パーティ結成と挑戦状
「今日は中華じゃないんだな」
「中華、っていうか辛い系はストレス解消したい時用。今日はそこまでイラついてないから別のにしただけ」
女子と同じテーブルで話しながらの夕食。
思えば昨日も湯美と一緒だったし、これはこの学園に来て正解だったかもしれない。
ちなみに俺は煮込みハンバーグ定食、更紗はミートドリア+単品のロールキャベツだ。カロリーを消費するからか更紗もよく食べる。
「ねえ、あんたってさ。兄弟とかいたりする?」
「ん? ああ、ほとんど縁は切れてるけどな」
姉貴は男に貢がせて暮らしてる遊び人。
妹は親戚に引き取られてから音信不通。
「姉貴は死なないでくれればそれでいいけど、妹には幸せになって欲しいな」
「……そう」
妙に素っ気ない反応。
こいつのことだから「あんたの人生、意外に波乱万丈ね」くらい言うかと思ったんだが。
それならそれでさっさと話を流すことにする。暗くなるのは嫌いだ。
「親も二人ともいないからさ。金が必要なんだよ」
更紗に勧誘されてなかったらソロ狩りで生計立てないといけないところだった。
「だからってパンツ売ろうとするのは止めなさいよ」
「お、調子戻ってきたか。そうだな、先生に睨まれたらやりづらくなるもんな」
「先生にバレなくてもやるなって言ってんのよ」
ジト目を送ってくる更紗。そうそう、そうでないと調子が狂う。
「俺も一つ聞いていいか? なんでドラゴンを狙うんだよ」
ドラゴン。簡単に言えば竜。
言わずと知れた「めっちゃ強いファンタジーの化け物」。大きな翼と尻尾を持ち、口からはブレス──メジャーなところだと炎を吐き出す。怪獣並みのサイズがあることも多く、人間なんか踏みつぶされただけで死にかねない。
普通に考えると軍隊の出番だが、ダンジョンの中にいる限りは戦車も戦闘機も突入できない。
新宿ダンジョンだと第十層のボス。
ボスも他のモンスターと同じで復活する。ドラゴンはたしか約二ヶ月周期。前回は三月末に倒されたらしいので、次に復活するのは約一ヶ月後だ。
「二ヶ月で復活するってことは年に五、六回は倒されるんだろ? 手強い割に『すげえ!』って感じにはならなくないか?」
「んなわけないでしょ。優先討伐対象の一つなのよ?」
復活する度に有志が協力して倒しているらしい。
「慣れてる人だって気を抜けば殺される。それくらい強敵なんだから狩れば名前が売れるわ」
「有名になってどうする」
「あたしは強いってみんなに思い知らせる」
「なるほどな」
軽口が出始めていた更紗がまた変な感じになってしまった。
何か事情があるんだろう。言いたくないなら聞く気はない。
理由が「ただ目立ちたい」でも「目立って何かをしたい」でもやることは変わらないわけだし。
「しょうがない。報酬は山分けだからな」
他の有志とも協力するわけだから山分けの山分け。
それでも馬鹿みたいに儲かるのがドラゴン討伐でもある。
これに更紗はさっぱりした笑顔を浮かべて、
「あたしが二人になれば勝率も二倍よ」
「小学生の計算かよ」
答えながらも俺は意外と悪くない気分だった。
無事に再加入制限の二十三時間が経過し、俺はあらためて更紗とパーティを結成。
パーティ部屋を借りたことで合流や着替えもぐっと楽になった。
それからあっという間に二週間が過ぎ──。
◇ ◇ ◇
俺たちは忙しい日々を送っていた。
授業に出てダンジョンに潜って。授業に出てダンジョンに潜って、たまに授業をサボってダンジョンに潜って、ダンジョンに潜ってダンジョンに潜ってダンジョンに潜って。
下に進むほど戦闘はどんどんきつくなる。
単純に敵の強さが増すのがひとつ。
第三層は
また、狩りに来るパーティ自体が少なくなる。狩り残しが多くなるので二体、三体と同時に戦うシチュエーションが増えていった。
「湯美は体力がなさすぎる。お前二人のほうがやっぱ安定するんじゃね?」
「そうね。強い飛び道具があれば違うんだろうけど」
昼休みや探索後に学食で相談するのも恒例だ。
「ああ、そうか。木刀も使えるんだから飛び道具だって別に用意すりゃいいのか」
「そ。例えばボウガンとか、あとは銃とか?」
外国に比べると武器の規制は厳しいが、俺たち探索者はかなり自由に購入・所持できる。
もちろんダンジョンあるいは学外で使ったら即逮捕だし外に出る時の荷物検査も厳しいが。
「拳銃くらいなら購買でも売ってるわよ」
「銃っていくらくらいするんだっけ。……五万くらいからか。買えなくもないな」
貯金を切り崩す羽目になるが、初期投資と考えれば悪くない。
銃なら変身してない状態でも使えなくはない。
ドロップ品の売価は今のところ下の階層に行くごとに五倍~十倍程度。第四層なら一体倒で約三百円だ。粘れば生活費+αくらいは稼げる。
「足りなかったら貸してあげるわよ」
「利子は?」
「あたしの足を舐めたら無利子にしてあげる」
パンツ見えそうだしお得だな。……こいつの場合ノーパンだからもっとお得か。
「その時は是非スカート穿いてくれ」
「なんなの? 馬鹿なの? この変態」
この後、更紗に「五万ならスマホより安いじゃない」と言われた俺は愕然とした。
スマホより安い銃。なんか金銭感覚が狂う。
まあ、俺たちのスマホはダンジョン内で使える高いやつだっていうのもあるが。
「こーくーん? 湯美なら銃くらいプレゼントしてあげるよー?」
「出たな変態」
「変態はひどくないー? っていうかお互い様だよね?」
急に柔らかいものを押し付けてくるの、こいつじゃなければご褒美なのに。
湯美とはなんだかんだ「ことあるごとに絡まれる」くらいの関係に落ち着いついた。たぶん更紗も似たような気分なんだろう。
気を許すと「変身してえっちしよ?」となるのでつかず離れずがちょうどいい。
「そいつはあたしの下僕よ。欲しかったらあたしに言いなさい」
「じゃあ、どうしたらこの子くれるー?」
「あげない」
取り付く島もないとはこのことである。
「
「湯美って呼んでよこーくん。……むー、じゃあ湯美が更紗ちゃんより優秀だって示すしかないか」
「なによそれ、具体的にはどうするつもり」
「そうだねー。例えば五層のボスを倒すとか?」
九層から上のボスはドラゴンほど復活周期が長くない。
復活予定はアプリから確認でき、それによると五層ボスは明日の放課後復活だ。
組んでからまだ五層に降りていない俺たちは当然、その姿を見たことがない。
眉をひそめた更紗がタルタルのかかった唐揚げ最後の一個を箸でざくっ! と突き刺す。
それを見た湯美は笑みを深めて言った。
「勝負しないー? どっちが先に五層を攻略するか」
「面白いじゃない。その勝負、受けて立つわ」
こいつ挑発に弱すぎだろ。
◇ ◇ ◇
妙なことになった。
ボスの復活するタイミングでの第五層攻略競争。
もう少し考えてから行動して欲しい、と、自分のことを棚に上げたことを思いつつ相棒に確認を取る。
「いいか? そもそも俺は『湯美に先を越された場合はこうする』なんて言ってないからな。あいつらが勝手に言ってるだけだ」
「そんなことわかってるわよ。無理して進む気はないわ」
「じゃあなんでそんなやる気満々なんだよ」
「だって、タダで負けるのも癪じゃない」
普段制服のまま潜っている更紗だが今日は学校指定のウェア姿だ。
手には木刀。さらに予備を背負い、腰には多目的ナイフまで差している。
「あんたこそ準備万端なくせに」
「ボスと戦うかもしれないなんて言われたら警戒するだろ普通」
俺は湯美に変身した上で制服を纏っている。
ただしこの制服は更紗の予備だ。しかも上着なしでブラウスは夏服用。スカートは調節できるからいいけどブラウスは胸のせいで閉じない。
第一と第二ボタンを無理やり止めたせいでへそが丸見え状態。
男性の守衛さんがちらちらこっちを見ては女性の守衛さんに睨まれている。
それから、俺の腰には新兵器。
授業をサボって購買に行き、思い切って購入してきた拳銃だ。
扱いやすさと女の手でも無理なく持てることを重視した初心者向けの品。それでもスリングショットとは雲泥の威力。
「五層の敵はガーゴイル。それからスケルトンウルフよ」
一層、二層の敵を蹴散らしつつ更紗が説明してくれる。
ガーゴイルは石像に擬態するモンスター。翼を持った悪魔のような姿で戦闘時は空を飛ぶ。さらに、擬態している間は石みたいに硬いので生半可な攻撃は通らない。
スケルトンウルフはそのまんま狼の骨が
「空を飛ぶ敵と地面から来る敵。めちゃくちゃ気が散るから気をつけなさい。それからガーゴイルはこっちの攻撃に対応して硬化することもあるから」
「面倒なのはわかった」
浅い階層に用はないのでさっさと第四層へ。
下り階段までのルートはよく使われるので敵が少ない。
危なげなく最近のメイン狩場まで到達し、最初に出くわしたのはリビングメイル。
「昨日までのあたしと同じだと思わないことね!」
制服より身軽な上に露出も若干ながら増えている。
関節に突き入れられた木刀の先端が鎧のパーツを分解、ねじって跳ね上げるように弾き飛ばせば鎧全体が溶けるように消えていく。
次いで出会ったウッドゴーレムは弱点どうこう言うまでもなくばきっと折られて消滅。
コツを掴んだ少女は俺が動くまでもなくばんばんモンスターを片付けていった。
「ああ、気持ちいい♪ あんたもやる?」
「俺に露出癖はない」
「露出じゃなくてモンスター退治のほうよ!」
三十分くらいドロップ品を集めてから一番奥の下り階段へ到着。
「いよいよ五層か」
「ええ。あんたの買った玩具の出番よ」
「あんまり試し撃ちもしてなくて不安だけどな」
銃の難点は弾代。五万払って終わりじゃなく弾も買わないといけない。
一発あたり五十円近くするので無駄撃ちはできなかった。
「三層より上のモンスターじゃ撃つほど赤字よね」
「四層でも一発で倒せなきゃ赤が出そうだぞ」
階段を下りる間は心の準備をする貴重な時間。
敵が上って来るケースも稀だがあるので完全には気が抜けない。
会話を交わしつつも注意してたどり着いた通路には今まで同様に照明が満ちている。ただし通路は今までと違って 人工的な石造りだ。これは人が整備したわけではなく最初からこうだったらしい。どういう意味があるのかは今なお不明。
ボス復活まではまだ時間がある。
更紗はしばらく雑魚狩りをすると宣言。メインルートから外れて歩いていくと通路の両端に石像が立っているのを見つけた。ガーゴイルか。単なる装飾という可能性もあるが。
「近づくと襲ってくるんだよな?」
「離れた位置から撃てばいいじゃない」
「なるほどな」
弱点は頭か、翼の付け根。
後者はピンポイントすぎて狙いづらいので左の頭を狙ってトリガー。耳が痛くなりそうな音と共に弾が発射され、石像の頭部を破壊。右の石像が化け物に変わって仲間の敵を討とうとしてくるも──。
「待ってました!」
更紗が何度かぶっ叩くと消滅して、四層よりさらに高額なドロップ品を残した。
売却価格は千円越え。ここまで来れば銃の代金も現実的にペイできそうだ。
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