとしてパンツって意外と金で買えるもんなのか……?」
「頼んできたのがイケメンでも普通はドン引きよ」
「まあ、
異能の発動条件だって言えば常識外の行動でもわりと許されてしまう。
じゃあ俺がパンツ男扱いされたのはなんだったんだよ、って話だけど、あれは入学したてて学園の常識とかわかる前だった。
逆にそうやって先に刷り込まれた認識はなかなか変わらなかったわけだが、役に立つとわかった途端「まあ異能なら仕方ないか」みたいな風潮になってきたわけだ。
更紗のノーパンだって同じ。
こいつは周りに詳しい条件秘密にしてるけど、異能が絡んでなかったら俺はこいつを完全に変態扱いしている。
「じゃあ、パンツ一万円で買いますって募集したら結構集まるかな……?」
「そしたらパンツ買うためにダンジョンで稼がないとね」
「私も友達に聞いてみてあげよっか?」
ちょっと本気で募集してみようかと思ったその時、横から制止の声がかかった。
「待て。女子の下着を金で売り買いするなんて何を考えているんだ」
なんだ。今更正論言ってくる奴が現れたぞ。
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