第3話 聖女追放パーティー
今日は俺の、十二歳の誕生パーティーがある。
それはすなわち、本物の『聖女』を追放することになる日だ。
俺が前世を思い出してから、二年が経過した。
時が過ぎるのは早いものだ。
俺は国王夫妻と一緒に、来賓からのあいさつに応じている。
俺の席の後方には、国務大臣のダルフォルネがスタンバっている。
誕生パーティーは予定通りに進行する。
挨拶の列が無くなったタイミングで――
主役は遅れてやってくるとばかりに、聖女ローゼリアを引き連れたゾポンドートが得意満面の笑みで現れ、俺に誕生祝の口上を述べる。
ゾポンドートは、一目で悪人と分かるような容姿をしていた。
様々な悪い噂のある人物に相応しい、絵に描いたような悪徳貴族の姿だ。
その後ろに控える聖女ローゼリアとは、これまでに何度か引き合わされている。
何故か奴は、会うたびに俺を睨みつけてくる。
今日もあいさつをしながら、俺に敵意の籠った眼差しを向けてくる。
容姿だけは、聖女そのものなのだが――
俺には、底意地の悪さを隠しきれずに漂わせている、性根の腐った女に見えた。
まあ、睨みつけてくるから、そう見えるだけかもしれない。
さて、この物語はここから始まる。
来賓のあいさつが終わったところで、ダルフォルネが満を持して声を上げた。
「皆様! 今日の良き日の乾杯をするその前に、私は告発せねばなりません!!」
そこからダルフォルネは、ゾポンドートが自分の手の者を王子の正室にするため、偽物の聖女をでっち上げて、国を欺いたとの持論を展開していった。
難癖をつけられたゾポンドートも黙ってはいなかった。
「なにを! 私は嘘などついては、い、いや確かにあの時は……そ、それとこれとは関係ないでは――うぅ、だ、黙れ!! ええい、お前と言い合いをしていても埒が明かん。国王陛下!! 信じて下さい。私は決して嘘などついてはいません!!」
冷静沈着に聖女は偽物だと主張するダルフォルネに対して、狼狽しながらも怒り狂うゾポンドートの対決が展開される。
ゾポンドートは、『この娘は本物の聖女だ』と主張するが、国王と王妃はダルフォルネの主張を是としている。
俺はそのやり取りを見ながら、あれ? と思った。
何か忘れている。
ああっ! そうだ!!
あらすじでは『王子』が『聖女』に対して国外追放を言い渡す展開のはずなのだが、俺はダルフォルネから自分の片棒を担ぐようには頼まれていない。
聖女を追放する段取りなども聞かされていない。
俺がやること何もないぞ。
本編は読んでいないが、あらすじでは『王子が追放する』となっていたはずだ。
小説の王子はどのタイミングで、どう動いていたんだ?
そういえば……
俺をこの世界に転生させたメアド何とかいう神によれば、小説を基に世界を創ってみたが、不安定だったので追加で補修した。
――とか言ってた気がする。
自動補修機能を付けた、だったかな?
これがその補修部分だろうか?
俺はわざわざ聖女を追放するつもりはない。
だから――
それであいつが代わりに、聖女追放に動いているのか?
「だ、だが、落ち込み始めた農作物の収穫量が、劇的に改善したのは事実!! 魔物の被害も発生しておらんだろう? それこそがローゼリアが聖女であるという何よりの証!! ローゼリアが偽物だというのならば、説明がつかんぞ!!!」
俺が上の空で考え事をしている間に、ゾポンドートが冷静さを取り戻し、反撃に転じていた。
しぶといな。
「農作物の収穫量の改善の説明、ですか――ははっ、至極簡単なこと。貴殿の連れている偽聖女ではなく、本物の聖女がこの国に『聖女の加護』を付与していたという、ただそれだけの事。良い機会です、この場を借りて皆様に紹介しましょう!!」
ダルフォルネがそう言うと、一人の少女が登場する。
少女は俺と同い年くらいだろう、ぼさぼさの髪に質素な服を着ている。
「この方こそが真の聖女!! 我が領内で発見された為、私の養女にいたしました。名前はソフィ。彼女は三年も前から聖なる加護で、この国を守り続けていました。このことは国王陛下にも、そして王子殿下にも、内々にお伝えしていた事実です」
ゾポンドートが連れているローゼリアは、豪華なドレスに高価な装飾品で着飾っている。ゾポンドートの趣味なのだろうが――どこか品が無い。
対してダルフォルネの連れてきたソフィは、質素な服で着飾ってはいないが、よく見ると清潔感が出るように身綺麗にしている。
ソフィの格好はダルフォルネの演出かなと、他人事のように眺めていたが――
ふと思いついたことがある。
この世界が小説の設定通りなら、ローゼリアが本物でソフィが偽物だ。
それは判っている。
俺は聖女本人には何の興味も持てなかったし、そもそも、聖女に頼り切った国づくりというのは間違っていると思っていた。
だからこそ、居なくなる予定の聖女などに構わずに、これからどうすればいいのかを考えて準備をしてきた。
しかし、ここで運命を変えて――
聖女を追放せずに済むのなら、それはそれで良いのではないか?
小説の展開を根本から否定することになるが――
メアド神からは特に制限は受けていない。
あいつがこの国から追放されない方が、俺は楽できる。
そう出来るなら、そうしたほうが良い――
俺はこの異世界で、のんびりと暮らせればそれで満足だ。
ことわざ通りに、わざわざ買ってまで苦労をしょい込むことは無い。
俺が考え事をしているうちに、物語は進みローゼリアを偽物として国外追放するという話に発展している。
俺はここで、一石を投じてみることにした。
「お話中に申し訳ありません。ですが事は私の婚約者に関すること、そしてこの国の未来にも大きな影響を及ぼすことです。私の意見を申し上げていいでしょうか?」
俺は国王に許可を取ってから提案を口にした。
「どちらが本物の聖女であるかを確かめるために、聖女の力の検証を行ってはいかがでしょう? 聖女の加護の効力は一年です。ローゼリアに聖女の祈りを控えさせて、数年様子を見ましょう。そうすれば、どちらが本物か自ずと解かるでしょう」
聖女という存在のことは、すでにある程度は調べてある。
聖女の力は二種類で『聖女の加護』と『聖女の癒し』。
聖女の力の一つである『聖女の癒し』を使わせれば検証はより簡単なのだが、聖女の力は有限なため、その力の使用は法律で定められている。
特に癒しの力は、厳しく使用が制限される。
病人やけが人が殺到し、その全てを治していた聖女は早期に力が枯渇した。という事例が過去にあったらしく、現在では癒しの力の使用自体を禁止しているのだ。
王族が率先して禁を破れば、収拾がつかなくなる恐れがある。
という事情で、検証の為に力を使うことは出来ないが――
逆に力を使わない検証ならどうだろう?
俺はパーティー会場を見渡す。
提案を聞いたダルフォルネが、青ざめていた。
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