戦利品とお買い物
「やー、大収穫だったねー」
「あんたねえ……。あたしたちが助けなかったらどうなってたかわからないわよ?」
「湯美たちだけじゃ倒せなかったかどうかもわからないよー?」
湯美たちのパーティルーム内。
俺は隅のほうに座ってぐったりしていた。元に戻りたいが更紗のほうが体力あるので変身したまま。上には仮眠用の毛布をとりあえず羽織っている。
更紗本人は部屋に戻ってまともな服に着替え済み。
「元気だなお前ら」
「だって褒められたら嬉しいじゃない!」
オーガを解体してドロップを回収した後、俺たちは学園まで帰ってきた。
ゲームみたいにコマンド一つじゃない。重い荷物を持って戻るのはかなり大変だった。当然、モンスターだって襲ってきたし。
湯美たちと役割分担しなかったら倒れてたかもしれない。
なんとか三層くらいまで来たところでオーガ討伐を確認した先生・先輩方が応援に来てくれて無事帰還。
帰った後は報告や各種手続きをして(俺以外)軽くシャワーを浴び、他の生徒も参加しての祝勝会。
「すごいなお前ら! 一年生だけでオーガを倒したんだって?」
妙に褒めてくれる先輩がいたりして会はけっこう盛り上がった。
酒が飲めたらもっと楽しかっただろう。残念だが飲酒は十八歳まで法律で禁止されている。
先輩方がおごってくれると言うのでいつもより高いメニューを頼みなんだかんだ盛り上がって、寮の消灯時間を過ぎたあたりでぼちぼち解散に。
騒いだせいで報酬の割り当てなんかが終わってないので湯美たちのパーティルームにこうして集まったわけだ。
ちなみに湯美の取り巻き二人はしばらくぐったりしていたが、今は元気に湯美のマッサージをしている。
「俺は報酬のほうが気になるな」
「そうね。ほら湯美、さっそく報酬の相談をしましょ」
「そうだねー。とりあえずきっちり二等分でいい?」
オーガの内臓等の生モノは学園側に処理を依頼した。
多少費用は取られるものの、部位によって冷蔵、冷凍、乾燥など適切な処置が違う。腐ったら売れなくなって大損なので専門家に任せたほうが結果的にお得だ。
売るのは湯美が独自のルートでやってくれるとのこと。
俺と更紗はそういうの得意じゃないのでお任せ。そのうえで二等分──二つのパーティで均等に分けてくれるというのはなかなかいい話だ。
「そっちのほうが人数多いのにいいのか?」
「別にいいよー。湯美たちは特に壊れたモノとかないし。スパチャもあるし」
「待った。あたしたちも映ってるんだからそっちも分けなさいよ」
「しょうがないにゃあ、いいよー」
売ってから半分を受け取るか、それとも今この場でざっくりした額を受け取るか二択を迫られた俺たちは顔を見合わせてから「今すぐもらう」ほうを選んだ。
湯美が独自ルートで売ると一般的な売価より高くなるはずだがその分時間がかかる。
多少損をしてでも即金が欲しい。
金が手に入れば装備を新調できるからだ。
「おっけー。じゃあとりあえず計算するねー」
手に入れた品をリストアップし、現在の取引価格を横に記載していく。
それを合計して半分にすると、
「百万超えてるぞ、おい……!?」
「ま、それくらいは当然よね?」
更紗と二人で分けても五十万以上。
確かに死ぬような思いをしたんだからそれくらい欲しいところだが、行きに倒した雑魚のドロップ分はこれとは別に収入になる。
高校一年生で月五、六十万の収入。
「これだよこれ。こういうのが欲しかったんだよ俺は」
「めっちゃ嬉しそうねあんた。気持ちはわかるけど」
最初の頃はどうなるかと思ったが、ダンジョンはほんとに儲かるらしい。
もちろんオーガはボスだから別格だ。
雑魚狩りじゃここまで極端な金は入ってこないしもう一回アレと戦うのもしばらく勘弁して欲しいが、こうなるとドラゴン狩りの報酬にも期待したくなってくる。
強い敵を狩るなら強い武器が必要。
俺もこの報酬でさらに新しい銃を買うつもりだ。十層のボスと戦うには十層まで行かないといけない。深く潜るほど雑魚からの収入もよくなるんだからここは初期投資と思って奮発する。
「こーくんと更紗ちゃんはなんか『冒険してる』って感じで生き生きしてるねー」
「なによ、あんたは違うの?」
「湯美は目立つのが一番、安全が二番だよ?」
「その二つが矛盾してるんだよなあ……」
金の相談が終わると更紗はさっさと席を立った。
「じゃあね、湯美。言っとくけどそいつはあげないわよ」
「わかってるよ、引き分けだもんねー」
うちのリーダーは俺のことをちらっと見た後、目だけで「変なことするんじゃないわよ」と告げてから去っていく。
更紗を見送ったところで、湯美はふう、とため息をついて、
「こーくん。今日はありがとね、助けてくれて」
「なんだよ。珍しく素直だな」
「湯美はわりと素直だと思うけどー? 更紗ちゃんと違って」
「あいつはめちゃくちゃつんつんしてるからな……」
あれはあれで味があるのかもしれないが。
「更紗ちゃんにもいろいろあるんだよ」
「例えばどんな?」
「本人に聞きなよ。湯美だって本気で恨まれたくはないし」
教えてくれないから他の奴に聞いてるんだが。
別に無理に聞かなくてもいいかと思い直して、
「ところで、できたらパンツ売ってくれないか? ローテするのにもう何枚か欲しいんだよな」
「湯奈になる回数を増やしたいってことでしょ? いいよー。上下セットで一着一万円でどう?」
「買った!」
せっかくなので三セット買った。
◇ ◇ ◇
翌日の起床は十時前だった。
気分は爽快。シャワーを浴びてから学食で朝飯にする。
ギリギリ注文できたモーニングを味わっていると絶妙に眠そうな更紗が「……はよー」とやってきた。テーブルに載せられたのは中華粥。
通常メニューにもそんな朝飯っぽい食い物があったか。
「あんた妙にすっきりした顔してるわね。昨夜はめちゃくちゃ疲れてたくせに」
「ああ、それな。実は面白いことを発見してさ」
昨夜、更紗の姿から元の姿に戻ると身体についた擦り傷なんかが全部消えた。
疲れは取れなかっのだが、そこで俺はふと「もう一回変身したらどうなるんだ?」と思った。
で、買ったばかりの湯美のパンツを穿いてみたところ気分すっきり。
「なによそのチート」
「俺もそう思う。でもまあ、たぶんこれ条件があるんだろうな」
「例えば?」
例えば一回俺に戻らないといけない。次に変身するのは別の人間でないといけない。穿くのは洗濯済みのパンツじゃないといけない。
「あと、これも俺の意識的な問題だろうから、休憩中じゃないと駄目かもな」
要するに落ち着いた状態で新たに変身するなら「万全の更紗たち」になれる。
でも、誰かの身体で戦った後、その気分が残ったままもう一回変身しても同じ状態に戻るだけ。だからいろいろ条件をつけて意識をリセットしないといけない。
これに少女は腕組みして「戦闘中には使えなさそうね」とうなった。
「あんたをこきつかっては変身させれば無限に戦えるかと思ったのに」
「俺は召喚獣でも使役モンスターでもないからな?」
「下僕なんだから似たようなものじゃない」
くすりと笑いながら俺の足を軽く蹴ってくる更紗。
どうせなら上から踏んで欲しい……ではなく。
「今日は予定通りでいいのか?」
「ええ。ぱーっと買い物に行きましょ。もっとモンスターをぶっ殺すためにも」
今日は二人で買い物である。
◇ ◇ ◇
学食を出て向かったのは学園の敷地内にある商店街。
生徒に教師、学園スタッフ──けっこうな人数がここで暮らしているので、それを見込んでいろんな店が出店している。
食料や日用品だけじゃなくダンジョン攻略用の品ももちろん豊富だ。下手に外の店に行くより品揃えがいいのでOBやOG、さらには自衛隊員なんかが買いに来ることもある。
「まずはなにから買うんだ?」
「んー、やっぱデカい買い物から済ませましょうか」
言うが早いか、女王様は俺の手首をぐっと掴んで引っ張った。
飼い犬のリードを引くような気軽さだが、ひょっとしてこれ一応デートか?
「ふふふ……っ♪ 楽しみっ♪」
鼻歌まで飛び出しそうなほど上機嫌な少女の視線の先には刃物店。
物騒すぎる。
女子高生と二人で刃物見に行くとかやっぱこれデートじゃないわ。
「刃物ってことはナイフか? ……じゃないよな」
「当然。買うなら長物よ」
包丁からサバイバルナイフ、コンバットナイフ……とにかく刃物ならなんでも扱っている店。
店内は刃物特有の色合いと輝きに満ちていて見るからに物騒だ。それなのに若い男女が複数人、客として普通にいるのがさらによくわからない。
そこに新たな客として加わった小柄な少女は迷わず店の奥のほうを目指した。
ガラスケースに収められているのは古来からの製法で作られる人殺し用の刃物、つまりは日本刀だ。
俺も男子として「うわ、かっけー!」とは思うのだが、それ以上に目をキラキラさせているのは隣にいる美少女のほうで、
「やっぱりいいわよね、日本刀。西洋の剣と違った渋さがたまんない」
「こういうの好きなのか?」
「そりゃあね。刀で化け物を殺しまくるのとか憧れるわ」
制服を着た更紗が日本刀を武器にゴブリンやガーゴイルと大立ち回りを繰り広げる。
「似合うだろうな」
「本当? ありがと。あんたもたまにはいいこと言うじゃない?」
「たまには余計だ」
しかし日本刀はさすがに値が張る。
ダンジョンの発生後、異能のせいでこういう近接武器を使う好事家が増えて刀の値段も下がってきたらしいが、それでも数十万の世界だ。
当然、腕のいい刀匠の品は値が張る。
オーガから得た収入のほどんどをつぎ込むことになるのはなかなか思いきりがいる。
加えて、
「実際にこれで戦うってなるとなかなか難しいだろ」
「そうよね。格好いいから、で選んだら後悔するかもだし」
手に馴染む、よく斬れる、といった要素も重要になる。
「あんたもあたしの身体は良く知ってるでしょ? 意見出しなさいよ」
「いいけど、なんかその言い方エロいな」
「……あんた一回、変態男にでも襲われたほうが女の子の気持ちわかるんじゃない?」
などと言いつつ俺たちが悩んでいると店長っぽい男性が寄ってきて、
「一年生がこの時期に日本刀は珍しいな。ひょっとして昨日オーガを狩ったっていうパーティか?」
「そうよ。木刀を使ってたけど簡単に折れちゃって」
「こいつ馬鹿力だから武器が耐えられなかったんですよ……って痛えな!? 本当のこと言っただけだろ!?」
「だからって言い方があるでしょうが!」
「君達、もう少し静かにしてもらえるか?」
「すみません」
二人して謝った後、店長さんからアドバイスを受けた。
「敵の硬さもそうだが、使い手の腕力が問題か。……なら、日本刀より西洋剣のほうがいいだろう」
「やっぱりそうなるわよね」
日本刀は「斬る」武器だが西洋剣は「叩き斬る」武器。
要するに半分くらい鈍器だ。そのぶん丈夫に作られていて、多少乱暴に扱っても問題ないし、連戦でも威力が落ちづらい。
「日本刀は鋭い分、多少の刃こぼれや血液の付着で簡単に切れ味が落ちる。硬い敵を斬るには向いていない」
「ドラゴンを狩るならどっちがいいかしら?」
「鱗の間を貫く技量があるなら日本刀も悪くはないだろうな」
無暗に売ろうとしないのは好感が持てた。
さすがは学園で商売してるだけのことはある、と年上に向かって失礼な感心をしながら更紗と一緒に頭を悩ませ、
「リビングメイルとかスケルトンも倒すこと考えると西洋剣のほうがいいんじゃないか?」
「そうね。……ああ、日本刀格好いいのに」
「西洋剣も西洋剣で良さがあるぞ」
「もちろんそっちも好きだけど」
西洋剣は隣のガラスケースに入っていた。
見本なので奥にも在庫がある、ということでそっちも見せてもらい、いくつか試し振りまでしたうえで更紗が選んだのは、
「
「いいわね。うん、これにするわ」
「毎度」
片手剣だと丈夫さが足りない。両手剣だと取り回しが悪くて難儀するかもしれない。
また、いざという時に片手を空けてぶん殴れるように……という非常に攻撃的な理由からこの剣が新たな更紗の相棒となった。
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