第12話
「おいひい!」
「それは良かった」
ユリアンさんが連れてきてくれたお店で、サンドウィッチを頬張る。色鮮やかな野菜のサンドウィッチは、普段食べ慣れない物だ。
食事を終えて食後の飲み物を飲みながら、ユリアンさんはこの後どうするか話し始めた。
「いつもの買い物は最後にするとして、マリー君は何か見てみたいものとかあるかい?」
「えーっと……」
初めて来た街なので、何があるのか分からない。けれど、よくよく思い返してみる。
「……あの、リアムさんが言ってたの。ふんすいがあって、色んなお店があるんだって」
「ああ、あの広場の通りか。良いよ。少し人が多いかもしれないけれど」
「やったあ!」
『良かったな、マリー』
どうやら連れて行ってくれるらしい。嬉しくて、つい表情が緩んでしまう。
ユリアンさんはお会計を済ませると、手を繋いで件の場所へと移動した。
食事をした店から目的地までは、さほど離れていなかったようで、すぐに噴水のあるところまで到着した。
噴水はこの辺りのランドマークとして活用されているようで、沢山の人たちがここで休んだり、待ち合わせ場所として利用したりしているようだ。
「そうだね、マリー君が見て楽しめそうな店があるのは……こっちの方かな」
『そっちには何があるんだ?』
「子供用の服とか、玩具とか、それに魔道具とか色々だ」
「本当にたくさんのお店があるんだね」
「大人でも迷ってしまうくらいにね」
そう言いながら手を引いて、店の前をゆっくりと歩いて行く。
村で店と言えば、普通の家に看板が立てかけてあるような物ばかりだったが、街の店はそれとは全然違う。鮮やかな彩りの建物だったり、ガラス越しに何を売っているのか一目で分かるようになっていたり。見る物全てが新鮮だった。
「ここ、おようふく屋さん?」
あるお店の前で足を止める。その店のガラスから見えるのは、お洒落な帽子ばかりだ。
「いや、ここは帽子屋だ」
「ぼうしだけ売ってるの?」
「そうだ。せっかくだから見てみようか」
『マリーに似合うのもあるかもな!』
お店の人がびっくりしないように、ネロは私の服にこっそり隠れると、ユリアンさんがお店の扉を開いた。カランカラン、とドアベルを鳴らしながら店に入る。ドアベルが鳴ったからか、奥から「いらっしゃいませ」と上品なお店の人がやって来た。
「子供用の帽子は取り扱っていますか?」
「ええ。あちらに」
そう言って案内された場所には、他の帽子よりも一回りも二回りも小さい物が集められていた。成程、確かに子供用の帽子らしい。
『なぁなぁ! あの、青いリボンの! マリーに似合うんじゃないか?』
「これ?」
ネロが指摘した帽子を、ユリアンさんが手に取る。シンプルなベレー帽に、アクセントとして青のリボンが後ろについている。お店の人に被せてもらったそれは、確かに今の服装にもよく似合っていた。
「かわいい……」
特に、後ろでひらひらとなびく青いリボンが。他にも色んな帽子があり、色々と試着をしてみたが、やはり最初に被ったこのベレー帽が一番可愛い。
私がこの帽子を気に入ったのを察したのか、ユリアンさんが「じゃあ、これを」と店員さんに告げた。
「あ、えっと、良いの?」
「気に入ったんだろう? 良いよ」
『マリー、似合ってるぞ!』
「そう? えへへ……」
すっかり気に入ってしまった帽子を買ってもらい、自分でも機嫌が良いな、と思ってしまうほど浮かれている。街にこれただけでも良かったのに、こんなに楽しいことが続いて良いのだろうか。
この後も、皆で色々なお店を見てまわった。きらきらした魔石をアクセサリーに加工して売っているお店や、ちょっとした魔道具を売っているお店など、どこも見ているだけで楽しい。
だが、楽しい時間もあっという間に過ぎていく。流石に体力が保たず、一度噴水がある場所まで戻る。活気があったお昼よりも、人はまばらになっていた。
「ふあ……んん、お店がたくさん……」
「流石に歩き疲れてしまったね。ここで、少し待ってなさい」
「はい……」
どうやら、ユリアンさんは飲み物を買ってきてくれるらしい。大人しくネロと一緒に噴水の近くで待つ。待っている間、うとうと、と舟を漕ぐ。そんな私の前に、黒い影が覆い被さる。誰かが立っている。
「よう、お嬢さん」
「…………だあれ?」
顔を上げれば、知らない男性が二人。周りには、その二人以外誰も見当たらない。
『おうおう、怪しい奴らだな』
「おじさんたち、ちょっと困ってるんだ」
「そうそう、ちょーっと金に困ってるんだ」
「だからお嬢さん、俺たちを助けてくれるよなぁ?」
「……ユリアンさんを待ってるから」
『そもそも、マリーはお金持ってないし!』
ネロが男たちの周りを飛び回る。しかし、ネロの声は聞こえていないようで、あっさりと手で振り払われた上に、当たり所が悪かったのか、噴水の装飾部分に叩きつけられてしまったようだ。
「ネロ!」
「あん? 誰も居ねぇじゃねぇか」
「それじゃあ、ちょっとおねんねしとこうな?」
嫌な予感がする。両親に捨てられたときも、似たようなことを言われたのだ。「少しの間、眠っていて頂戴」そう言われて、意識を失い、麻袋に入れられて捨てられた。
「や、やだあ!」
「おら、大人しくしてろ!」
これから何が起こるのか、なんとなく想像ができてしまい、必死に抵抗する。ぱさり、と帽子が落ちる。しかし、私はまだ子供。激しく抵抗しても、大人にとっては大したことはない。抵抗も虚しく、あっさりと担ぎ上げられてしまう。
「手荒な真似はしたくなかったんだがなぁ……抵抗するお嬢さんが悪いんだぜ」
そう言われた直後、ゴンッ、と頭に何かぶつかる音が聞こえ、私はそのまま意識を失った。
『――待って。待ってて。すぐにそっちに行くから。僕の名前を、呼んで、』
意識を失う直前、ネロの声が聞こえたような気がした。
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